第2話 最果ての光 2
チームに与えられた部屋はどこも同じだが、やはり、個性というものが出るものだ。「00」というプレートの入ったドアを開けると、壁際にロッカー、スチール棚が並び、真ん中に人数分のデスク、隅にソファセットがあるのはどこも同じだが、そこからが違う。
まず、スチール棚に並ぶのは、お菓子、缶詰、金魚のエサ、インスタントコーヒー、紅茶のティーバッグ、緑茶の茶筒、金魚鉢、恋愛小説、ゲーム機、ゲームソフト。そして空いたスペースに、ダンベル、丸めたヨガマット、バランスボール。
明良は恋愛シミュレーションゲームをし、萌香は金魚を眺め、那智はダンベルを持ちながらスクワットをし、樹里はAI相手に3次元囲碁をしていると、T・T(タクティカルチーム)統括室から呼び出しがかかった。
「なんだろねえ」
「くうう、プリンスの攻略ができそうやったのに、しゃあないな」
「75回ですか。続きは後で」
「仕事かな」
4人はすぐに、T・T統括室へ向かった。
室長の本橋砂羽が、出迎える。
「仕事です」
元自衛隊情報局三佐、切れ者と名高いエリートだったが、普段は柔和でのほほんとしたただのハンサムだ。
「辺境の採掘惑星へ調査に行く、学者3人の護衛です」
言っている間に、アンドロイドみたいな秘書がテキパキとプロジェクターをオンにする。
人類は距離を短縮できるワープゲートを開発し、飛躍的に地球人の行動範囲は広まったが、それでもここはその端にあたる地域で、鉱物資源を採掘しているようだ。所有は中国の会社になっている。
通るゲートは3つ。現地滞在日数は10日を予定していた。
「技本に寄って、新装備について聞いて下さい。出発は明日の午前7時です」
チーム0Xは実験小隊という位置付けで、他とは共有しない装備もたくさんあるし、新装備のテストをする事も任務に入っている。チーム00はその最たるチームで、AIでほとんど動かせるツクヨミといい、フライトオフィサーの代わりに戦術AIを積んだ可変機イシュタルといい、ワンオフのものを基本に運用している。
「わかりました」
その足で、技術本部へ行く。
「よう、来たな」
イシュタルの機体を担当した元自衛隊技本三佐の加賀と、同じく電子関連を担当した元自衛隊技本三佐の氷室が待ち構えていた。二人はこの技本の、ハードとソフトの最高責任者みたいなものだ。
「まず、ツクヨミに新しいコーティングをしてみた。ミラージュコーティングで、ステルス性能を高めて見たんだよ」
「追尾型ミサイルは、目標を常に複数のシステムで捉えて追尾するようにしたから、より、振り切られ難い筈だ」
説明を受け、しっかり頭に叩き込む。命に直結しかねない事だからだ。
「サンプリング、よろしくな。データはしっかりと持ち帰ってくれよ」
最後は氷室と加賀にいつも通りのセリフで送られ、技本を出た。
衛星軌道上の宇宙港で学者3人と待ち合わせる。
リーダーはカール・ストレミング。40代半ばの大柄な男で、ニコニコと陽気だ。
「やあ、よろしく。カールと呼んでくれ」
紅一点はエリザ・ローレン。30前後の女性で、ニコリともせずに足元のカバンを示し、
「エリザでいいわ。荷物はこれよ。運んでちょうだい」
とツンとして言った。
もう1人はハインツ・ニコルスキー。30代半ばの男で、軽そうな印象を受ける。
「おいおい、それはないだろうに。こんなお嬢さん方に。俺はハインツ。ダーリンでもいいぜ、子猫ちゃん達」
「子猫ちゃんってリアルにいう人初めて見たで」
「ですわね」
コソコソと明良と萌香が言い合った。
「トラストT・Tー00の御堂です。まずは艦にご案内します」
踵を返し、歩き出す。
やがて、ツクヨミに辿り着く。
トラスト所属T・T-00乗艦試験艦ツクヨミ。全長は300メートル。高性能のイージスシステムを備え、宇宙、大気圏下、どこでも稼働可能。ビーム攻撃のダメージを防御するシステムで船体を覆われ、核融合エンジン4基、戦術コンピュータ「アテナ」、サーバントコンピュータ「セバスチャン」を搭載。地球程度の引力なら自力での大気圏離脱を可能とする。
武装は長距離用から短距離用まで揃い、魚雷と機雷も積んでいる。
戦闘機イシュタル、ランドクルーザー、無人偵察機などを搭載している。
「ゲスト区画にご案内します。基本ここ以外立ち入り禁止とさせていただき、この区画外への通路は閉めさせていただきます」
中へ入りながら明良が言って、
「ではこちらへ」
とゲスト3人をゲストルームへ誘導して行く。
この後ツクヨミは出発し、35時間後に、ノリブの小グループと接触、戦闘となったのである。
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