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「分析完了、思考データを送信します!」

 穂香が不可解な事を口にした。

 それを合図としたかのように、天田がテーブルの上にある弾薬を目いっぱいわしづかみにした。

 そして、青空を旋回する、あの光り輝く巨鳥に向けて発砲!

極点穿孔撃きょくてんせんこうげき!」

 機関銃のように、断続的な爆裂音が響き渡る。

 信じがたい事に天田は、リボルバー式のマグナム銃で、機関銃並みの弾幕を放っている!

 仕組みは至って単純。

 掌いっぱいに握りしめた弾を器用に装弾→引き金を引く。これを何十発/秒の超音速で繰り返しているんだ。

 そんな事をすればM500の方がもたないと思うけど、多分天田の常用魔法“永光の牙”が、銃にかかっているんだろう。

 銃を構成する各機構は超常的な強化を施され、天田の無茶苦茶な扱いに耐え抜き、あまつさえその威力を倍加される。

 光る巨鳥の身体が、空で大きく弾き飛ばされた。

 ほぼ同瞬・同位置に殺到した銃弾十数発。

 血しぶきと肉片をまき散らして、腹が深々とえぐれているのが、かろうじて見える。

 デタラメな乱射に見えて、神狙撃エイムだ。僕は今まで、FPS廃人のポテンシャルというものをナメていたのかもしれない。

蒼光剣そうこうけん使い・神影星司みかげせいじ、インストール!」

 走りながら呪文を唱え、僕は、自作漫画キャラ・神影星司になる。

 手元に生まれる光線剣・ロストサフィール。

 飛行する巨鳥に対し、天田は、この射撃場にある銃器で対抗するしかない。となれば、今回の前衛は、魔法剣士となった僕の役目だ。

 天田の銃撃を受け、濁流に溺れるかのごとく墜落する、巨鳥。あとはこいつの脳天を、一刀両断してやれば。

「ミッシング・ヘヴ――」

「おい何してんだ神尾!?」

 へ?

 今、勝ち確のこの状況で、天田は何を言ってるんだろう?

 そう、考えてたら。

 鼓膜を突き破る、音刃。

 全身を焼き焦がされる感覚。

 筋肉とか神経を侵す、文字通り電撃的な感覚。

 視界が真っ白に染まって、何も見えない。

 体のどこにも力が入らなくて、僕は前のめりに倒れた。

 全身の感覚が死んでいるのに、股間だけがじんわり暖かい。そこが弛緩したから、尿がだだ漏れになっているみたいだ。

 電気に、撃たれた、らしい?

「くそっ!」

 倒れ伏した僕をかばうように、天田が躍り出る。春花さんが、駆け寄る。

 天田はまた、あのデタラメなマグナム速射を巨鳥に浴びせる。

 鳥は、閃光の尾を引きながら、空高く舞い上がった。

 ある程度、天田の銃撃を見切ったのだろう。避ける事に専心すれば、もう撃ち落とされる事は無いらしい。

「庄司くん、どうしてこんな無茶な事を!?」

 僕を回復しながら、春花さんが詰問してくる。

「ど、ど、ど?」

 どうしてって言われても、何が何だか。

「あいつが電気を放って来る事は、知ってたでしょうに!」

 え?

 何それ、知らない。曖昧に頭を振って答えた。

 それで。

 春花さんは、弾かれたように背後を振り返った。

 穂香に向けて。

「穂香さん、貴方……!」

「御免なさい? この魔法、定員が三人までなんですよ」

 嘲笑を浮かべ、妹がそう言った。

 ああ、なるほど。

 初手、穂香はあの巨鳥の思考を読んだんだ。

 だから“分析完了”で輝く巨鳥の“思考を送信”したという事なのだろう。

 天田と春花さんに対しては。

 だから二人は、電撃を警戒して深入りしなかった。

 僕は穂香からそれを知らされて居なかったから、まともに電撃を受けてしまったという事だ。

「何を考えて居るの!? この状況で私怨を持ち出すなんて!」

「私怨? 人の考えを勝手に定義しないで下さい。そう言う所が、貴方は傲慢だって言うんですよ」

 春花さんは絶句する。

 でも、それでも良い。

 穂香はその能力で、天田と春花さんを護ってくれる。

 それだけで充分だ。僕は僕で、我が身を護ればいいだけの話なんだし。

 とりあえず、これであの魔物の素性はわかった。

 サンダーバード。アメリカの伝承に出てくる、神鳥。

 僕でも聞いたことがある。

 かつて、インディアン部族の人達は、落雷の原因がこいつにあると定義した。

 アメリカ領のグアムだから、出て来る魔物もアメリカ由来なのか。

 高度を上げたサンダーバードが、その全身をますます眩く輝かせた。晴れ渡る青空のおよそ一マイル四方、何条もの稲妻が明滅しだした。

 来る!

 豪雨のような雷撃が、射撃場全体を無慈悲に蹂躙する。

 天田と春花さん、穂香の周囲だけは、不可侵の領域であるかのように、雷を霧散させた。

 かなりビリっとは来ているみたいだけど、無事にレジスト出来たようだ。

 ほっと一息――ついた僕は後頭部をハンマーで殴られたかのような衝撃に見舞われて、また転んだ。

 今回はそれなりにレジスト出来たけど、やっぱり死ぬほど痛い。

 立ち上がるのもおっくうだけど、立ち上がって戦わないと。

 サンダーバードを撃つ天田の連射速度が、明らかに遅くなった。けどそれは、疲れたとか諦めたとか言う理由ではないだろう。

 大人買いしたマグナム弾も、数に限りがある。一発一発を、吟味して撃とうと言う事だろう。

 けど。

「やはりマグナム銃程度じゃ火力がいまいちだ! ゴルフクラブを置いてきたばかりに、武器を妥協するハメに……!」

 言ってる意味がよくわからないけど、天田的に旗色が悪いと言う事だけは伝わってきた。

 じゃあ、どうすればいい?

 天田の手元からマグナム弾が尽きれば、サンダーバードを牽制するものが無くなる。

 かといって、基本的に陸棲生物である僕が跳躍してあいつをぶった斬るには、隙が大きすぎる。

 とりあえず、

「グロリア・ゲート!」

 大魔法ぶっぱ。

 射撃ゾーンの半分くらいを飲み込んで、光の巨門が天をうがつ。

 サンダーバードが光に飲み込まれたのを、この目で確かに見た。

 熱波が過ぎ、光が晴れて。

 ……。

 青空には依然、光り輝くサンダーバードが旋回していた。

 あれか。

 あのサンダーバード、見るからに光り輝いているし、光属性は無効とか、そういうやつか?

 ……んな馬鹿な。ゲームじゃあるまいし。この世がそんな簡単な記号で作られていてたまるか。

 けどそんなの、僕個人の願望でしかない。事実、サンダーバードはほぼ無傷らしい。

 どうする。やっぱり天田と前衛後衛を交代するか?

 でも、そうするなら天田に近接武器になる物を用意しないと。今から武器を探して間に合うか!?

 どうする、どうする、どうする。

 考えろ、考えろ、考えろ……、

「おお! もしかして“ミニガン”じゃないのか、これ!」

 僕の心配をよそに、天田が何かほざいた。

 天田の視線は、つい先ほどまで射撃ブースだった位置に向けられている。

 そこにあったのは“装置”だ。アサルトライフルだとか、マシンガンだとか、たかだか歩兵が運用できるような、そんな生ぬるい存在ではなかった。

 ガトリング銃を台座で固定したもの。そして、その動力として置かれている、大容量バッテリー。

 正式名称・M134ガトリングガン。

 銃本体は二〇キロ弱だけど、バッテリーとか全部合わせての総重量は一〇〇キログラム程度と、小耳にはさんだことがある。

 “ミニ”ガンとは言うけど、それはM61バルカンを小型化したと言う、相対的な話でしかない。

 絶対的に言えば、ちっとも“ミニ”なんかじゃない。

 合衆国本土から来たどこぞの好事家こうずかが持ち込んだ品物だろうか?

 人間が浴びれば痛みを感じるより先にミンチとなるので“無痛ガン”の渾名も持つ。

 確かに、威力だけを見れば強力無比な品だろう。

 けどそもそも、ヘリとか地面に固定するような構造の武器であって、小回りが利くとはとても――、

 天田は、台座に固定されていたそれを乱雑に引き抜くと、大容量バッテリーを背負う。大蛇のような給弾ベルトを、その恵体一杯に巻き付ける!

 そして、銃砲本体を力任せに持ち上げた。

 天田の辞書に、重心だとか、そういう言葉は無いらしい。

「こっちの方が、リボルバーより使いやすいはずだ!」

 とんでもないパワーワードを発して、奴は、両手親指で引き金を一息に押した。

 【 ■ ┗ 〓 ▼ ――ッ!

 そのあまりに暴力的で、永劫に続くかのような銃声。僕の耳と脳は、この音波群に対する言語化や擬音化の一切を拒んだ。

 ただ、回転する銃身が、まるで蛍光塗料で塗ったかのように赤熱していて。

 弾道がビームのように輝いて見えるのは、曳光弾えいこうだんが混じってるのだろうか。

 本来、M134は一〇〇発/秒の発射能力で設計されたという。

 けれど、その熱量に耐えられなかったので、半分程度である五〇発/秒にスペックダウンを余儀なくされたという。

 (さっき天田がしでかしたマグナム乱射と、ちょうど等速度ですね)

 しかし、永光の牙で保護されたそれは、無謀とされた初期設計を遥かに超える物量を吐き散らしていた。

 あれだけ俊敏・強固だったサンダーバードが、みるみる、ボロ雑巾のように引き裂かれてゆく。

 ついに翼を砕かれ、巨鳥は墜落。

 僕は蒼光剣を手に、迷わず突貫した。

 このミニガンだって、魔物相手にいつまで通じるかわかったものではない。

 決めるなら、今しかない!

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