第3話 最果ての光 3

 その小惑星の地表には採掘用の縦穴がいくつも開き、その間に一塊になるように建物が集まっていた。港もここにあり、ツクヨミはここに着けた。

 タラップから降りた所に責任者とその部下が来ていた。

「ようこそ。喬侑と申します」

 責任者は太り気味の小男だった。

「発見現場はあの旗を立ててある所で、そのまま触らずにしてあります。そろそろ今日は夜になりますので、調査は明日になりますな。

 では、ご案内いたします」

 港施設は社屋の一部でもあり、そこと通路でつながったもう1棟のビルが宿舎らしい。1階に食堂やらシアタールームやらプールやらがあり、2階、3階が社員の社宅、4階がゲストルームと喬の社宅だった。

 隣に立つ建物は倉庫と植物プランテーションで、その裏に立つビルは契約労働者とその家族のための社宅で、マンションのような作りになっているらしい。

 社員は皆単身赴任で、こちらの社宅とゲストルームは、ホテルの部屋のようだった。

 食事は食堂で、各自のタイミングで。メニューは一律らしい。

 掃除や食事の世話などは契約労働者が行っており、宿舎に入ると、ホテルマンやメイドのように働いていた。

 時間が時間なので夕食をと、荷物をゲストルームに置いた後、食堂に案内される。

「やっぱり中華系の会社やし、皆中国人なんかな」

 契約労働者のほとんどはアジア人だ。

 カウンターで一食分がセットされたトレイを受け取り、テーブルに着く。料理は、白米、八宝菜、菜っ葉、中華スープ、果物で、偶々なのかどうかわからないが、中華だった。

「さあ、どうぞ。ビールも別料金ながらありますよ。今日はこちらから。

 おい!ビールだ!」

 喬が声を上げると、中学生かと思われるような年の少女が、慌てて缶ビールを持って来る。

「お待たせいたしました」

「さあ、どうぞ」

 1本ずつ配られ、喬とカールは上機嫌で乾杯をしている。

 他のテーブルに着いているのは皆社員らしく、笑顔を浮かべている。

 カウンターの中の女性やホールに立つ先ほどの少女のような契約労働者は、どこか暗く、張り詰めたようにも見えた。

 と、エリザが箸から玉ねぎを取り落として、ブラウスに小さなシミを作る。

「あっ」

「おい!」

「申し訳ありません!」

 飛んできた少女が、慌ててブラウスに付近をあてて拭く。それを、とても心配そうに見守る他の契約労働者達。

 何だろう、この奇妙な座りの悪さは。樹里はそう思ったが、社員やカール、エリザは、何とも思っていないらしい。目の合ったハインツが、ソッと肩を竦めて見せた。

 食後は与えられた4人用の部屋に戻り、ソファに座ってミーティングを行う。

「まあ、こんなところですね」

 那智が日報を書き、終了する。

「なあ。ここって、もしかしてブラック企業?」

 今の世の中、きつい仕事というのは存在するが、奴隷も無いし、それに準じた関係も禁止されている。それでも労働環境を守らない会社は無くならないし、踏みつけられる人間はいなくならない。

「さっきの、喬さんが王様だとしたら、社員は貴族、契約労働者は奴隷というところかしら」

「ピリピリしてたもんなあ」

「それにあの子は、もしかしたら就学年齢ではないでしょうか」

 しばし、考える。

「ここにいる間は調べて、それも報告しよう」

 夜間は建物のドアが施錠されるとかで、どこへも出られない。話を聞きたい契約労働者の住まいとはつながっていないので、今夜は無理らしい。聞くなら、この建物内にいる人間だけだ。

 さっきの少女でもいないかと廊下に出たら、廊下に警備員がいた。

「どうかしましたか」

「え?いや、散歩でもと」

「申し訳ありません。警備の事情もあって、このフロアは夜間、隔離されます。部屋に軽食、アルコール、DVDなどをご用意してありますので、朝まで部屋からお出にならないように願います」

 有無を言わさぬ口調だ。

「警備の事情?何か脅威でも?我々も任務を遂行する上で、知っておきたいんですが」

「・・万が一という、程度ですが・・始めの頃にできた規則を遵守していますので・・その・・」

 しどろもどろになって、言い訳を捻り出す。

「いや、それなら結構です」

 大人しく、部屋に戻る。最初に強硬な態度を取って、警戒されるのもバカらしい。

「明日からやな。

 では、おやつターイム」

「明良。寝る前に食べるのは良くありませんわよ」

 こうして、1日目の夜は過ぎて行ったのである。



 


 

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