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もう、精魂尽き果てているのが、正直なところだ。天田と沖村さんも、そうだろう。
けれど、現実はゲームや漫画ではない。敵が、僕らの元気な時に挑んでくるとは限らない。宿屋で全回復してから戦うなんて、そんなわがまま、リアルに聞いてもらえるはずがない。
むしろ、弱りに弱って、何もかもを出し尽くした今。あの、五人目の天使にとっては、仕掛ける当然のチャンスだ。
ほとんど放心したまま、身体を機械的に身構えさせる。どんな状況だろうと、やらなければ全てが終わるのだとしたら、戦うしかない。
けれど。
天使は身構えることなく、静かに頭をふった。
「戦いは、終わりました」
天使特有の、あのしわがれ声で、柔らかく言った。
「貴方は見事、試練を乗り越えた。大きな事を、成し遂げた」
試練? 成し遂げた?
僕らは構えを解かない。
いつでも魔法を撃てるように、意識する。
「僕は何も達成してない」
けど天使は、あくまでも無防備で。
「いいえ、貴方は為し遂げた。たった独りで」
ぼく、ひとり、で?
馬鹿な。
天田と春花さん、穂香に沖村さん。
この戦いは、五人で乗り越えた事だ。
僕独りでは、最初に会社が襲撃された時点で死んでいた。
こんな奴にはわからない。挑発には乗らず、戦おうと、僕は決めた。
けどやっぱり、天使は全く身構えない。
そして。
そして。
「私は、真実を告げる者。
お迎えに参りました、」
我が、主よ。
天使が何を言ったのか、わからない。
「全ては、我が主の為に。それが、我ら五人の
ちょっと、ちょっと、待ってくれ。
五人の御使いと言うのは、黙示録の騎士になった井水メタルの四人と、今、目の前にいる天使の事だよな。
その五人には使命があった。
それは、五人の“ボス?”的な"主"の意向によるもので。
それで、この天使はさっき、僕を……主と……呼んだ……。
あ、あぁ……馬鹿な、そんな、
「我らは、貴方によって生み出された者。
魔法も魔物も、全ては貴方が与えたもうた物」
天使の言うことが、凄くぴたりと、僕の脳にはまる。
まるで、忘れていた事を思い出したかのように。
そうだ。
全部、僕が作り出したんだ。
この状況、全てを。
会社が魔物に襲われて、僕は魔法に目覚めて。
同じように覚醒した、春花さんや天田達と共に、黙示録の騎士に立ち向かう。
まるで、僕が書いた漫画・覚醒サークルのように。
だからだ。
最初の魔法を、すんなりと、思い出すように撃てたのは。
「貴方に与えられた力とは、攻撃魔法では無い。時間操作や空間操作、漫画キャラの憑依など、成り行きで付随した物でしか無い。
貴方の本当の力とは、世界を自分の望み通りに塗り替える物」
今一度、魔法の原則を思い出す。
魔法とは、思考の実体化。
思考という、本来
――はぁ……こんな展開が実際に起こればなぁ。
自分の中途半端な漫画を流し読みながら、そう願った。実現すればどうなるかなんて、少しも考えずに。
具体的な原因はわからないけど、僕の思考世界と物質界たるこの世界との間に、"穴"が出来てしまっていた。
その穴から思考が流れ込んで来て、僕の"願い"は叶ったんだ。
「貴方は人々を正しい方向に導き、力を与え、それを示す魔の物共を生み出された」
「つまり、僕が覚醒した本当の魔法とは、洗脳・魔法の付与・魔物召喚の三つ……。
もしくは、舞台設営と言うべきか」
脱力したまま、意訳を並び立てる。
春花さん達にもわかりやすいように。
これだけあれば、現実体感型ゲームを創るには充分だろう。
僕らは確かに、死ぬ寸前の戦いをしてきた。けれど、それも含めて"設定"だったとしたら。
それに。
僕がその場に呼び出したのだとしたら、魔物が忽然とそこに現れた事にも説明がつく。
トロールにしろドラゴンにしろ、僕が望んだ座標に初めて生まれたわけだから、他の場所に被害が無かったのも当然のことだ。
第一、どうして春花さんが
僕は、ファンタジーの世界に生まれたとしたら
だから僕は、自分の都合に合わせて、春花さんや天田達の"クラス分け"をしたんだ。無意識のうちに。
春花さんに支えられたい。
天田を頼りたい。
そうした精神的な心地よさも、重視したんだと思う。
天田なんて、セオリーから言えば、どう考えたって魔法使いタイプだろう。
けれどそれだと"理想の僕"と戦力がかぶるから。
むしろ、同じ土俵に立たれたら、天田には敵わないから。
だから、天田の事は戦士にしたんだ。
僕が。
「違う!」
春花さんの声が、鼓膜に突き刺さる。
「私のこの想いは、魔法が現れるより前のものだった! 庄司くん、そんな奴の言葉に惑わされないで!」
やっぱり。
春花さんは、変わらず僕の味方だ。
けどね。
「……我が主が魔法に覚醒したのが、あの時点では無かったとしたら? 井水メタルがトロールに襲われた、あの時より前だったとしたら」
天使が、僕の考えを代弁してくれる。
多分、僕の代わりに汚れ役を引き受けてくれている。
やめてくれ。
今更、そんな優しい事をしないでくれ。
お前らは、僕の天敵だったはずじゃないか。
「主が始めに“目に見えた形で”行使なされた魔法は、トロールへ放った光波。
けれど、“目に見えない”魔法をすでに使っていたとしたら?
周囲の人々が主の思い通りに動く、洗脳の魔法を。
いや“魅了”と言い換えても良い。
かけられた本人は、そうと知らずに、我が主の意に沿った思考になる」
「違う!」
春花さんは、ただただ頭を振って、否定する。
僕もそうしたい。
けど、そんな権利は、きっとない……。
「だったら、野仲達が彼に優しくなるよう洗脳すれば良かっただけじゃない!
わざわざ私達を洗脳して魔物まで作り出すなんて、回りくどいだけだよ!」
それも、違う。
だって僕は。
僕は。
「主は、そんな凡百の平穏は望んで居られない。心の奥底では。
主は、自らが紙上に創造なされた世界――覚醒サークルのような状況を求められた。
憧れの女性と、親友と一緒に“敵”と戦う。折り合いの悪かった妹も、最初は嫌々ながら参戦して。疎まれていた先輩とも解り合い、仲間になって。
その“状況”こそが貴方の理想であり、野仲達の慈悲を求められた訳ではない。
そうですよね? 我が主よ」
やめてくれ、僕に振らないでくれ。
僕はそんなの、認めたくない。僕が、こんな事を――。
けど。
僕は、静かにうなずくしかできない。
春花さんの泣きそうな顔が、ますます歪んだ気がした。
「主の望まれた世界の実現には“敵”が不可欠だった。
身近に主を虐げていた罪深き者共は、その役割に適していた。
青ざめた騎士――野仲は、言わずもがな。
白の騎士――水野君も、主に対してあからさまな侮蔑を示して居た。
反逆者としては、適任の駒でした」
「けど、東山さんは!」
「春花さん、あなたは一度、その答えを口にしてしまっています。
東山さんには、赤の騎士がお似合いである、と」
地上に戦乱をもたらす、赤の騎士。
優しくて穏やかで、少しおしゃべりだった東山さん。
春花さんが、そんな彼女を、赤の騎士と結びつけた、根拠とは、
「我が主は、漫画創作の事を東山さんにしか打ち明けて無かった。
にも関わらず、野仲がそれを知って居た理由とは、何です?」
――漫画なんて描いてる時間あったら、自分の仕事を見つめなおすとかできないのかね。
「東山さんは、主が野仲に虐げられる種になると知った上で、主の創造された
この事ばかりではない。
東山さんは常に、我が主には善き理解者である様に振舞いつつ、野仲が主にぶつかる様に仕向けてきた。さり気無く、誰も気付かないやり方で」
――野仲さん、たまには神尾くんを飲みに連れてってあげたら?
――は? 嫌だね。こんな、何一つ面白みのない奴。何で自分の時間を削って、まずい酒を飲まなきゃならないの。
――ねえねえ神尾くん、小谷辺の人口って何人だったっけ?
――ぇ、ぇ……と……? 七千人、くらい……?
――自分が住んでる所の人口もわかんないの? ほんと、ゆとりの世間知らずだよな、お前って。
――あ、ごめん、今思い出した、三万くらいだった。
「恐らくは、東山さん本人も、野仲を扇動して居る自覚は無かったのかも知れないが……聡明なる我が主は、奴の本心を看破して居られた。
会社を一歩引いて
「もう、やめて! 何一つ確証の無い事じゃない!?」
春花さんが、泣き出した。
ああ、僕は、なんてことを……。
身体を縮こませて、両手で顔を覆って、嗚咽を必死に抑える彼女。
ほんの数分前まで“命より大切なもの”とかのたまっておきながら、僕は彼女にこんな思いをさせたんだ。
「こいつは」
気づいたら、天田の恵体が、隣にそびえていた。
「“馬鹿”では無いんだけど、救いようのない“アホ”だ」
ゴッ、という音なき音が、脳髄を這いずり回る。遅れて、頬に圧力。右下の奥歯も折れた。
天田が、僕の顔面を、何の遠慮もなく、ぶん殴ったからだ。
「お、お前、何すんだ!?」
「洗脳された奴が、こんな事出来るか?」
拳を強く握りしめて、天田が僕を見下ろす。
「そんなだから野仲とか、こういうペテン師にカモられるんだよお前は。
奴が言ってる事って、持論に都合の良い部分だけ抜き出して、さもそれだけが真実であるような文法で語ってる、セコいペテンだろ」
そう、なのだろうか。
言われてみれば、そうかも、しれないけど……。
ダメだ、どうしてこんな時に自分で判断できないんだ、僕は!
「少し可愛い女の子になびかれたからって、勘違いしてんなよ神尾。
お前のようなガリガリのキモオタに、無自覚なまま人を惹きつける、なんて主人公補正がかかってるはずがない。
例えそれが魔法であろうと、器がお前じゃ無理がありすぎる。
この五人は単に、縁故で、成り行き上、利害も一致したらから集まっただけの事だ。
それ以外、誰一人としてお前の仲間にならなかったのはどうしてだ? 奴の言う通りなら、もう一人の腐れ縁である木根だって仲間になってなきゃおかしいだろ。
ぶっちゃけ、お前に魔性の魅力なんてない。ただそれだけの事じゃないか」
散々な言いようだ。
けど、僕をあの天使から護ってくれているのは、わかる。
けれど。
「洗脳されている奴が、こんな事を即興で言えると思うか?」
言えるんだよ、天田。
「春花さんよりは頑張りましたね。
けれど、それも“友情シーン”にはよくある話ですね。お互いの価値観が違った時、生の感情むき出しでぶつかり合うなんて事は。
拳で語り合うなんて、最もポピュラーな手法では無いですか」
「おい、テメエ、本当にその辺に――」
「春花さんの事、“可愛い女の子”であると認識して居たようですね」
凄む天田に対し、食い気味にそう言ってきた。
「何だって?」
僕の思い通り、天田は少しうろたえた。
そう、少しだけ。
「貴方、少なからずとも“可愛い女の子”だと認識していた相手が部屋に上がって来ると分かって居て、何故、エロ同人を散らかしたままに出来たのです?」
「は?」
そう、僕もそこが引っかかっていた。
本来の天田には出来ない暴挙だ。
ただでさえ、女の子に免疫のない天田が、あの時に限ってどうして?
「……」
天田は、完全にフリーズした。
そう。
ぶっちゃけ天田は、春花さんのようなタイプが好みだったはずだ。
僕は知っている。
人気アイドルグループ・SLMN72の中で、天田が本当に推しメンとしているのは、多少穂香に似ているという
こいつが本当に好みなのは、
その愛夢ちゃんは、タイプ的には春花さんと同じだ。クールで知的で、けれど根は優しい。ついでに、髪型も似てる。
天田の性格上、本命の娘に対する信仰は徹底している。シャツにプリントするなど、そんな偶像化はもってのほか。
天田の好みは春花さん。
なのに、初対面からここまで、春花さんを女扱いした事がない。
おかしい話だ。
僕のヒロインである春花さんが、僕よりも有能な天田になびく。
その可能性を恐れた僕が、魔法で洗脳でもしない限り、あり得ない事だ。
「……、…………見損なうなよ」
長い溜めを経て、天田が絞り出すように言った。
「へえ?」
「ルックスが好みなら誰でも良いって程、俺は単細胞じゃねえ。
彼女は、仲間としては良い人だが、異性としては守備範囲外。そういう関係、ごまんとあるだろ」
「まあ、貴方がたの考えを云々しても平行線でしょう。
私としては、それこそが、我が主の御力を示す証左とは思いますが」
「論破できないと見たら、論点ずらしか。ヘタレめ」
「いえ、物的証拠を示す事にしました」
天使は、あくまでも僕を擁護する。そこに僕をハメる意図はない。
「私達五人の天使が、主の意識より生み出された、証拠がある。
天田、貴方が良く知って居る根拠です」
天田が、たるんだ下っ腹に力を入れる。
それこそ、天使に洗脳でもされないように。
「水野君、東山さん、沖村さん、野仲の四人は、黙示録の騎士になぞらえた姿と能力を付与された」
「今更言われるまでもない」
「白の騎士は弓矢を手に、勝利による支配をもたらす。
赤の騎士は剣を手に、争いをもたらす。
黒の騎士は、天秤を手に、飢饉をもたらす」
「……っ」
天田の息が、一瞬つまった。
何だ、何に気づいたと言うんだ?
「青ざめた騎士の持ち物は、何でした?」
確か、槍を手にしていた。
けど、それがどういう、
「黙示録での青ざめた騎士は、槍なんか持ってない……こいつは、本当は、手ぶらだ」
え? そうだっ、け……?
僕も、この話は半端にかじっただけだから……。
…………。
……、まさか。
――赤の騎士は、剣を持ってて、人類に争いをさせる。
――黒の騎士は、天秤をもってて、飢饉とか起こす。
――そして、青ざめた騎士は……何だっけ?
最初に天田が天使=黙示録の騎士の仮説を立てたとき、僕はそう聞いた。
半端な知識しかなくて、青ざめた騎士の事まで覚えてなかったからだ。
――青ざめた騎士は疫病を撒き散らす。得物に関する記述は、無かったはず
そう、青ざめた騎士の正しい姿とは、本来こうだったんだ。
槍を持って、変身する能力を持つなんて、誰も思っていなかった。
勘違いしていた僕を除いては。
それに、沖村さんの魔法が状態異常附与ばかりなのも、変だ。
その力はむしろ、疫病をもたらすという属性の、青ざめた騎士に与えられるべきものだ。
それ以前にどうして、僕は沖村さんの魔法に限ってあれだけ詳しかったのか?
パラライズの正体がボツリヌス菌だとか、デスの正体が無味無臭の神経ガスだとか。
誰に教えられたわけでもないのに。
天田の必殺技や春花さんの魔法は、本人から教えられないとわからなかったのに。
僕が、黒の騎士を――“この沖村さん”を創ったからではないか。
「理解したようですね。少なくとも、私達天使が、我が主により創り出されたのは確かです」
天田は、ついに黙り込んでしまった。
「私は、知ってた」
穂香が、沈黙の合間をくぐって、言い出した。
「このヒトの、浅ましい本音。
自分でも蓋をしてきた、みっともない願望を」
そうだ。
心を読める穂香の前では、隠し事ができない。自分でわかってない、深層心理さえも。
「けれど、それが原因だと言う証拠はどこにもない」
え?
「このヒトは、ただ漠然と妄想してただけ。
それは、絶対に起こらないはず、と言う前提のもとで行われた。
もしも自分の思考が実体化するとわかっていれば、このヒトにそんな大それた事を実行する甲斐性は無い」
穂香は今、何を、
「自分の兄だもの。まして、こんな便利な魔法があれば、手に取るようにわかる。
それに、少なくとも、私が洗脳されて戦いに参加したなんて、あり得ない」
穂香は鋭く、真っ直ぐに天使を指さした。
「私は今でも、兄さんが好きではない。
こんな弱くて、頼りなくて、バカな兄なんて、情けなくて仕方が無い。
私は兄さんが大嫌い。この気持ちは、誰の好きにもさせない。
これが、私が操られてるという説への反証だけど?」
あ……。
彼女に“兄さん”って呼ばれるの、何年ぶりだろう……。
「穂香。君は、意外と物分かりが悪い子だったんですね」
妹の言葉を、天使が冷たく言い捨てた。
「今、我が主は現実を受け止め切れて居ない。
今までの事が、全て自分の御力から来ている事だと言う事実を、認めたくない。
そんな状態の主が、今一番望んでいる言葉。それこそが、貴女の言い放った“大嫌い”という言葉です」
「馬鹿みたい」
「そうですか」
「ええ。天田さんの言う通り、アンタは自分の持論を押し通す為だけに、屁理屈をこねくり回す、めんどくさい手合いでしかない」
「別段、私をどう評価しようが一向に構いませんが」
「だったら、このまま消えてくれる? 私、疲れてるんで」
「主の妹君と言えど、その命令は聞けません。我が主の命であれば、別ですが」
天使が、死刑囚の覆面に覆われた顔をこちらに向けてきた。
僕は、何も答えられない。
何故なら。
「真実をうやむやにしたまま逃げる事は、我が主の本意ではない。
我が主は、この一連の戦いで強くなられたから。
逃げてはいけない、と」
「なら実力行使だ」
それまで黙り込んでいた沖村さんが言って、
「モーメント・キル」
最速の右ストレートを、天使に叩き込んだ。天使は反撃もせず、その場に屈み込んだ。
何故なら、僕らと殺し合う気が更々無いから。
「さすがにしぶといな、だが――」
「やめてください沖村さん!」
僕は、沖村さんの前に躍り出た。
そう。
確かに、この最後の天使を殺してしまえば、これ以上僕が責められる事はない。
けれど、ダメなんだ。
この天使が僕の敵でない以上、殺してしまう事はできない。
彼は、僕の撒いた種を、ただ虚心に教えてくれているだけなんだ。
彼を殺してしまったら、それこそ永遠に、僕の希望は潰えてしまう。
正直、青ざめた騎士以上のインフレバトルなんて、もうしたくなかった。
でも今ならわかる。
僕に破滅をもたらすものが“敵”である事が、本当はどれだけ楽な事だったのか。
僕の行動が心底理解できなかったらしい沖村さんが、ようやく口を開いて。
「こいつは神尾君にろくでもない事を言っている神尾君を惑わせて何か企んでいるのなら殺して終わらせなきゃ」
沖村さん。
薄々気付いてはいた。
なんで。
なんで、僕の目を見て話さないんだろうって。
どこか、遠くを見ながら話しているんだろうって。
気づいていたけど、多分僕は認めたくなかったんだろう。
――まだ魔法も魔物も無かった時。
――俺は職場で、神尾君に散々嫌な思いをさせてきた。
――仕事のため、と建前言ってきたけど……憂さ晴らしの気持ちが無かったと言えば嘘になる。
――ぃ、ぃぇ……。
――天使どものせいでこの姿にされてから、わかった。
――俺は、生物学的な種が変わってでさえ、職場と言う狭い世界に囚われて、野仲の言いなりだった。
――けど神尾君は違った。
――野仲に屈することなく、新しいテクノロジーを恐れる事無く駆使して戦った。命を張って
――そ、それは、戦わないと仕方がなかったし、切り抜けられたのも仲間のおかげで……。
――今、神尾君達の力が必要になってからそれを言うのは、厚かましいともわかっている。
――ただ、それでも、謝らせてほしい。
そう。
あの時の沖村さんは、どこか、“セリフ”を朗読しているような感じだった。
僕の返答に対して、微妙にかみ合っていない、ゲームのNPC(ノンプレイヤー・キャラクター)じみたセリフを。
あの時も、彼の目は僕を見てなかった。
本当は、心のどこかで気づいていた。
だけど。
――はい。必ず皆で、生きて帰りましょう。沖村さん
みんな、僕をかばってくれた。
僕の事が大嫌いな穂香でさえ、かばってくれた。
けど。
沖村さんの姿が、トドメとなった。
僕は、認めなければならない。
今までの事は全部、僕が私情でやらかした事だったのだと。
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