人材派遣会社トラスト タクティカルチームー邪神
JUN
第1話 最果ての光 1
どこまでも深くて暗い宇宙。足元すらあやふやで、吸い込まれ、すぐに迷ってしまいそうになる。
その遠くに、一瞬キラリと光るものが見えた。地球人類の天敵とも言える謎に包まれた生命体ノリブが、ビームのような攻撃を放つ際に出る光だ。星の瞬きのようで綺麗だーーなどと見とれていると、次の瞬間、死んでいるのは自分である。
勘と反射に従って、回避。まずはビーム砲を撃って一体を撃破、同時に飛行機形態から人型形態にチェンジし、ビームライフルで立て続けに3体を撃破。接近してきたところを、電磁銃剣ですれ違いざまに斬り、合計6体を瞬殺する。
索敵にかかるものは無し。
「こちらジュリ、敵全滅を確認。帰艦する」
「ツクヨミ了解」
世界の均衡が崩れたのはいつだっただろう。20世紀の東西冷戦が終わり、世界は新しい冷戦の突入した。21世紀はイスラエルと東アジアの緊張が世界の火種となっていった上に、水、資源、経済、人口などの問題が加わり、敵と味方が複雑に入り組んで明確にできなくなった。
そんな中で日本は、相も変わらず明確なスタンスを示す事もできず、水だけは困らないものの食糧自給率は低下したまま、見付かった海底資源も近隣の国に吸い取られて抗議はしてもそれだけで無視され、せっかくの多方面にわたる高い技術力をも国際ステージでアドバンテージを生かせず、アメリカぶら下がりでどうにかこうにか存在していたのである。
その後、中国の海洋征服が進んで沖縄上陸を機に中国とアメリカは本格的に衝突する事となった。ある政権交代の時に日本政府の意向で在日米軍はグアムや横浜に拠点をばらけさせていた為、物量とスピードを生かして中国が沖縄を占拠。そのどさくさに紛れて韓国はかねてから領有権を主張していた竹島のみにとどまらず対馬までもを自国のものだと主張、本州、九州では大都市を中心に北朝鮮がゲリラ戦を展開、北海道からはロシアが南下の意を示した。
機を見るに敏といえるこれらの動きに、日本政府は何もできなかったのだ。憲法解釈とアメリカ依存と平和ドリームと戦争放棄という名の思考放棄で、これまで奇蹟的に存在してきた日本は、この期に及んでも同じ議論を繰り返し、自衛隊基地の門前では反戦の横断幕を持つデモ隊が出動に反対したのだ。
そして、国民に多数の犠牲が出、都市が蹂躙され、分断され、混乱し、それでようやく世界の常識を見たーーと思えば、突然手の平を返して「自衛隊は何をしていた」と有識者達は騒ぎ、責任転嫁か売名行為に政治家達は熱意を燃やし、そうして、政府機能は麻痺した。
自衛隊が法律や反戦派の議員や国民のせいで動けず、警察や海上保安庁だは対処できず、地球の隅々までにもその影響が及び始める頃、本州に展開していた米軍に呼応して多国籍軍が介入。「平和維持」の名の下、「同盟国」アメリカに統治される事となり、戦いの終結だくでなく、日本の真の自治も終結となったのである。
金もエネルギーも水も食糧も、自由や思考すらアメリカにコントロールされ、警察、自衛隊、海上保安庁、全ての「力」をアメリカに再編という形で管理されている。
国民の一部は特権階級として優遇され、他の一部は他国の国籍を得て移住したが、大多数の日本人は、コントロールされた生活に留まった。だが移住組は、成功組はともかく失敗組は、貧困や犯罪の中で生きる例も少なくはない。
それらのどこにも当てはまらない一部ーー人材派遣会社トラストは、建造直後だった宇宙コロニーを領土とし、社員の内の希望者とその家族を国民とし、社長や役員を代表者とする事で国際法の条件をクリアし、ひとつの独立国を立ち上げたのである。
この時には既に、トラストの大きさと広がりは無視できない規模になっており、また、法律上文句のつけようもなく、国として認めざるを得なかったのであるーー尤も、この直後に法律が改訂され、独立はトラストが滑り込みセーフとなったのであるがーー。そして社員の中には、再編される自衛隊や警察などを辞して入社してきた者も少なくなく、以降も、トラストへの付け入るスキは益々無く、大国らを苦々しく思わせているのである。
これが現代日本史だ。
トラスト所属タクティカルチーム00。しかしほぼ全員、正式なチーム名では呼ばず、通称の「邪神」の名で呼ぶ。というのも、チームメンバーの4人が揃いも揃って、ろくでもない綽名を持っているからである。
御堂樹里、可変型戦闘機イシュタルのパイロット。身長156センチでやや細身、背中半ばまでの黒いストレートヘアの似合う美人ではある。一般人にしては多く事故や戦闘に巻き込まれ、それでもいつも生き残ったことからついた綽名は死神。高校から始めた、人気スポーツであるロボットでの疑似戦闘モビルコンバットで、大学を出るまで6年間学生チャンピオンだったのだが、ここでも「死神」との二つ名が付いた。
「お疲れ様ぁ」
桜庭萌香、試験艦ツクヨミの操艦を担当。身長157センチ。肩の上までのボブカットが似合うかわいらしいタイプで、おっとりとしている。好きなものは戦隊ヒーロー。捨てられたペット、ホームレス、厄介事、何でも拾ってしまうので、綽名は疫病神。
「ツクヨミにも異常なし、航行日程に遅延もありません」
雨宮那智、ツクヨミの管制担当だ。身長は185センチと女性にしては高いスラリとしたハンサムで、髪はいつも短く、美青年に見える。格闘技は何でもひととおりこなす接近戦のエキスパートだ。慎重で真面目な努力家、趣味はトレーニングで、備えにいくらでもかけることから、綽名は貧乏神。
「瞬殺やな。先生方、見学する暇もあらへんな」
都築明良、ツクヨミの管制担当だ。身長は155センチ、天然パーマがかったショートヘアがキュートな印象だ。いつも明るい、関西弁のムードメーカーで、自称夢見る乙女。見かけによらず怪力で、数々の物を壊し、綽名は破壊神。
これがチームメンバーだ。だから、邪神なのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます