第二話:初めてのランクアップ

「素晴らしいの一言に尽きますね。貴女の実力ならすぐにでもランクアップを受けることも可能かと。どうでしょう……。いえ! ぜひとも挑戦してみてはいかがでしょうか、リュカさん!」

「え? あ……はぁ?」

「是非、是非!」

「わ、わかりましたって! ちょっと顔近くないですか?」


 あれから私は魔術師ギルドに毎日通っている。何度か依頼をこなしていると、ギルドの人からそのように声を掛けられた。

 ランクアップというのはこのギルドのシステムのようなもので、ランクが高ければ高いほど難しい依頼を受けられるようになるらしい。当然報酬もそれに見合ったものになるのだとか。

 報酬には特にこだわりはない。その上押し切られる形になってしまったとは言え、今の私としてはやれることは全部やっておきたいのも本音だ。


「それではこちらからお入りください。形式上は試験ではありますが、十分にお気をつけて」


 それはギルド員達の監視のもとに行われる昇級試験のようなものらしい。

 ギルド内地下にそういった専用の施設があるらしく、私はそこへと案内された。中は思っていたより広くその奥からは魔力源の反応を感じる。ここが広間でこの先に続いている部屋が恐らく試験をする場所なのだろう。

 戦闘、探索、知識のレベルを一度に計測ができるようになっていて、普段通りにやっていればそれだけで問題はないと説明を受けている。


「それでは試験を開始します――」


 一見すると外に出たのかと見間違うような光景がそこには広がっている。暖かい日の光とやわらかな風、揺れる緑や踏みしめる大地――取り巻くすべてのものが現実なのだと思わせた。それはとても明るい世界。

 もしも私が人だったら、そう信じて疑わなかったのだろう。


 ――本当によくできた偽者フェイクだ。


幻視遮断シャットアウト


 この部屋に施された術式を引き剥がすと、その正体が姿を現した。ここは魔物達が闊歩する洞窟のようだ。床のところどころには奈落へと繋がっていそうな穴が開いている。

 私はあらかじめ隠れ身の術ミラージュウォークを掛けるとそのフロアへと進む。

 辺り一帯の魔物は魔力量からするとどれも同程度に感じる。ということは優先して相手取らなければならない脅威はいないと思う。というのはこの体では感知能力の限界があるようで、すべてを全うすることができなかったから。


 まずはどれから相手にすれば良いのかを考える。どれからでもとは言ってもよく考えないと、一斉に襲い掛かられたりしたら危ないかもしれない。加えて未知の反応が潜んでいたらどうなってしまうかわからないから、ここは慎重さを優先するべきだろう。


 弱点属性は総じて雷。範囲魔法で仕留めるのには最適かも。けれど詠唱時間を考えると完全に無傷ではすまないだろう。一人というのは不便なものだと改めて痛感する。


雷珠ボールライトニング


 いくつか雷の玉を生み出すとそれを拡散、周囲の2体に直撃すると感電させる。それと同時に隠れ身は効果を失った。幸い他の魔物にはまだ気づかれていない。ビリビリと雷を帯びてこちらへと向かう魔物の様子を見ながら、次の魔法の詠唱を始める。


雷派サンダースプレッド


 これはさっき植えつけた雷の玉を弾けさせて衝撃を与える術。それなりに大きな音が響くわけで何体かには気づかれるだろう。たった今巻き込んだ2体は今の術で消滅を迎えた。ここまでは余裕の計算通り。

 今の轟音でこちらに向かって来ている魔物は3体。いまだ気づいていないのが視界の奥に2体いる。本当なら全部まとめて行きたいところだけれど、やっぱり無理はよくない。


 さてここからはスピードを重視させなければ危ない。雷玉の魔法は時間が多少掛かるため使用は控える。そうなると現状では各個撃破しかない。

 雷矢ライトニングアローで距離をとりながらダメージを与えていく。魔物の歩行速度もそれほどでもないのが良かったようで、今のところは上手くいっている。ここでそのうちの1体を撃ち落とす。


 ――まずい!


 集中しすぎたせいか周りの状況変化を見逃したかもしれない。こちらに気づいていなかった2体も寄ってきていた。再び3体と相対することになり、正直このままでは分が悪い。

 そう言えば、ここには使えそうなものがあったなと思い返す――


大樹の沼ブランチスワンプ


 目の前の床に向けてフィールドを生み出す。これは指定地点に向けて対象物を引き寄せる術。

 するとほどなくして3体の魔物が目の前に引きずられてやってくる。

 結果として魔物達の攻撃が私に届くことはなかった。それどころかその姿もすべて消えていた。

 ――目の前の奈落へと落ちていったからだ。


「終わったのかな……?」


 洞窟の奥へと進むといかにもって感じの、大きな宝箱のようなものが設置してあった。でもここで油断は禁物。これには何らかの罠が掛かっている可能性がある。


 感知の術に反応あり。ということはそのまま開けてしまうと良くないことが起きるのは間違いない。

 解除魔法はあることはある。でもこの罠がもし魔法以外で掛けられたものだった場合には何の意味も成さないから、つまりこれはどちらかの賭けになってしまう。

 魔法罠以外のそれが実在していることは知識として持っている。そしてそれを解除できるのは人間の罠の専門家のような存在らしいということも。


 もちろん魔術師ギルドでの試験なので予想通りな可能性も高いとは思うけれど、もしダメだった場合は対処をその時に考えよう。まさか爆発しました、一発終了です! みたいなことはないだろうから。


 とは言え一応防護魔法を掛けておく。魔王たるもの用心は忘れない。

 仮に弱そうなスライムであっても全力で握りつぶすのだ。

 心の準備もできたところで箱に手を掛けて力を入れる。するとギギッという大きな音を立てて蓋がゆっくりと開いた。

 どうやら解除は成功したみたい。ホッと溜息をつくのも束の間。


「試験終了です。お疲れ様でした」とコールが鳴り響く。するとフィールドが元の何もない部屋に戻り、私の帰還を促すように奥に出口が現れる。


 ギルドへと戻ってきた私は、まあまあ上手くいった方かなと自分では思っていた。


「やはり素晴らしいですね……! 私の見立て通り……いえ、それ以上かと。貴女には現状での最上級ランクを付与ということになりますっ!」

「え、そ、そうなの?」

「はい、これは異例なことなのですよ。新たな依頼が入りましたらすっ・ぐっ・にっ! お知らせ致しますねえっ!」


 このテンションについて行くのは魔法より難しそうだ。

 それはさておき私はこのギルドでのAAA(トリプルエー)ランクというものに格上げされたみたいだった。

 まあ、腐っても魔王でもあるし? 正直誰かに自慢したいところではあったけれど。

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