第七話:ともに洞窟へ3
「あの、しっかりしてください!」
「う……あぁ?」
「
勇者様はどうやら瞬間的に気を失っていたのか、声が届いていないようだった。心配で顔を覗き込むと「ああ、これならやれそうだ」と確かに聞こえる。無事みたいでひとまずは良かった。
「しかしこれが付与魔法と言うものなのか……? 青と赤い光が見えるが」
言いながら彼は剣をまじまじと見つめている。
「はい、それが炎と氷のあわせ技、言うならば
「その名前はともかく力の迸りをすごく感じるな」
「ネーミング、お気に召しませんでしたか……ひっ」
――グオォオオオオオオオオオッ!
リザードがこれを見かねたのか割って入ってきた。
「待たせたな、これまでのようには行かないぞ」
勇者様は即座に向き直ると剣を構える。
剣での激しい打ち合いに私にはこれが命のやり取りなのだと思えた。それでも例え魔法を付与できたとしても、相手に触れられなければ何の意味も持たない。勇者様はきっと今攻撃の隙を伺っているのだろう。
「頑張ってください、ファイトです!」
他にできることが応援くらいしかない、しがない魔王です。ただいま申し訳なさを全力のジャンプで表現しているところ。
「こっちだ!」
彼は一転して攻撃の手を休め回避に切り替えたみたい。横や後ろに飛んだり、上半身だけでギリギリまで引きつけて避けている。掠れば恐らくただでは済まない、見ていて心配になる動きだ。
これがしばらく続くと、勇者様の動きに大分余裕が出てきているように見える。もしかすると何か相手のパターンが読めつつあるのかもしれない。
増援が来ないように私は気配察知を怠らないように施していく。何かあれば自分でも動くことができるようにしておかなければならない。
――グアアアアアアアアッ!
ひときわ大きな咆哮が響く。私は怯む体を震わせながらもその様子を見ている。
勇者様はリザードの縦の大振りを見逃さず、右方向へ飛んで回避する。続けて足払いの構えから一振り。これがフェイントになったようで、リザードはこの攻撃に反応して剣で弾こうとしたけれども彼の方がわずかに速い。
間髪入れずに左側面へと飛び込むと、付与魔法を纏った刃は無防備な身体へと滑り込んでいく。
――あれだけの強度を誇っていた硬い鱗は、いとも簡単に断ち斬られたのだ。
「や、やりました! やった!」
この攻撃が突破口となったのは言うまでもなかった。
その後も戦闘は続いたけれど、それでも鱗ごと断ち切られて深手を負ったリザードには、勇者様に迫る程のスピードはすでにない。もう勝負は決まったようなものだ。
そして急激に高まる魔力を感じたのも束の間――
――ザンッ、ザクッ、ザクッ
「あ、あの!」
「ん、ん……?」
「もう……これ以上はやめましょう」
勇者様の腕をぐいぐいと掴み引っ張る。何度何度もリザードだったものに刃をつき立てていたのだ。そして今驚いたような表情をしている。
彼に何かが起こっている?
「と、とりあえず……報告に戻りましょう……? きっと疲れているんですね! そう、少し休みましょう!」
「あ、あぁ……」
わずかに不安を覚える中、私達は魔法都市への帰途に就くのだった……。
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