第六話:ともに洞窟へ2
あれからというものの、私達は魔物を蹴散らしながら洞窟の深部を目指している。
すると強い反応を感じる。これは多分だけど魔法鉱石の発掘場が近づいていると言うこと。
そしてこの付近には魔物が潜んでいるのも間違いないだろう。私は念入りに気配を探る。いくら勇者様と言えども、あのリザードに一斉に襲い掛られるようなことがあれば危ないかもしれない。
絶対に足を引っ張るな、引っ張るな――
「……で、何でこうなっている?」
「つまずいて転んでしまいまして……てへへ」
はい、今まさにリザードの群れに取り囲まれているところ。
反省会は後でするとして、こうなってしまった以上私には責任がある。そしてあれを試してみる価値もきっとある。
「私に考えがあります。挽回のチャンスをください」
ひとまず了承を得なければ。
ゆっくりと考えている時間はない。勇者様の切れ長でいつ見ても端整で力強く魅力溢れるその瞳をじっと覗き込む。
「……よし、分かった。ここは任せよう。俺は何をすればいい?」
「少しだけ時間を稼いでいただければ。後から合図をしますので――」
2手に分かれると私は詠唱を開始する。
前方の6体のリザードへと駆けて行く勇者様。この数だと発動までしばらく掛かってしまうのは間違いない。これ以上プロセスの短縮をすることができないわけで、今はできるだけ引きつけてもらうしかない。より集中力を高めるために目を瞑る。
「ほら、こっちだ!」
勇者様はどうやら群れの視線を引いているみたい。音が少し遠ざかっていることから、さっきまでいた場所から離してくれている? どちらにしてもそれは好都合に変わりはない。
――グオオオオオオッ!
リザード達の咆哮に思わず目が開く。
視界に映ったのは群れに向かい腰を落として構えている勇者様。
まさか打ち合うつもり? あの数を相手にするには、さすがにまずいのではないかと思うけれど。
もう少し。慌てるな、慌てるな――
「
渦巻く蔦を地面に生み出すとリザード達を呑み込み始める。1体、2体と徐々にひきずっていき、ついにはすべてを纏めることに成功した。
「お待たせしました、今です!」
その声にいち早く瞬時に反応した勇者様は、素早く叩き潰すように剣を振り下ろすと、瞬きする間もなくそれらすべてを絶命させた。それはまるで魔法のような強烈な一撃に見えた。
違う、見えたのではなく実際に魔力が一時的に上がっていた。その瞬間だけ急激に反応があがっていたのだ。これが勇者の力なのかどうかわからないけれど、とにかく恐ろしい力だとこの身には感じた。
「やりましたね!」
勇者様は私の方を見ていた。なんとなく興奮気味な様子で……キラキラとしている。彼の意外な一面を垣間見たようなそんな感じかな?
「リザードが勝手に集まっていったように見えたのだが、あの魔法は一体?」
「そうですね。あれはまず蔦をですね――そして重力の渦を――」
「そ、そうか……」
何か失敗したかも、詳しく語りすぎた。いけない、魔法の話になるとついつい。
どう見ても勇者様があまり理解できていない様子だった。
「しかしすごいな。あんな攻撃魔法じゃないものまで使えるのか」
「ふふ……。でもあれは発動までに時間がかかりますし、しっかりと引きつけてくれたお陰なんですよ」
「いや、それはないだろう。すべてお前の力だよ」
勇者様はどうにも何か引っかかりを覚えているらしい。時折疑うような目をする。やっぱり怪しまれているのか、それともまだ知り合って間もないから? それともそのどちらもなのかな。
それは後々考えるとして今は――
「あの、大きい反応がひとつあります! 多分ですけど、これは……」
「ああ、大物がいるってことだな!」
「何が来るかわかりません、気をつけていきましょう。……ってあれ? 待ってくださいよ!」
勇者様は急に私を置いて奥へと駆け出していった。何だろう、気のせいだろうけど目を輝かせていて楽しそうに見えた。彼は戦うのが本当に大好きな人なのかもしれない。
――グオオオオオオオォッッ!
さっきまでのと比べて倍はあるんじゃないかってくらいの体の大きさ。それに負けないくらいの雄叫びもかなりの、威圧感がものすごいリザードのキングだ。
勇者様は剣を構えていた。けれど――
「くっ!」
魔物はあの巨体からすばやい攻撃を繰り出した。それを受け止める勇者様だけどすぐに反撃に転じることはできないみたいだった。
肩で息をするように一度体を揺らすと距離を置いている。
リザードは続けて剣を振り下ろし、彼は左手方向へ体をかわす。続けて横へ凪いで来たけれどそのまましゃがんで回避。
そして立ち上がるその勢いで斬りあげる。――速い! 勇者様だって負けてはいない。
「ぐっ、浅いか?」
今の攻撃は完全に直撃したはずなのにあまり効いている様子がない。硬い鱗に覆われていると思しきこのリザードには効き目が薄いのかもしれない。
***
――グオオオアアッ!
私様の戦いは続いていた。リザードの攻撃は絶え間なく続き、勇者様はというとその猛攻に対して防戦に徹している。
私は私で魔法を駆使するものの、特に状況が変わるといったこともない。
「だ、大丈夫ですか?」
「今のところはな。ただ、いつまで持つかだな……」
私を背にした勇者様は何か考えているように動きが鈍くなる。すると独り言のように呟く。
「あの鱗さえ何とかできればな……」
「鱗ですか……はい、手段はなくはないのですが」
「……また時間を稼げばいいのか?」
「いえ、発動自体はすぐです。この魔法は武器自体に
やり取りの間にもリザードは攻め立ててくる。剣で受け止めたり、飛んで回避するのにも限界がありそうだった。
「しかしそれで決定打を与えられるのなら、試してみる価値は十分にある。俺の事は気にせず頼む、やってくれ」
「で、でも……!」
「大丈夫だ、俺はこんなところではやられない」
「……わかりました。それではいきます!」
勇者様のその鬼気迫る様子に止むなく詠唱を開始、付与魔法を発動させる。
直後眩しい光が勇者様を包み込んでいく――
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