第一章

ヒトの世界へ

第一話:初めての友達

 城を後にした私はある街を目指していた。


 ――ガルルルルルル


 道中には当然魔物の類はいる。こいつらはもう魔族の支配の範囲からでてしまっている、いわゆる野良で生息している魔物。もとは普通の生き物だったのだろうかと考えると少し可哀想ではある。

 とはいえ降りかかる火の粉は払わなければならない。せっかくの機会でもあるし、この姿での魔法の練習相手になってもらう。


 手にしたアークワンドで魔力を制御する。

 正直言うと人の体では魔王の持つ魔力を扱いきることができない。そして力を使いすぎると姿を保てなくなるから、こういう道具を使って抑え目に使っていくしかない。とは言えそのあたりは慣れていけば問題はなくなると思う。


 術式展開、詠唱の開始。普段ならすぐに唱えられるけど、ここもやりすぎると消耗が激しい。なのであまり短縮を考えすぎないようにする。そうなると少なからず相手には隙を見せることにもなってしまう。


炎の矢フレイム・アロー


 この程度のものなら先手を取って攻撃することができるようだ。逆にこれ以上のものとなると詠唱中に攻撃を受ける可能性が出てくる。なかなか不便な体だなというのが今のところの感想。


「ねえ大丈夫? もしかして怪我でもしたの?」


 道中の森の木陰で一人座り込んでいる女の子が見えた。鮮やかな金色のショートヘアを揺らしながら私の方に向けられた茶色の瞳。その表情は今にも泣きそうだった。


「迷ってしまいました……うぅ」

「どこまで行きたいの?」

「魔術師ギルドがある街で、そこの名前と方角が分からなくなってしまって。だからもう帰ろうかと思ったけど、どこから来たかも分からなくなって……」


 ものすごい迷子っぷりに私は思わず笑ってしまった。配下でいうところのそう、ドラゴニュートのドランだ。彼はいまだに玉座の場所を覚えていなくて、毎回お城の外まで出てしまう。人間でも方向音痴はいるものなんだな。と、再度小さく笑う。

 その様子を見てか彼女は頬を膨らませていた。


「わたしなんてどうせ……」

「あ、ごめんごめん。多分そこ知ってるから、一緒に行こ?」


 いじいじと地面を指でぐりぐりとしていた、彼女の表情がぱっと明るくなる。


「本当ですか? あ、わたしはレミアって言います。お願いします」

「私はリュカだよ。よろしくね、レミア!」


 街まで何気ない話なんてしながら二人並んで歩く。その途中途中で魔物なんかも出てきたけど、協力して追い払う。なんだかこういうのって新鮮でいい。

 レミアは私の魔法を見ながら羨ましいと呟いた。聞けば彼女は攻撃魔法をあまり使うことができないのだと言う。

 人と魔族はやっぱり違うのだろう。私は色々なものを使うことができるから考えたことはなかった。「生まれついての素質で系統が決まる」のだと、彼女は言っていた。

 こういった違いが積み重なって、もしかするとお互いの種族が争ったりするのだろうか。そう思うとひどく悲しい気持ちになった。


「わぁ! なんだかすごいですね!」


 私達は目的地へと到着した。ここは魔法都市アレクシアン、魔術師達が集まる街らしい。私は一度来た事があるから知っていたのだ。

 レミアには目に映るものすべてが新鮮だったみたいで、はしゃぎまわっている。何とも微笑ましい。


「ところでリュカさんはここで何を?」

「さんはいらないよレミア! 私もギルドに用があって来たんだ」

「じゃあリュカちゃん、一緒に行きましょ?」


 魔術師ギルドに入ると私達は驚いた。中には沢山の人で賑わっていたからだ。

 こんなにも術師がいるのだと思うと何だか嬉しくなった。

 ギルドへの登録を二人済ませる。ここへ登録しておくとギルドからの討伐や研究などの依頼を請ける事ができるようになり、それから各都市の支部でもそれができるようになる。

 私にはよくわからなかったけれど報酬面もそれなり、とレミアが興奮気味に教えてくれた。


「ではこのへんで。わたし、しばらくはこの街にいますから……きっとまた」

「あ、うん、そうだね……」


 ――ぎゅるるるるるる


 私のお腹のモンスターが鳴いた。この体はどうにもお腹がすきやすいみたい。魔王の時はそうでもなかったというのに恥ずかしい。


「ふふっ、リュカちゃん。じゃあご飯でも行きますか」

「行きたい行きたい!」


 入った近くのお店でレミアと食事をする。取り留めのない話やご飯を半分こしたりして楽しい時間を過ごした。

 ――対等の存在。

 私はずっとこういうのを望んでいたのかもしれない。

 そして別れ際、胸の鼓動の高鳴りとともに伝える。


「あのさ、レミア。私と、お、お……っ、お友達になってくれないかなあっ!?」

「あ、それわたしも言おうと思ってたよ。こちらこそ喜んで!」


 そうしてこの日、私に生まれてはじめての友達ができた。

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