第36話

 缶詰のミックスビーンズを見つけ、フライパンでエビやイカなどを炒めてから、ビーンズを加えて中華味の素で味付けをする。

 粗塩があれば良かったのだが、流石になく塩のみで味付けし皿に盛り付け、栞の作った炒め物をもって客間へと行くと、今度は酒が足りないと言われ、栞が徳利に入れて持ってくる。


「すいませんねぇ。久しぶりに帰ったので、父も兄も飲みすぎで……」


「いえ、私も久しぶりにこちらに来ましたが、向こうのものも揃ってますし、大分と変わりましたね」


「そうですね。流石にガスコンロはないですが、火は妖力でつけられますし……」


 止める間もなく、紐で着物の袖をくくり、お膳の物を洗っている。

 流石に水道がないので、水を井戸に汲みに行くが、手際もよくすぐに終わってしまった。


「あの、私洗い物とかならできますので、言ってくださいね。お料理は簡単なものしか作れませんが」


「お酒は飲めますか?」


「少しなら」


 酔っぱらいを放っておいて夜風に当たりながら2人で縁側で先ほどの摘みをつつきながら飲む。


「冬弥様はいつも横になられてるんですか?」


「寛ぐ時はですが、下宿ではしませんよ?油断したら尻尾が出てしまう」


「私、本当にお邪魔してもいいのでしょうか……」


「明日には部屋も準備出来てますよ。先程連絡したので」


「社なんですが……」


「10居ましたよね?」


「はい……」


「毎日交代で二匹付ければ、早々行かずに済みますよ?警備も来ますし」


「それで……良いのでしょうか?」


「もう少し気楽に考えてもいいと思います。行くなと言っているわけでもないですし」


「はい。あ……戻ってきました」


 みんな寝ているだろうと影から報告を聞きみんなに戻るように言う。


「牢に女が15。流石に逃がしてあげたいですが、買ったものならば取り上げることもできませんしねぇ」


「でも、雫は影が皆さんについていないと」


「そこだけで抑えるのもきついかも知れませんが、明日の朝にでも兄に伝えておきます。もう遅いので休みましょうか」


 翌朝、兄が出かける前に父も含め影の話を伝える。


「分かった。注意しておく」


「それでお前達はもう帰るのか?」


「少し街を見て、楼閣の方を回って帰ろうと思ってますが」


「栞さんを連れてかね?」


「父上、女人が楼閣を歩いてはいけないと言うことは無くなったと聞きますが」


「確かに……ただな、まだ悪いものも居ることは忘れるなよ?」


「ええ。警備はいつからになりそうですか?」


「既に向かわせている。冬弥からも話しておいてほしい」


「そうします。では私たちはこれで……」


「冬弥、栞さんの事だが……」


「なんです?」


「あちらの親御さんに昨夜手紙を渡しておいた。大事なお嬢さんだ……分かっておるな?」


「良いかただとは思ってますよ?ですがそれと結婚は別物ですので」


「全く……まぁいい。毎月使いに家賃は持たせるから」


「では。この辺で失礼します」


 三人で家を出て街の方へ向かい、一応栞の実家にも挨拶に行く。


 父と同じことを言われ、よろしく頼むと言われた後にふと服をどうするかと聞く。


「着物では時代に合いませんものね?」


「帰ったら買いに行きましょうか」


「冬弥様はお着物のままですか?」


「一応持ってはいますよ?あの子達の学校に行く時に着ることが多いですけど」


「そうなんですか。私は似合うでしょうか?今まで社からもほとんど出ず、姿も消したままでしたので」


「緊張しますか?」


「少しは……」


「なぁ、俺邪魔?」


「秋彪、あなたは馬鹿なんですか?」


「ごめんて。それよりもさ、あれ見てよ」


「こんな街中にショッピングモール?」


「建物はこちらと変わらず木造ですけど……」


「見ていきましょうか?」


「うん、どんな奴がやってるんだろ?」


「売ってるものも気になりますねぇ」


 平屋建ての店が四方を囲んでおり、真ん中にはフードコートと思わしき飯屋がある。


「これ、人間界のもの売ってるね……」


「ですねぇ。だから缶詰など豊富だったんですね」


「狐の着てる服も今どきのものだよ?簪もあるけど、ペンダントなんかも売ってるし」


「不思議な光景ですね」


「ちょっと待っててください」


 一つの店に入り店員に話を聞くと、つい最近出来たがまだ洋服などは特に需要がないといい、テーマパークのようになっていると言う。

 始めた人は不明だが、長くあちらで暮らしてた人で、数名が色々と品物を入れてくるのを売っているだけだと言っているが、役場にも認められた場なので問題もないと聞いた。


 そのことを二人に話すと驚いてはいたが、商品的には最近のものが多い事と、何故か値段が安い事もあったので、ここで揃えようとのことになり、何点か洋服を見ていく。


 着替えた姿を見ると、どこにでも居る女性にしか見えないが、白いニットにフレアースカートとお嬢さまっぽかったのもあるが、それがまた似合っているので、よく似た服を選んで袋に入れてもらう。


「着ていったらいかがですか?すぐに下宿ですし」


「あの、変じゃありません?」


「よく似合ってるよ!奥さんて感じ」


 ジロっと見ると、いけねッという顔はしていたが楽しんでいるようだったので、まあ良いかと近くのアクセサリー屋による。


「栞さん、これを」


「何ですか?」


「えーと、へあばんど?かちゅーしゃ?とか言うものらしいです。髪が長いので前髪をあげるのにいいと聞きましたので、先ほどの服に合わせた色を何点か」


「ありがとうございます。大切にします!」


「良かったじゃん」


「はい。付けてみてもいいですか?」


 構わないと言うと、鏡の前で一つつけこちらを見てニコリと笑う姿が、どうしてもおとなしい感じの女子大生に見えてしまう。


「さて、あと必要なものは……一人で入れます?」


「え?あ、はい。行ってきます」


 どこに行ったのか聞く秋彪に女性の下着だと答えると、何故か顔を赤くしている。


 結構な荷物になったが、秋彪にすべて持たせて楼閣の通りに入る。


 緑の柱がその証だとよく聞くが、結構な数の人がいてどこも賑わっている。


「変な感じはありませんけどねぇ?」


「どこも似たりよったりだろ?この先から帰るのか?」


「ええ、あの岩戸に出ますから……それにしても、男性は朝から仕事もせずに入り浸りですか」


「だよなー。それは気になるけど聞けないじゃん」


「ですよねぇ。とにかく帰りましょう。もう、夕餉のことが心配でして……」


「まだ朝だけど?」


「朱狐ですよ。朝餉はいいとしても、任せ切りにしたら毎日シチューかカレーになってしまいます……私の判断ミスですが、桜狐をつけれは良かったですね……」


「まさか?」


「まさかです!調子が悪かったと言い訳する……いや、夜に帰宅したものから記憶操作するので一緒に消します!」


「あ、兄貴の祝い忘れてる」


「そこの酒屋で買いましょうか」


 祝の酒を買い、流石に秋彪の手は塞がっているので自分で持つことにし、岩戸の番をしているものに帰ると告げる。


「畏まりました。一時的にこちらへの道は塞がれ、すべて役場前に出るようになりますので、お戻りの際はお間違えの無いよう……」


「今日からですか?」


「東は昨晩からです。何かあったんでしょうか?」


「大したことではないと思いますよ?ご苦労様です」


 中に入り真ん中辺りまで進むと、警備が数名立っており、出入りの者を審査しているところだったが、既に顔は知られているので、先に通してもらい奥へと進む。


「良いのか?」


「何がです?」


「狐だけじゃなくて、妖怪もいたぞ?」


「妖街ですからねぇ」


「違うって。まともなのはいいとして、ダメな奴らはまた街に戻されるんだろ?あちらで何かあったら大変じゃないか」


「それなら、ついでに捕まえる手間が省けると兄が言ってましたよ?」


「ならいいんだけど。出たら先に冬の神社?」


「そうしましょう。祝い事は早いほうがいいですし」


 岩戸を抜けると人間界のいい空気が流れ込んでくる。

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