第18話 指揮官の条件~新たな決意

 教室内は沈鬱な雰囲気に包まれた。

 あちこちで、すすり泣きの声が聞こえる。

 未冬はシミュレーションでの痛みを思いだし、必死で身体の震えを抑えようとしていた。血の気を失った顔で、モニターを見詰める。


 その隣で、エマは深く考え込んでいた。

 なぜ、こんな事になった。

 どこが間違っていたのだ、と。


 映像が、途切れた。

 教官は厳粛な声で、女子たち、士官候補生に語りかけた。

「決して忘れるな。これは、指揮官の判断が誤っていた事による、だ」

 27年前の彼女たちの犠牲があって、現在のお前たちがあるのだ、と。


 緊急警報を含めた、訓練だったのだ。


「将来お前たちが部隊を率いる時は、これを思い出せ。お前たちが背負うのは仲間の命なんだとな」

 再び点灯したモニターには、喪服の女性が泣き崩れる様子が映し出されていた。


 本日の訓練は、全て終了する。

 教官がそう告げ退室した後も、教室は静まり返ったままだった。


 エマは席を立つと、マスタング姉妹のもとへ向かった。

「教えてくれ。なぜ、揚陸艦がダミーだと分かったんだ」

 二人は同時に彼女を見上げた。

「戦艦に対する位置取りが不自然だったから」

「そう。あれは、あからさまに誘っていた」

 交互に答えたあと。

『それに』

 二人は声を合わせた。

『後部甲板の構造が、知っているものと違ったから』

 エマはため息をついた。言われてみればそんな気もしたけれど、あの不鮮明な映像で、そこまで察するのか。

 これが、トップエースとの差なのか。エマは、目眩がした。


「訓練でほっとしたよ。でも、実際にあった事なんだよね」

 フュアリは目の回りを赤くして言った。

「士官って、責任、重いや」

「フューちゃんって、味方も一緒にやっつけちゃいそうだものね」

「何だと、未冬。背後に気をつけろよ!」

 未冬の軽口で、やっと、彼女たちに笑いが戻った。


 寮に戻った頃には、すでに夜明けの時間だった。

 もっとも、民間ブロックとは違い、軍事エリアに昼夜の区別はないのだが。

 ともかく今日はこれで訓練もお終いだ。

 エマはひどい疲れを感じた。眠らなきゃ。

 

 未冬はベッドに腰掛けたまま、しばらく動かなかった。

「痛かったろうね。あの人たち」

 小さな声でぽつり、と言った。

 見ると、ぽろぽろと涙をこぼしている。死にたくなかったよね、と。

「未冬」

 エマは隣に座り、彼女の肩を抱き寄せた。


「エマちゃん。今日、付き合ってくれないかな」

 仮眠をとったあと、未冬は真剣な顔でエマの前に立った。

「もう一度、行ってみるよ。技術開発部」

 やっぱり、わたし、飛びたいんだ。もう決めた。そう言った。

「そうか。分かった、わたしも行くよ」

 ところで。


「道は分かるんだよな。お前、方向音痴みたいだけど」

 時々、士官学校の中で迷子になっているという噂もある。

「え?」

 首をかしげる未冬。そして、探るような目で。

「エマちゃん、技術開発部がどこにあったか知らない?」

「何で、あたしが知ってると思うんだよ」

「あ、はは。そうだよね、ごめん。じゃ、ハヴィちゃんも誘ってみるから」

「二年生は授業だろ。訓練はあたしたち一年生だけだったからな」

 そうか。未冬は長い間考え込んだあと、にっこり笑って言った。


「さあ、冒険の始まりだよ。エマちゃん」




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