第23話 未冬、涙の中間成績発表

「……わー、16位だー。こんな上位、はじめてだー」

 未冬が虚ろな目で立ち尽くし、乾いた声で呟いている。

「だって前の学校ではいつも30番台後半だったんだよ。わたしって、すごいなー、やれば出来るんだなー」

 誰かに聞いて欲しいとかではなさそうだ。敢えて言えば自分に言い聞かせる感じで。


 そんな未冬を、他の三人は哀しそうな目で見ている。


 後期の中間試験結果が貼り出されているのだ。ただし実技系は飛翔科と地上科で別々の内容だったため、今回の結果には反映されていない。

 純粋に、一般教科のみの点数だった。


「あの、未冬さん。うちのクラスは全部で16人しか…」

 見かねて口を出そうとしたマリーンを、エマとフュアリが止める。

「そっとしておけ。あいつは今、傷を必死で癒やしているところだ。まさかこんな”ダントツ”最下位だなんて、誰も想像してなかったからな」

「そうだよ。わたしだったら、ここで機関銃を乱射しててもおかしくないよ」


 現実逃避を続ける未冬を見ながら、二人の肩が小刻みに震え始めた。

 く、くっ、くくっ。

 そして。

「あははははは!」

「ひどい、この点数、酷すぎるよ未冬。やめて、冗談でしょ、お腹が、お腹が痛い。腹筋が切れる」

 二人揃って爆笑し始めた。

「もう、止めなさいよ二人とも」

 そういうマリーンも苦笑いしている。


「う、う、うー」

 未冬が呻き始めた。さすがに半泣きだ。

「あ、ごめん。つい、面白くて言い過ぎた」

「そうだよ、心配しなくても、これくらいの馬鹿なら普通にいるよ。きっと、どこかに」

「だから、慰めてあげてっ」

 うわーっ、と、髪を振り乱し、ついに未冬が叫んだ。

「なんで、ねえ、なんでこうなったの。誰か教えて。なに、最下位って!」


「お前を尊敬するよ、未冬」

 急に真面目な顔になって、エマが言った。

「あれだけ授業中寝ていて、おまけに宿題もせず。でも、これだけ点がとれてるって、お前、結構頭いいかもしれないぞ」

「え、そうかな。いや、はは。照れる」

「よし。その調子で補習も頑張れよ」

「えーん。やっぱり」


「え、でもエマちゃんの名前が無いよ」

 未冬が名簿の下の方を見ながら言った。

「どこ見てる。もっと上だよ。上から見てこい」

 そんな筈、ないでしょ、もう。見栄張って。未冬は鼻で笑う。

 1位 アミエル・マスタング

 2位 エレナ・マスタング

 3位 ミハル・タチカワ

「へー、みんな頭いいんだね」

 前期から、ほぼ毎回この三人がトップ3を占めているのだ。

 4位、4位。

「ごめん、エマちゃん。わたし、ちょっと目がかすんでるかも」

「はあっ?」

 4位 エマ・スピットファイア


「どうして。どうして、エマちゃんがわたしより上位にいるの?」

「お前、それ本気で言ってるのか?」

「もちろんだよ」

 断言しやがった。


「エマさんは元々、成績良かったですよ」

 マリーンが不思議そうに言った。

「え、だって後期の最初の試験では、わたしと同じくらいだったのに」

 それはな、エマが拳を握りしめて言った。

「転校してきたお前の世話が忙しくて、全然勉強できなかったからだっ」

 未冬は、ぽん、と手を打った。

「なるほど」

「納得したかっ!」

「エマちゃん、ありがとう。大好き」

「お、おう」

 エマの顔が少し赤くなった。


 そのほか、マリーンが9位、フュアリが11位。この辺りまでが、どうにか及第点といったところだろう。そこから少し点差が開き、さらに15位と16位の間には決定的な差があった。


「仕方ない。勉強、教えてやるよ。未冬」

 やった、個人授業ってやつだね。嬉しそうに未冬がエマに抱きついた。

「……これは、次は共倒れかもね」

 フュアリの言葉に、小さくマリーンは頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る