第3話 士官学校の戦闘姫
もちろん士官学校にも飛行スキルをもたない生徒は在籍する。人類の3割がその能力を持つとしても、残りの7割はそうではないのだから。
その代わり、コースは当然異なる。
『飛翔科』と『地上科』である。
制服も分けられ、未冬にはどうも地上科のそれは地味に見える。通常の教育は合同で行われるため余計にそんな気がするのだ。
白と紺青を基調とした『飛翔科』の制服に対し、『地上科』はライトブラウン。
あからさまにエリートと一般人。
「ツバメと、かたつむり、らしいよ。モチーフは」
そう言ったのは、隣の席の赤茶色の髪をした少女だった。エマ・スピットファイアと名乗った彼女は未冬と同じ色の制服を着用していた。
「なんだか、思う所はあるけどね」
士官学校の中途募集によって転校した未冬は、初日の教室で釈然としない思いを持つのだった。
「まったく、空なんか飛ぼうって奴の気がしれないよ」
そう言うエマも、能力はあるらしい。あるけれど飛びたくないのだという。
「だって高いところ、怖いじゃない」
未冬は納得した。
教室内を見回してみる。
その中にひときわ目立つ双子がいた。青みがかった白銀の髪。白の制服が文句なく似合っている。
「エレナとアミエルのマスタング姉妹。通称『ツインマスタング』。前期の成績はダントツだったな」
「へぇ、可愛い。さすが双子。そっくりだ」
「つり目なのが姉のエレナで、垂れ目なのが妹のアミエルと憶えればいい」
うっ、と未冬は言葉に詰まった。
「だって、どう見ても同じ顔だよ」
エマの頬がぴくぴく、と動いた。何かを我慢してくれているらしい。どうやら彼女とは仲良くなれそうな気がする。
そこへ白い制服の、やたらと背の高い少女がやってきた。
「ユミ・ドルニエです。よろしく」
礼儀正しく握手して去って行く。細長い指が印象的だった。そして。
「格好いい……♡」
彼女を呆然と見送る未冬を、あきれ果てた目で見るエマ。
「まあ、あいつを初めて見たらこうなるか」
あいつは『飛翔科』最速と言われる飛行能力を持っていて、とか聞いてねえな、この馬鹿。エマは頭を掻いた。
我に返った未冬は、気付いたことがある。
「士官学校といっても、女子ばかりなんだね」
エマは肩をすくめた。
「そうだな。男の絶対数が少ないもの。他の学校と同じだよ」
これもフェルマー因子が原因なのではないかとされる。
男児の出生率が右肩下がりなのである。近年では男女比2:8程になっている。しかも成人する割合はもっと少ない。健康な男子は貴重種だ。
士官学校にも女子ばかりなのはそういう理由があった。
「未冬は男って見たことがあるのか?」
「あ、えーと。ちょっとだけ」
これは少しだけ本当で、少しだけ嘘だった。
「わー、すげぇ。わたしも一度見てみたいな。標本以外で見たこと無いもんな」
「それは嘘だよね。さすがに」
「うん。嘘だけどさ」
ここで二年間の教育を終えると正式に軍人となるのだ。
部隊へ配属された彼女たちは、北欧神話になぞらえて
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