28
「分析完了、思考データを送信します!」
穂香が不可解な事を口にした。
それを合図としたかのように、天田がテーブルの上にある弾薬を目いっぱいわしづかみにした。
そして、青空を旋回する、あの光り輝く巨鳥に向けて発砲!
「
機関銃のように、断続的な爆裂音が響き渡る。
信じがたい事に天田は、リボルバー式のマグナム銃で、機関銃並みの弾幕を放っている!
仕組みは至って単純。
掌いっぱいに握りしめた弾を器用に装弾→引き金を引く。これを何十発/秒の超音速で繰り返しているんだ。
そんな事をすればM500の方がもたないと思うけど、多分天田の常用魔法“永光の牙”が、銃にかかっているんだろう。
銃を構成する各機構は超常的な強化を施され、天田の無茶苦茶な扱いに耐え抜き、あまつさえその威力を倍加される。
光る巨鳥の身体が、空で大きく弾き飛ばされた。
ほぼ同瞬・同位置に殺到した銃弾十数発。
血しぶきと肉片をまき散らして、腹が深々とえぐれているのが、かろうじて見える。
デタラメな乱射に見えて、神
「
走りながら呪文を唱え、僕は、自作漫画キャラ・神影星司になる。
手元に生まれる光線剣・ロストサフィール。
飛行する巨鳥に対し、天田は、この射撃場にある銃器で対抗するしかない。となれば、今回の前衛は、魔法剣士となった僕の役目だ。
天田の銃撃を受け、濁流に溺れるかのごとく墜落する、巨鳥。あとはこいつの脳天を、一刀両断してやれば。
「ミッシング・ヘヴ――」
「おい何してんだ神尾!?」
へ?
今、勝ち確のこの状況で、天田は何を言ってるんだろう?
そう、考えてたら。
鼓膜を突き破る、音刃。
全身を焼き焦がされる感覚。
筋肉とか神経を侵す、文字通り電撃的な感覚。
視界が真っ白に染まって、何も見えない。
体のどこにも力が入らなくて、僕は前のめりに倒れた。
全身の感覚が死んでいるのに、股間だけがじんわり暖かい。そこが弛緩したから、尿がだだ漏れになっているみたいだ。
電気に、撃たれた、らしい?
「くそっ!」
倒れ伏した僕をかばうように、天田が躍り出る。春花さんが、駆け寄る。
天田はまた、あのデタラメなマグナム速射を巨鳥に浴びせる。
鳥は、閃光の尾を引きながら、空高く舞い上がった。
ある程度、天田の銃撃を見切ったのだろう。避ける事に専心すれば、もう撃ち落とされる事は無いらしい。
「庄司くん、どうしてこんな無茶な事を!?」
僕を回復しながら、春花さんが詰問してくる。
「ど、ど、ど?」
どうしてって言われても、何が何だか。
「あいつが電気を放って来る事は、知ってたでしょうに!」
え?
何それ、知らない。曖昧に頭を振って答えた。
それで。
春花さんは、弾かれたように背後を振り返った。
穂香に向けて。
「穂香さん、貴方……!」
「御免なさい? この魔法、定員が三人までなんですよ」
嘲笑を浮かべ、妹がそう言った。
ああ、なるほど。
初手、穂香はあの巨鳥の思考を読んだんだ。
だから“分析完了”で輝く巨鳥の“思考を送信”したという事なのだろう。
天田と春花さんに対しては。
だから二人は、電撃を警戒して深入りしなかった。
僕は穂香からそれを知らされて居なかったから、まともに電撃を受けてしまったという事だ。
「何を考えて居るの!? この状況で私怨を持ち出すなんて!」
「私怨? 人の考えを勝手に定義しないで下さい。そう言う所が、貴方は傲慢だって言うんですよ」
春花さんは絶句する。
でも、それでも良い。
穂香はその能力で、天田と春花さんを護ってくれる。
それだけで充分だ。僕は僕で、我が身を護ればいいだけの話なんだし。
とりあえず、これであの魔物の素性はわかった。
サンダーバード。アメリカの伝承に出てくる、神鳥。
僕でも聞いたことがある。
かつて、インディアン部族の人達は、落雷の原因がこいつにあると定義した。
アメリカ領のグアムだから、出て来る魔物もアメリカ由来なのか。
高度を上げたサンダーバードが、その全身をますます眩く輝かせた。晴れ渡る青空のおよそ一マイル四方、何条もの稲妻が明滅しだした。
来る!
豪雨のような雷撃が、射撃場全体を無慈悲に蹂躙する。
天田と春花さん、穂香の周囲だけは、不可侵の領域であるかのように、雷を霧散させた。
かなりビリっとは来ているみたいだけど、無事にレジスト出来たようだ。
ほっと一息――ついた僕は後頭部をハンマーで殴られたかのような衝撃に見舞われて、また転んだ。
今回はそれなりにレジスト出来たけど、やっぱり死ぬほど痛い。
立ち上がるのもおっくうだけど、立ち上がって戦わないと。
サンダーバードを撃つ天田の連射速度が、明らかに遅くなった。けどそれは、疲れたとか諦めたとか言う理由ではないだろう。
大人買いしたマグナム弾も、数に限りがある。一発一発を、吟味して撃とうと言う事だろう。
けど。
「やはりマグナム銃程度じゃ火力がいまいちだ! ゴルフクラブを置いてきたばかりに、武器を妥協するハメに……!」
言ってる意味がよくわからないけど、天田的に旗色が悪いと言う事だけは伝わってきた。
じゃあ、どうすればいい?
天田の手元からマグナム弾が尽きれば、サンダーバードを牽制するものが無くなる。
かといって、基本的に陸棲生物である僕が跳躍してあいつをぶった斬るには、隙が大きすぎる。
とりあえず、
「グロリア・ゲート!」
大魔法ぶっぱ。
射撃ゾーンの半分くらいを飲み込んで、光の巨門が天をうがつ。
サンダーバードが光に飲み込まれたのを、この目で確かに見た。
熱波が過ぎ、光が晴れて。
……。
青空には依然、光り輝くサンダーバードが旋回していた。
あれか。
あのサンダーバード、見るからに光り輝いているし、光属性は無効とか、そういうやつか?
……んな馬鹿な。ゲームじゃあるまいし。この世がそんな簡単な記号で作られていてたまるか。
けどそんなの、僕個人の願望でしかない。事実、サンダーバードはほぼ無傷らしい。
どうする。やっぱり天田と前衛後衛を交代するか?
でも、そうするなら天田に近接武器になる物を用意しないと。今から武器を探して間に合うか!?
どうする、どうする、どうする。
考えろ、考えろ、考えろ……、
「おお! もしかして“ミニガン”じゃないのか、これ!」
僕の心配をよそに、天田が何かほざいた。
天田の視線は、つい先ほどまで射撃ブースだった位置に向けられている。
そこにあったのは“装置”だ。アサルトライフルだとか、マシンガンだとか、たかだか歩兵が運用できるような、そんな生ぬるい存在ではなかった。
ガトリング銃を台座で固定したもの。そして、その動力として置かれている、大容量バッテリー。
正式名称・M134ガトリングガン。
銃本体は二〇キロ弱だけど、バッテリーとか全部合わせての総重量は一〇〇キログラム程度と、小耳にはさんだことがある。
“ミニ”ガンとは言うけど、それはM61バルカンを小型化したと言う、相対的な話でしかない。
絶対的に言えば、ちっとも“ミニ”なんかじゃない。
合衆国本土から来たどこぞの
人間が浴びれば痛みを感じるより先にミンチとなるので“無痛ガン”の渾名も持つ。
確かに、威力だけを見れば強力無比な品だろう。
けどそもそも、ヘリとか地面に固定するような構造の武器であって、小回りが利くとはとても――、
天田は、台座に固定されていたそれを乱雑に引き抜くと、大容量バッテリーを背負う。大蛇のような給弾ベルトを、その恵体一杯に巻き付ける!
そして、銃砲本体を力任せに持ち上げた。
天田の辞書に、重心だとか、そういう言葉は無いらしい。
「こっちの方が、リボルバーより使いやすいはずだ!」
とんでもないパワーワードを発して、奴は、両手親指で引き金を一息に押した。
【 ■ ┗ 〓 ▼ ――ッ!
そのあまりに暴力的で、永劫に続くかのような銃声。僕の耳と脳は、この音波群に対する言語化や擬音化の一切を拒んだ。
ただ、回転する銃身が、まるで蛍光塗料で塗ったかのように赤熱していて。
弾道がビームのように輝いて見えるのは、
本来、M134は一〇〇発/秒の発射能力で設計されたという。
けれど、その熱量に耐えられなかったので、半分程度である五〇発/秒にスペックダウンを余儀なくされたという。
(さっき天田がしでかしたマグナム乱射と、ちょうど等速度ですね)
しかし、永光の牙で保護されたそれは、無謀とされた初期設計を遥かに超える物量を吐き散らしていた。
あれだけ俊敏・強固だったサンダーバードが、みるみる、ボロ雑巾のように引き裂かれてゆく。
ついに翼を砕かれ、巨鳥は墜落。
僕は蒼光剣を手に、迷わず突貫した。
このミニガンだって、魔物相手にいつまで通じるかわかったものではない。
決めるなら、今しかない!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます