第17話 緊急警報、発令!

 士官学校の教室に集まった少女たちは不安を抑えきれなかった。

 艦内警報を聞いたのは実に数年ぶりの事だったからだ。

 誰もが情報を求め、周りに声を掛けているのだが、他の誰も満足のいく答えは持っていないようだった。あれだけ普段、冷静沈着に思えたユミ・ドルニエまでが親指の爪を噛んでいる。


「みな集合しているか」

 グロスター教官が入室すると、一斉にざわめきは鎮まった。

「状況を説明する。わが都市空母の警戒海域内へ侵入した艦船がある。内訳は戦艦級×1、揚陸艦×1、輸送艦×1の計3隻だ。いずれも、船籍は不明」

 そこで、教官は一度言葉を切った。

「いわゆる、幽霊艦隊というやつだ」


 エマが大きく息をついた。鋭い表情で、真っ直ぐ前を見つめている。

 その横顔を、未冬はうっとりと見ていた。

 ちぇっ。しっかり格好いいや。

 少しだけ後ろめたさを感じたあと、未冬も前を向いた。


「貴様らの出番はない。だが、先輩達がどう闘うのか、その眼で確かめておくのだ」

 教室の前面のモニターに海上を接近する敵艦が映った。

 夜間の事ゆえ、超高感度カメラと赤外線映像を加工・合成したもので、やや鮮明さを欠いている。しかしその獰猛なシルエットははっきりと認識できた。


 こちらの甲板から飛び立ったのは2個中隊、24人の戦闘姫ワルキューレだった。彼女たちが向かったのは戦艦ではなく、揚陸艦だった。

 そして攻撃を集中したのはその後部、推進機関部だった。

 都市空母への上陸を阻止するのが目的なのだから、それは当然だった。


「だめだ、下がらなきゃ!」

 教室で声が上がった。それも二人同時に。

 ツインマスタング。

 銀髪の双子が立ち上がっていた。

 未冬が、え、と思う間もなかった。

 揚陸艦はその偽装を取り払った。後部甲板を埋め尽くす程の砲塔が、彼女たちに狙いを定めていた。


 未冬は前回のシミュレーションを思い出した。

 あれは、仕留めたと油断したその瞬間だった。全砲門が未冬に向かっていたのを見たとき、彼女は戦慄した。

 死んだ、と思った。まさにその後、彼女は死ぬことになるのだった。

 ただ、あれはシミュレーションであり、これは。

 現実だった。


 全滅した。


 一人残らず、砲弾に引き裂かれ海に消えた。


 教室内は静まりかえった。







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