第6話 最果ての光 6

 社員を乗せたシャトルが飛び立って行く。こんな時なのに、青い空に延びる飛行機雲が美しく、子供達は、不安ながらもそれに見とれる。

 社屋地下のシェルターに契約労働者とその家族を入れ、周りを鉄骨や資材で覆い、ノリブが取り付いてもすぐに襲えないように嫌がらせとする。

「シェルターに近づけるのも避けないといけないけど、飛び立たせてシャトルの後を追わせるのもまずい。敵はここで叩く。幸い成体化したばかりで戦闘経験は無い。そこにつけこむ」

「女王はどうするん?」

「女王はまず出てこないから、まずは子ノリブ。余裕があれば女王も殺る」

「さあ、踊って差し上げましょう」

 各々の持ち場に着く。萌香はツクヨミ操縦室の操縦席へ、明良と那智はその左右の管制席へ。今回はアテナに通信管制も任せて明良も攻撃に専念し、中短距離を担当。那智は長距離を担当。後はオートで、自立型ビーム機関砲ゼウスを起動させる。

 樹里はイシュタルに乗り込み、スタータースイッチをオンにした。核融合エンジン2基は外部支援なしで始動でき、計算上単独で大気圏離脱も突入も可能とするパワーを持つ、宇宙、大気圏下、両方で運用できる機体だ。

 メイン画面に


    Judge

    Acction

    Shield

    Tactical


の文字が出、ほんの1秒未満で、上から順に全てが大文字に変わる。それで、起動終了だ。

 ツクヨミと揃ってストーンサークルの近く、シェルターから90度の所に位置取り、待機する。

 ゲートの鏡面を通ってきた瞬間から、攻撃が通る。だから、その瞬間を狙ってモグラ叩きの如く叩きまくるのが第一段階だ。これでどれだけ減らせるかが、大きくものを言う。

 ノリブ。この巨大カブトムシのような生物が何故「ノリブ」という呼称になったのか。それは、NO LIVEから来ている。即ち、生きていない。空気のないところでもあるところでも動けるのは、生物というより機械に近いのか。そして自己の犠牲よりも全体を取るのは、個で生きていないのか、と。

 そんな事を思い出している内に、ノリブの動きが活発になる。そして、いよいよ、羽を震わせてフワリと体を浮かせた。真横に近い位置から、撃つ、撃つ、撃つーー。卑怯もくそもない。とにかく、出た瞬間に殺る。

 それも数が多くなるにつれて撃ち漏らしが出始め、生き残ったノリブは、いきなりの脅威を与えた相手に、最大限の警戒と怒りを見せる。

 ここからは、第二段階だ。つまり、うまくやれ。

 機体を急発進、急加速させて上方にロール。まるで連結されているかの如くノリブが旋回してこちらに向かって来るので、その旋回面の後方外側に出て位置角を減らし、その後相手の旋回面上をラグ角を維持しながら追尾し、後方を占位したところで、機関砲を浴びせ掛けて撃破していく。

 今度は前方から攻撃しつつ接近してきたのを、躱し、すれ違った直後に急反転して相手の背後に回り込もうとする。それは相手も同じで、ノリブのパワー、旋回性能がほぼ互角なので、グルグルと相手が根負けするのを待つ。やがて相手の方がエネルギーを喪失して、こちらが後方へ回り込めたので、ロックオンしてミサイルで落とす。

 予想よりも若干、ノリブのエネルギーはロストし難いらしい。

 次に前方から当たって来たノリブには、今と同じように旋回に入った後、一度旋回を緩めて加速し、リード角を確保した状態で二度目の旋回に入る。相手はこちらのようにエネルギーをキャッチアップする余裕がなく、次の旋回で後方をさらし、そこを機関砲で落とす。

 その間に別のノリブが横から接近してくるのを、ヒョイと横転しつつ人型になってライフルで撃破。すぐに飛行機形態でその場を離脱して、次のターゲットを物色する。何せ、よりどりみどりだ。

 とはいえ、ヒトの体はGに対する限界がある。ノリブはその点、Gに強いように見える。ならばこちらは、骨が軋もうと、筋肉が捩れようと、Gに抗うのみだ。

 ツクヨミは、ゲートからのノリブが打ち止めになるまで鏡面のノリブを攻撃すると同時に、速射砲と中距離対空ビーム砲で中空のノリブを間引く。

 ゲートからの転移が無くなったのをみて、今度は戦速を維持しつつ接近し、弾幕をばらまきながら群れと高度を合わせ、主砲を真ん中にぶちこんだ。

 と、小型とは言え艦とは思えぬ機敏さで、頭を下げて潜り込み、駆け抜けつつ弾幕の置き土産を残す。

 絶望的かと思われた物量差も、イーブンになり、いつの間にか、こちらが優位になっていたらしい。

 ノリブがゲートに戻る動きを見せるが、ばら撒いておいた機雷の餌食になって死んでいく。

 掃討戦に移り、最後の一匹をしとめたのは、3時間後だった。

 JASTも敵の反応が無いとしている。そこで、シェルターの上に念のために被せておいた鉄骨を下ろす。

「ツクヨミ、帰艦する」

「了解しました」

 アテナの合成音声が答え、イシュタルをツクヨミに着陸させて、格納する。あとはAIのセバスチャンが、自動で、点検、補給、修理から掃除までもをしてくれる。

「よろしく、セバスチャン」

「かしこまりました」

 日本人的には、執事イコールセバスチャン。成程、有能な執事である。


 契約労働者の勤務実態が明らかにされ、彼らは、査察の入った企業から当たり前の雇用契約を取り付けた。

 これで睨まれるかもしれない、余計な事をして。そういう人間もいた。その時は、また呼べばいい。トラストはあなたの味方です。ご相談はお気軽に。


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