第5話 最果ての光 5

 遺跡のようなものは、結局、何なのかよくわからない代物だった。やたらと磁場も不安定で、グルリと置かれた石の組成も、正体不明との解析結果である。

「これは、もっと大掛かりな調査団を呼び込むべきだろうな」

 というカールの意見に反対したのはエリザだ。

「冗談じゃないわ。後から来たやつらに美味しいところを譲るなんてまっぴらよ」

「しかし、我々だけではーー」

「もっと、中心部を掘ってみましょうよ。それと、あの石を解体してみましょうよ」

「え、それは危険だろう」

 ハインツも難色を示したが、聞き入れる様子はない。

 喬所長としても、おおごとにしてはまずい事情がある為、なるべくこれだけで片付けてしまいたいという事情がある。

「もう少し、我々だけで調査を進めてみましょう」

という結論には、落ち着くべくして落ち着いたのだった。

 念の為に、イシュタルで樹里が、武器搭載のランドクルーザーで萌香と明良が、パワードスーツを装着した那智が、周りで待機する。そして、最小限の人間以外は、このストーンサークルから距離をとった。

 真ん中に重機で穴を穿っていく。が、10メートル程度掘っても変化は無い。

 次に石のひとつを割ってみるために、円から転がして外へとずらす。これに対し、反応が顕著に表れた。磁力計の数字が狂ったように跳ね上がり、レーダーに敵を示す光点が多数現れ、イシュタルのパーソナルコンピューターJASTが警告を発する。

「ノリブの反応多数。総員退避」

 すぐに社のランドクルーザーに飛び乗ったのはカールとハインツで、エリザは夢中でサークル内の変化に見入っていた。

 あれだけ掘っても何もなかったサークル内だが、ワープゲート作動時に似た反応が起こり、鏡面のようになったサークルから、向こう側のそれが見えた。卵を産むノリブの女王と卵、孵化したばかりの幼生体のノリブ。

「何をしている!」

 那智がエリザの襟首を引っ掴んでランドクルーザーへ放り込み、強引に、社屋の方へと走らせる。

「えらい事になったで」

「ノリブの巣?」

「生態、巣については知られていないけど、こういう事か。どこかの巣穴で成長させ、ゲートを通じて一気に送り込む。いつもいきなり接近してくるわけだ」

「今のうちにやってまう?」

「まだ幼生体とはいえ時間の問題でしょう。そうなれば、我々だけでは手に負えません」

「ここからいかにして全員を素早く逃がすか」

 とりあえず監視用無人カメラを残し、社へ急ぐ。


 ここを脱出する。そのことに、とりあえずは喬も同意したし、カール達も納得した。完全に成体となるまでそう時間もないというのも理解した。

 問題は、その方法と順番だった。

 社の所有する船を使っても、社員は乗れるが、契約労働者とその家族は一部しか乗れないという事がわかったのだ。

「契約労働者は置いて行こう。仕方がない」

 喬が言うのに、カールも重々しく同意する。

「やむを得ないな。ノリブが彼らにひきつけられている間に、こっちは距離を稼げるし」

「なんやて!?」

 激高しかけた明良に、ハインツが、

「気に食わなくても、それが真理だろ」

と肩を竦める。

「--!」

 そこに、契約労働者の代表が口を挟んだ。

「せめて子供達だけでも助けてはいただけませんか。我々は囮で結構です」

「何をおっしゃいますの!?」

「我々日本人は、そういう役目で雇われていたようなものなんですよ」

 気弱に笑うその顔は、諦めと責任感とに彩られていた。

「時間がないのでしょう」

「い、嫌だよ!」

「お父さんとお母さんと一緒がいい!残る!」

「行きなさい!」

「嫌!」

 押し問答の中、アテナから携帯端末に通信が入る。

「計算の結果、成体化までおよそ1時間と推測されます」

「時間がありませんな。早く出発しなければ、全滅する」

 カールが言って、社員と共に踵を返す。

「あんたらの根性見たで」

「シェルターは流石にあるのか」

「はい。でも、ここにノリブが居座ったらもちませんよ」

「その前に、片を付ければいいだけだろう?」

 樹里の唇が、獰猛に跳ね上がった。










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