第38話
どこに行ってもいい夫婦だねぇと勘違いまでされ、やっと帰った時にはもう三時を回っていた。
「重くないですか?」
「お揚げとお豆腐だけですから」
「五時半には魚屋が配達に来てくれますので、もし手が離せなかったら支払いをお願いします。土間の方の食器棚の引き出しにお財布が入ってますので」
「はい。でも、そんなところに入れておいたら不用心なのではないですか?」
「うちの下宿の子も知ってますから、大金は置いてませんよ。それに、悪い子はいません」
「すいません。疑うようなことを言ってしまって」
「いえ、普通に考えるとそうなりますから気にしないでください」
すべて冷蔵庫に入れてから大葉とチーズだけを出し、じゃがいもを栞に剥いてもらい、その間にいつも作る小松菜と揚げの炒め物を作っておく。
「こんなに沢山のじゃがいもどうするんです?」
「縦5ミリくらいにスライスしてお皿に載せてラップして下さい。レンジで1分ほど加熱すればいいです」
剥いたじゃがいもの半分は茹でてポテトサラダにし、ハムの代わりにカニカマを入れる。
「熱っ!」
「大丈夫ですか?すぐに冷やしてください」
手を持って流しで冷やしていると、後ろからヒューヒューと声がする。
後ろを見ると珍しく堀内と賢司が一緒に帰ってきていて、こちらを見てニヤニヤとしている。
「馬鹿な事言ってないでカバン置いてきてください。ちょっと火傷しただけですから」
「え?そうだったんだ、ごめん。薬箱いる?」
指の状態を見ると、少し赤くなってはいるが大したことはなさそうだったので、要らないと答え、コソッと後で桜狐に治させますと言う。
「あ、もう大丈夫です」
「あちらは熱いので私がやっておきます」
そう言い、芋を二つ一組にして、両側に大葉を置き、梅とチーズを乗せて挟み、軽く塩コショウしてから、フライの用意をする。
「揚げるんですか?」
「ええ、どちらかと言うと焼き揚げですね。フライパンでパン粉の色が変わるまでじっくりと。熱々が美味しいですよ」
いくつか作っていき、多めの油でカラッと焼き上げていく。それを皿に並べいくつかは半分に切り、見た目を綺麗に見せようとするのだが、何かが足りない。
「栞さん、ビニールハウスにトマトが成ってますから取ってきてもらえます?」
「いくつ入りますか?」
「二つあれば」
取りに行ってもらっている間に、レタスを敷きトマトは洗ってくし切りにしてかざる。
こんなものですかねぇ?とサラダとじゃがいもの挟みあげ、揚げと小松菜の炒め物を見て、やっぱり焼き揚げが食べたいと、揚げを何枚か焼いていく。
縦に5分割して切り、一味、ミョウガ、ネギを乗せて、軽く醤油をかけておく。
「これなんですけど、全部机に並べてもらえます?真ん中は開けておいてください」
「分かりました。お酒はどうされるんですか?」
「火鉢の横に用意してあります。後はビールとジュースを出すだけですから。栞さん日本酒飲めましたよね?」
「ええ。たまにお神酒を飲んでましたので」
「なら、いいお酒があるのでお出ししましょう」
全て並べてもらっている間に米をお櫃に入れ、味噌汁の保温機も横に置いておく。
あとは刺身だけだなと思いながら、渡すのを忘れていた洗面器などの銭湯用品を取りに土間を出る。
洗面器をもって土間へと戻ると、雪翔に海都に隆弘まで土間に揃っていた。
「お帰りなさい。銭湯行かないんですか?」
「もう行ってきたけど……ほんとに綺麗だよなぁ。栞さん」
「海都、栞さんが困るでしょう?賢司達呼んできてもらえます?」
「うん、分かった」
「隆弘はビールとかジュースとか出してください。栞さん、これ銭湯用品です。今夜は……?」
「朝に頂きましたので明日に」
「分かりました」
毎度ー!と魚屋が来たので代金を払い、真ん中に刺し盛りを置く。
お膳を用意していると、自分もお膳でと言うので二つ用意し、火鉢を挟みお膳を置く。
「お酒はいつも常温ですか?」
「ええ。雰囲気だけでもと徳利に入れますが。目安として」
「用意しておきますね」
板の間で用意してくれているので、取っておいたフルーティな日本酒を出し、硝子の徳利と御猪口を出す。
みんなが揃ったので「ようこそ、下宿屋へ」と乾杯をし、料理を食べる。
もう飲める大人達は刺身がやはり進み、高校生組は揚げ物やポテトサラダなどがやはり気に入ってるようで、ご飯を何度もお代わりするが、何故かお代わりと栞にお茶碗を出している。
横を見ると、お櫃もお味噌汁も栞の横にあり、海都は母親でも出来たかのように甘えているようにも見える。
「栞さん、今まで自分たちでやらせていたので……」
「今日だけにしますね。それにしてもすごい食欲」
「でしょう?お代わりを自分でさせるのも、一々やっていたら、自分たちが食べる時間が無くなるからなんですよ」
「言われてみたらそうですよね」
「海都、自分でしなさい。栞さんが食べられないでしょう?」
「だってー!」
「だってじゃありませんよ。女性がいるからと言って、ルールは変わりませんからね?」
「冬弥さんのケチー」
「ケチでもなんでもいいです」
「あ、忘れてた。これプリントなんだけど」
渡されたプリントに目を通すと、野外学習と書いてあった。
「これ、新入生がするやつでしたよね?」
「そう、俺が入学した時中止になったじゃん。新しく出来たキャンプ場に市の施設が出来て、そこで寝泊まりして、昼はキャンプ場でカレー作るらしいよ」
「へぇ」
「で、弁当がいるんだけど……」
「あれ?明日じゃないですか!承諾書もついてますし」
「俺は下宿だからって、先生が母ちゃんに電話したって。捨てれる容器で持ってきなさいって言われたんだけど」
「分かりましたよ。今度からちゃんと出してくださいよ?えっと、2泊3日ですか。もう用意は出来てます?」
「それはバッチリ!」
「勉強以外は元気なんですよねぇ。雪翔もプリントは早めに出してくださいよ?春からですけど」
「はい。あ!郵便が来てて、これ……」
封筒を受け取り中を見ると、制服の採寸と説明会があると言うので行かなければならないなと、親には電話したかと聞く。
「説明会は話が長いだけだから、もらった資料を送ってほしいって言われて、制服は採寸してきなさいって……」
「来週ですね。私が代わりに二つとも出ますからいいですよ。中学の制服を出して掛けておいてください。日干ししますから」
「はい」
「冬弥様、そういったものは母親がほとんどでは?」
「ええ、とても香水臭いですけどね、海都の時も行きましたから、隅にいればいいんですよ。来たって事実がいるんですから」
「私も行きましょうか?」
「母親では無いですよねぇ?」
「えっと、姉?でしょうか?」
「私は兄ですか?いいでしょう。来週なのでこちらはいいとして、海都!明日の朝いつもより一時間早く集合になってますけど!ちゃんと夜寝てくださいよ?」
「りょーかーい」とご飯を頬張っている姿はまだまだ子供にしか見えない。
さて、と用意した日本酒を栞に勧め、硝子に入っているのが気に入ったのか、少しずつ飲んでいる。
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