四社

第37話

 冬の神社へと行くと、工事もほとんど終わっており、新しい社務所もできていた。


 三人で行くと、社の前には祝い酒などたくさん置いてあったが、当の本人がいないので、酒だけ置いて一旦下宿へと行くというと、珍しく付いてくるというのでそのまま向かう。


 ついた早々、雪翔が窓を開けて掃除している姿が見え、何故か玲の姿まである。


「あなた何してるんですか?」


「おう、おかえり!社に行ったらこの坊主……雪翔が居てさ、俺のこと見えてるから話してたんだよ。そのまま手伝ってやるよって話になって……」


「そうでしたか。紫狐、朱狐はどこです?」


「今朝餉の片付けをしていますが」


「秋彪、雪翔の手伝いをお願いします」


「なんで俺なんだよー!」


 文句を言っている声は聞こえているが、台所が気になって仕方が無い。


 土間へと入ると、たった一日なのに何故か泥棒にでも入られたような散らかりようで、朱狐を呼ぶと申し訳なさそうに出てきた。


「これは一体どういう事ですか?」


「朝餉の支度までは出来たんですが、それから皆さんを送り出して片付けようと思ったら、色々なものに引っかかってしまって……」


「バレてはないですね?」


「それは大丈夫です!」


「なら雪翔の所へ行って、紫狐に説教されてきなさい……片付けはやっておきますから」


 しょんぼりと姿を消し、紫狐のところへと行ったのを確認してから、どこから掃除しようかと周りを見渡していると、栞が手伝いますと土間へやってきた。


ほたる、冬弥様のお手伝いをして下さいね」


「畏まりました」


「ゆっくりしててもらっていいんですよ?」


「いえ、大丈夫です。みんなでしたら早いですし」と流しを片付けに行ってくれたので、周りの散らかったものから片付ける。


 大方片付いた所で、しょんぼりと尻尾が下がっている朱狐とプンプン怒っている紫狐、雪翔や秋彪に玲まで入ってきた。


「どうしたんです?」


「あの、あんまり朱狐ちゃんを怒らないであげてください……頑張ってたし。しーちゃんにも言って、やっとお説教終わってくれたので」


「まぁいいですけど。お説教係は紫狐に任せてありますから。それより、みんな不審がってませんでした?」


「あ、朱狐ちゃんが来たので、メモとお金僕が預かってました」とポケットから出したので受け取り、お茶を入れますからと板間に上がってもらう。


「冬弥様、こちら終わりましたからお茶は私が入れますね」


「お願いします。で、あなた方兄弟は何をニヤついてるんですか?」


「いい夫婦になりそうだなって思って見てただけだよ?なぁ、秋」


「そうだね。でもあんまり言うとまた怒るよ?」


「当たり前です。それよりも冬の神社は良いんですか?空けたままで」


「親を置いてきてある。それより、どうなったんだ?」


「秋彪に説明に行かせようと思ってたんですよ。私はこちらの方の記憶操作もしないといけないので」


「なら、俺達那智の所に行ってくるよ」


「お茶入りますけど……」


「また今度!兄貴行こ」



「すいませんねぇ、慌ただしくて。この子が雪翔です。彼に記憶操作はいりません。見えてますので」


「栞です。こちらでお世話になります」


「雪翔です。あの、部屋なんですけど……」


「出来てます?」


「しーちゃん達が手伝ってくれたので。人に化けるのもうまいんですね」


「その位は出来ますが、尻尾がたまに出るんですよねぇ」


「荷物を運んでもらって、お茶碗も買ってきたんですけど」と戸棚を開ける。


 白が基調の朱色の入った茶碗セット。お箸も同じ柄で揃っている。


「よく見つけましたねぇ」


「商店街の陶器屋さん、冬弥さんが結婚するのかって聞いてましたけど……」


「そう、思われるかもしれないですが、住むのは下宿の方ですから」


「後、部屋なんですけど見てもらってもいいですか?」


 ならばと、日用品を取りに行ってから部屋へと向かう。


 入ってすぐのミニキッチンの前には、茶碗と同じような白が基調の斜めに朱色の入った暖簾。


 キッチン前の四畳には薄い黄色のキッチンマットが敷いてあり、隣の襖を開けるとアイボリーの絨毯とカーテンに差し色として深みのある朱色が入っており、梅の花が刺繍されたカーテンと同じ柄のクッションが二つ、薄いピンクとグリーンと置いてある。


 布団はベッドカバーが掛けられているが、それもアイボリーで統一されており、家具は倉庫の奥にしまってあった和箪笥と化粧台、小さいが茶箪笥が置かれていた。


「また雰囲気変わりますねぇ」


「ここを雪翔さんが?」


「色しか聞いてなくて、どんな方かもわからなかったので……」


「ありがとうございます。ここならお茶くらい沸かせそうですよね?使っていいんですか?」


「構いませんよ。土日のお昼は皆さんでなるべく作ってもらったりしてますから。冷蔵庫は土間のところにあるので共有ですけど、ここに置いても構いませんよ?」


「また必要になったらお願いします」


「栞様、気に入りました?蛍はこのフカフカなもので寝たいです」


「あ、駄目よ?それは座布団じゃないんだから」


「いつも一緒に?」


「たまに甘えに出てくるんです。行けないとはわかってるんですけど」


「雪翔、座布団て余分にありませんでした?」


「客間の押し入れに幾つかありましたけど」


「二つ持ってきてください」


 雪翔が取りに行き、栞がいいですと断っているのを、いつから聞いていたのか漆が出てきて茶化してくる。


「冬弥、いつもより甘いじゃないか」


「こちらは預かった側ですからちゃんとしないといけないでしょう?琥珀はどうしたんです?」


「社で鳥居の見物してるよ。しめ縄が出来たらしくて今、人間が大勢で階段登って運んでるからね」


「顔は覚えておいてくださいよ?」


「分かってるが……しめ縄がつく頃には半分は階段が欲しい所。そこの小さいのが上手そうじゃないか?」


「あの、雫の事ですか?漆様」


「そう、その子の力とあの子供の力があればいいのが出来そうだ」


「手伝わせます。冬弥様、うちの狐でよければ使ってやってください。私にはそれほど力はありませんが、お役に立ちたいのです」


「良いんですか?漆と琥珀は口うるさいですよ?」


「雫、いい子にして皆様の言うことを良く聞けるわよね?」


「は、はい……」


「えっと、怯えてません?」


「よく泣くんですけど……漆様が言われるのでしたら、この狐も自信がつくのではないかと思います」


「あんまり虐めないでくださいよ?」


 座布団を持ってきた雪翔にさっきの話をすると、雫はすぐに雪翔の足にくっつき、後ろに隠れている。


「懐かれましたねぇ」


「雪翔さん、この狐この事お願いしますね」


「はい。雫ちゃんと少し遊んでもいいですか?」


「ええ」


 案内してきますと紫狐に朱狐、雫を連れて境内まで行くというので、漆に琥珀にも同じことを伝えるように言って、部屋を出る。


「冬弥様はこれから何をされるですか?」


「みんなが帰ってくるまでに、夕食の買い出しと準備ですね。入口を入れば今までの音々の記憶がなくなり、栞さんにすり変わるように術をかけてきます。そのまま買い物に行きますが……はい、来るんですね?」


「行きます!」


 術を掛けてから商店街へと向かい、裏で作っている野菜のことを話、買うのは肉や魚、育てていない野菜とか調味料くらいだと話した。


「あの、術はどんな術を?」


「そのままですよ?お預かりしたお嬢さんで、私の見合い相手だと。行けませんでしたか?」


「いえ、そんな事……」


「なので、今日は歓迎会だとも入れてあります。今夜は豪華にしますけど嫌いなものとかあります?」


「好き嫌いはないです」


「そうですか。ここが商店街です……ここの方の記憶も少し操作したいのでいくつか寄ります」


「はい」


 日用品店から周り、新しく栞が最近来たと上塗りをして周り、魚屋へ行っていつもの刺し盛りを頼む。


「遂に冬弥さんも結婚かい?こんな綺麗な人連れて隅に置けないねぇ」


「まだまだ先の話ですよ。それと、その鮭も切り身でいつもと同じように。後は、サバを下さい。3尾三枚下ろしにして置いてもらえます?」


「あいよ!後何処か寄るなら一緒に配達するけど?」


「いえ、今日は大丈夫です」


 お礼を言い、八百屋で大葉とチーズを買い、ついでにとシチューなどの素も買っておく。


 豆腐屋では定番の揚げなどを買って荷物が多くなってきたなと思いながら、軽いものだけ栞に持ってもらう。

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