妖街
第32話
「私は
指さすほうを見ると音々だったので、秋彪が捕まえて社の前に立たせる。
「中に入れるなよ?穢れが移る」
「俺はいいだろ?」
「それはコレがほかのものを誘導していたと?」
「ええ。この社は私の力では全てが守りきれないものですから、社だけを中心に結界を。私がいない時間が長ければ効果が薄れてしまうのです。なので、外へ行くにも最小限にしていたのですが、社を出たところで怪我をした彼女が助けを求めてきて、助けようと近寄った瞬間に『今よ!』と……」
「だそうですよ?だからあんなにボロボロだったんですか?」
「わ、私知らない……」
「那智」
「嘘はない。栞の目は真っ直ぐだし影も同調している」
「ですよねぇ?さて、どうしたものか……」
「兄貴、冬の神社に居ないといけないんだろ?」
「ああ、だから向こうに送ることが出来ないな」
「俺も嫌だ」
「私は千年祭があります!」
「俺が一人で送るのは無理。誰か来てくれないと困る」
「だが、その間社はどうする?」
「分かりました。私が行きます…… 琥珀、漆、社を頼みます。橙狐、朱狐と一緒に下宿を任せます。玲、千年祭手伝ってくださいます?弟さんについていく手間賃に」
「ん?いいぞ。秋彪は任せる」
「俺もだろう?追加で秋彪とお前の社も見回っておく」
「それはどうも。ついでにここもお願いできます?」
「なら、俺が見ておくよ」
「まだ冬の狐じゃないだろう?」
「そのうちなるし、秋彪の兄の顔を立ててくれ」
「自分で言うな!ごめん、栞にも来てもらわないと。野良のやった事を報告してもらわないといけないんだ」
「分かりました。社はおまかせします」そう言って二匹の小さな狐を出す。
「あなたは影が十匹ですか」
「はい。親は二匹です。一尾だけ連れてあとは社にいさせます」
「ならこのまま行きます?」
みんなが合意し、行こうとするも音々が嫌がって動こうとしない。
「秋彪、もっと縛り上げたら動きません?」
「鬼畜だな!俺にはできないよ」
「変わってください。私が変わりに連れていきます」
久方振りに力を使い、みんなにも見える程の太い紐でぐるぐる巻に縛り、足だけ動かせるようにして、歩けと言う。
「あ、歩かないとさらに縛りがきつくなりますので」
「そんな……助けてください。何でもしますので」
「嫌です。騙すのはいいですけど騙されるのは嫌いなんです。今回は暇だったのと、人間に見られたからしただけの事です。野菜さえわからない野良に興味も何もありません。行きましょう」
ほぼ引きずって社を後にし、やっと歩かせた時にはもう岩戸の前だった。
「秋彪変わります?」
「俺にそんな趣味ない!」
「かわいそうな気がするんですが」
「気にしなくていいですよ。結婚するなら栞さんみたいな方が良いですよねぇ」とわざと大きな声で言う。
「私も冬弥様のような方でしたら、尽くしますのに」
「お前等わざと言ってるだろ?」
「さて、行きますかねぇ」
狐の国への入口は、人が見る分には入れないほどの大きさだが、奥へ進んだ突き当たりを叩くとちゃんと受付がいる。
「どちらまで?あ!冬弥様でしたか。どうぞお通り下さい」
「ここからの出入りは多いのかい?」
「最近は少ないですね。害の無い妖怪は出入りしますが」
それだけ話して中へと進む。同じ様に進むと分岐点があり、迷うことなく左を選ぶ。
「それにしてもここは変わりませんねぇ」
「変わらないって言っても、右に進んだ方が早かったんじゃないの?」
「繁華街まで行くのならですよ?こちらは役人のところに行くのでこちらのが近いです」
「誰か知り合いいるのか?」
「ええ。毎年妖狐饅頭セットを送ってくる変わり者が。でも去年は揚げ餅セットでしたねぇ」
「どこかのお土産じゃないんだから……」
「まぁ、頭の固い狐ですよ。役人なんですけどねぇ?」
そう言うとヒッと小さい声を上げてまた歩くのをやめようとするので、思いっきり引っ張る。
出た先は人間の暮らす街。昔で言う江戸時代のような建物が沢山並んだ場所。その中の東役場の前の出口。
妖怪の街と言っても様々だが、東西南北役場が分かれ、中央に詮議をする場がある。
「ここって……」
「役場前ですよ?出口で行き先を思い浮かべるとその周辺に出るでしょう?それと、あの白塗りの壁の家知ってます?」
「あれは仙の住む家じゃん。あ、仙人様の方じゃないよ?」
「仙と言っても様々ですけどねぇ。基本仙は仙人の御用聞きのようなものです。ひと昔前の大名みたいなものですけど」
「だから、分け方が大名だの捕方だのって言うんだろ?そのくらいなら知ってる」
「あそこ、私の実家です」
「はぁぁぁ?お坊ちゃまがなんで神社にいるんだよ!」
「役人になるのが嫌だったからですけど?」
「勿体無い。俺ならそっちの方が楽でいいと思うけどな」
「そうでもありませんよ?で、今から引き渡す方、兄です」
秋彪が口をぱくぱくさせている間にも先へと進み、役場の門を叩く。
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