25

 狂わされた人々は、もう助からない。

 だから、赤の騎士に勝つために、橋ごと、みんな犠牲にした。

 僕は、こんな事ができる人間だったのだろうか。

 魔法を手に入れたから、僕は、こんな、

「目障りだから」

 妹の声が、背後の、そう遠くない所から聴こえた。

「自己憐憫れんびんに浸ってネチネチ泣くのは、私の見えない所でしてくれない?」

 僕は、泣いているのか。

 そう言えば、嗚咽が邪魔で息がしにくい。

「もう、何もかも、元に戻る訳でも無いのだから。

 知っててやったんだよね、アンタ?

 どうせ誰も助からないからって、計算尽くで皆殺しにしたんだよね?」

 ――神尾くん、災難だったねぇ。あのお客さんは、いつもああなのよ。

 ――神尾くん、漫画書きは順調?

 ――柿、たくさんもらっちゃってねぇ。神尾くん、食べない?

「ああ、挙げ句の果てに、赤の騎士の事を思い返して浸り始めた。気持ち悪い」

 春花さんが、僕の腕を振り払うようにして、強く立ち上がった。

 ツカツカと、早足で歩くのが聴こえる。

「本当に、どうしてこんな人が、私の――」

 頬を叩く、乾いた音がした。

「お兄さんは、貴方を護る為に危険を犯した。手を汚した」

「だから、何ですか?」

「解らないの? 子供じゃ無いでしょうに」

「いや、あなたが言わんとする事はわかりますが。

 私やこの人の事、神尾家をろくに知らない癖に、つまらない一般論を押しつけようとしている、ってね」

「自分が何を言って居るのか、解ってる?」

「素晴らしい正義感ですね。

 自分の綺麗事が通じなければ、罵倒して暴力で従わせようとする。

 はっきり言って、醜いですよ。

 この人が今、自慰的思考に入り込んで、排除した相手をしのんだ気になってるのと同じですね。自己完結、自己満足」

 二人の言葉が、文字としては理解できる。

 けれど僕の頭は、理解を拒んでしまう。

 何か、何か言わなきゃ。

 二人は、僕のせいでいがみ合ってしまってる。

 このまま、ぼんやりしてては、ダメなのに。僕は。

「……天田さん、貴方は大丈夫?」

 春花さんは、穂香を放って天田に話しかけたらしい。

「……おk」

 いつも通りの適当な返しだが、その適当さが作り物臭く聞こえた。

「私は庄司くんを連れて帰る。天田さんは、その子を送ってあげてくれる?」

 春花さんの、言葉に伴う呼気ひとつひとつが重い。

 つかれているだろうからむりもない。

 できるなら、ぼくもそろそろ、ねむりたい。

 あまだとほのかが、はんたいがわに、さっていく。

「さあ、行きましょう。庄司くん」

 そうか、はるかさんは、ぼくをつれてかえるのか。

 そうなのか。

 めいわくにならないと、いいな。

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