第31話

「あのさ、悪狐倒してるの影の狐じゃん。那智ってここの狐助けるんだよな?」


「その予定ですが?」


「なんで捕まってる狐の方の悪狐に手出さないの?」


「様子見でしょう?それに、野狐が出てくるまで動きませんよ彼は」


「見てるだけかよ!」


「私もそうしますけど?」


「だから、なんで?」


「手が汚れたら臭いじゃないですか。それに、見てください。外に出たからかここの狐が力を出し始めてますねぇ。結界から出たからでしょうけど」


「でも影があんまり動かないぞ?」


「弱りもするでしょう。珠の気配は感じます?」


「少しな。ここの結界でよくわかんないけど」


「まだまだ子供ですねぇ」


 そう言いながらも外を見ながら酒を少しずつ飲む。那智が動かないのはここの社狐が七尾であることも関係しているようだが、多分野狐共が出てくるのを待っているだけでは無いようだ。


「我々は小さな神社の狐とはあまり関わっていませんでしたが、これを機に千年祭までに交流を持つのもいいかもしれませんねぇ」


「あ!次は那智の番だからか!」


「ええ、それもあります。秋彪と那智だけでも十分ですがもう少し仲間を増やしてもいいと思うんです」


「付き合いあるのか?」


「あと二つ小さな神社があるでしょう?そこの狐を知らないわけじゃありません」


「千年だもんな」


「伊達に年は取ってませんよ?ただ、大人しい狐たちなので、手を貸してくれるかどうかはわからないですけど」


「俺は見たことないけど、那智も知ってんの?」


「知ってるはずですよ?那智も馴れ合わない性格なので顔を知っている位だと思いますがねぇ」


 そんな話をしていると、野狐に混じって音々も出て来た。


 ちらりとこちらを見るが、野狐に押さえつけられているところを見ると、盾にされるのか社狐の奪還に使われるのか……

 どちらにしても、手を出すと那智が怒りそうだったので見ているだけにしておく。


 嫌がる音々を先頭に立たせて那智に向かって野狐が何かを言っているが、那智は違う方を向き話さえ聞いていない。


「あーあ、あれじゃまた怒らすだけなのに」


「秋彪」


「ん?」


「もっと隅々まで気配がわかるようにしたらどうです?敵か味方か分かりませんけど、見られてます」


「尻尾五つにそんな事言われてもさ……」


「注意が足りないと言ってるだけです。何本の尾かまでは分からないですが先程から奥の木陰に隠れてみてますねぇ」


 俺見てこようか?と言うのを止めて、途中でやってきた漆に見に行かせる。


 すぐに戻ってきた漆が「感情に任せて出ていこうなどとこの馬鹿者が」と秋彪への小言は忘れず、「尾は五、雄、黒」


「どんな感じでした?」


「こちらに気付いてはいたようだが、堂々としておるし、静かな感じのやつだな。だが、そやつの影が、すぐに帰るので気にするなとか言っておったぞ?」


「ご苦労さま。そう言う事らしいですけど、見たいですよねぇ?」


「もちろん」


「では、ここに招待しましょうか。少し留守番頼みますよ?結界壊さないでくださいね?」


 社から出てすぐにその狐の後ろに立つ。


「__!」


「何もしませんよ。あなたどこの方です?」


「あっちから出てきたんだよ。冬の神社を見に来たら楽しそうなことしてるから見学してただけだ」


「何故?」


「何でって、今噂の冬の神社。って知らないのか?」


「あちらの世界での噂ですか……?」


「あんたのことも聞いてるぜ。冬弥さん」


「一先ず社まで来てください。そうでないと、那智が嫌がって片付けてくれそうにありません」


「そりゃぁ邪魔したな」


 大人しく来て欲しいと言うと、あっさりと分かったと言われ、社の中へと招き入れる。


「秋彪、この方です」


「ん?」


 振り向いた秋彪が相手に指をさし、驚いた顔で固まっている。


「お知り合いですか?」


「何でここにいるんだよ!兄貴!」


 お兄さんと聞いて驚くが、兄なのに何故尻尾がとも気になる。


「社が焼けて戻ったのは知ってるだろ?」


「うん」


「何かここに来ないとなって思ってさ……って事でいいか?」


「お話中申し訳ないのですが……お兄さん?」


「そう、俺の本当の兄貴。北の地にいたんだけど何年か前に社が燃えて、今更地になってるから戻ってきてるんだってってところまでは聞いたよな?」


「そうそう、仙狐様に言われてきたんだよ」


「会われたのですか?だいたい人前には出ないので、本当にいるのかとさえ言われている方ですよね?」


「もしかして、帰ってない?」


「ええ、100年程」


 話を聞くと、伝説だとか色々な噂が回り出したので、直接見ることは叶わないが、七匹の仙と天狐が年ごとに本山に住まうようになったと言う。


「いちばん近い所で、この先の岩戸から来たんだけどさ、結構妖怪達も戻ってきてて賑やかになってきたぞ?」


「そうですか。あ、お名前を聞いても?」


「俺は れいだ」


「二月ですか……冬にちなんだ名ですね。清らかで澄んでいるといった意味ですね」


「まぁ、生まれがその月だからかな?冬の神社で託宣を待てとか言われてさ」


「兄貴が冬の社に?」


「さあな?選ぶのは神だとか言ってたぞ?」


「そこは我々にもわからないので、暫く冬の神社に居るといいでしょう。今はこちらです」


「そう、あの狐見たことあるんだよ……確か楼閣で、大名みたいな風貌のおっさんに買われた狐じゃなかったかな?」


「黒幕ですかねぇ?」


「いや、何でも数匹の女狐が逃げ出したとかで騒ぎになってたはず。すげー似てる」


「ならば本物でしょう」


 酒を飲みながら話し、外をみると那智がやっと動き出した。


 身のこなしは流石と言ったところで、上手く影に任せながらも社狐を抱き抱えこちらに連れ込む所は誰も真似はできないたらしっぷりだろうが、その一瞬で音々以外全部倒しているのも見事。


 思わず拍手をしていると、へたりこんで座っている社狐が中心に。すぐに桜狐と葉狐を出し治療させる。


「あなたがここの社狐で間違いないですね?」


「はい……助けていただきましてありがとうございます」


「珠は?」と那智が聞くと、ここにと胸のあたりを触る。


 確かにその辺りから珠の気が溢れており、社の気と同化しているので間違いはなさそうだ。


「何があったのかと、あの野良について聞きたいのですが」


「俺はこいつが気になるんだが?」


「俺の兄貴だよ。仙から冬の社に行くように言われたとかで来たんだって」


「那智だ」


「玲です」


 挨拶だけかと言いたいところだが、早く済ましてしまいたい。


 今宵もみんなが何とかしてくれるだろうが、明日の朝餉のことも気になる。


「朝餉が気になるか?」


「まぁ。朱狐に代わりを任せますから、気づかれることはないでしょう」


 朱狐を出して暫く下宿を任せると言い、これで腰を据えて話が出来るなと那智にまで言われ、秋彪が出した酒を飲みながら話を聞くことにした。

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