第30話

 言い訳がましい書き置きとお金を置いて、すぐ様姿を消して那智の元へと急ぐ。


 1匹秋彪を呼びに行かせ、水孤達に音々を運ばせる。


「なんだ?真昼間から。集合は夜だろう?」


「那智、秋彪も来ます。面倒なので今からコレの社に向かいますが、我等はまず見ていましょう」


 那智の眉がピクリと上がり、どういう事だと無言で聞かれる。


「ちょっと、寝てたんだけど俺は!」


 秋彪がやってきて同じことを言うと、音々が助けてとばかりに秋彪を見る。


「あー、冬弥さん怒らしちゃったんだ」


「冬弥が嫁に貰えば済むことなのに。面倒ごとは勘弁してくれよ?」


「ふざけてないでくれます?当初は我らが野狐と悪狐を狩って終わりだったでしょう?おかしいと思いません?」


「今頃か?」


「なになに?」


「気づいていましたよ?事情を聞いた時に。ですが、雪翔の前では言えませんからねぇ。お昼時に申し訳ありませんが来てしまいましたよ」


「意味わからないんだけど?説明してよね」


「まず、あの社の狐は生きてます。そうでしょう?あなたから話しますか?」


 大きく見開かれた目からは涙が流れているが知ったことではない。


「あなたは珠を持って逃げてきたと言いましたが、持ってませんよねぇ?その時点でおかしいんです。あなたから珠の匂いがしないので。こちらでの調べだと、あの社に出入りするのは雑魚共のみ。それがいついているから助けを求めに来たという話でしたが、うちの狐が社の中から珠の気配がすると言ってました。私はことある事に影にあなたを治療をさせた……なぜだか分かります?」


「私はおどされて怖くて……」


「影を馬鹿にしすぎでしたねぇ。うちの狐は優秀なんですよ。体内にも珠は無い。野狐共に何が言われたのかあなたが何かしたのかでしょうが、お遊びに付き合ってる暇はないんです」


「あの社の中には捕えられた女狐がそのまま珠をもって中に居るってことでいいの?」


「そうです」


「その人助けたら終わり?」


「ええ、助けるのはこの馬鹿狐ですがねぇ」とみんなの中心に放り投げる。


「冬弥が遊んでたのがいけなかったんだろ?」


「様子見に時間が欲しかったんです。が、何の役にも立ちませんでした」


「じゃあ、この狐何なの?」


「野良ですね」


「私、野良なんかじゃ!野良呼ばわりなんて酷い」


「泣いても無駄ですよ?ここには私よりも性格の悪い那智が居ますし、秋彪はあなたのような女に興味はありませんしねぇ」


「冬弥、本当のことを言うな。一番興味が無いのはお前だろうが?」


「そうでもありませんよ?暇潰しにはなりましたし、これから社に行って計画は失敗だったとでも報告してきてください」


「え?じゃあ元から敵だったってこと?」


「当たり前じゃないですか。何を信じることがあったんです?」


「マジかよ!ならいいや。冬弥さんも人間の前だからしたんだろうし。コレ放り込んできたらいいんだよね?」


「辞めてください。殺されてしまいます。それに私は野良ではありません。本当に冬弥様を頼ってきたのです」


「何処からですか?爺様の社からですよね?」


「なんで……」


「聞いたことがあるんですよ。野良を拾ったが、あまりにも言葉巧みで社を取られるところだったので追い出した……あなたですよねぇ?」


「冬弥、社の狐を助けるのはいいが、そいつも処分すればいいだけの事。面倒事を増やすな」


「それだけだと思います?連れていけばわかりますよ?」


 説明ぐらいしろと言われたが、面倒なのでみんなに付いてきてもらい、結界の中から外に放り投げる。


 ザワザワと野狐と悪狐が狐に寄っていき何かを話しているが、わざわざ聞きに行かなくとも見ていればわかるだろう。


「なんだ?社と違う方に連れていかれるけど」


「それも見ます?秋虎には刺激が強すぎると思いますけど?」


「成程……そういう事か」


「二人だけ分かって狡いじゃないか!」


「手出ししないのであれば見せますけど」


「しないよ!あいつも敵って事でいいんだろ?」


「微妙ですけど。敵側ではありますねぇ。ま、何かしらの事情はありそうですけど。朱狐、見せてあげてください」


 出てきた朱狐が、両面鏡を取り出し皆に見えるように連れていかれた方を映し出す。


「声もいります?」


「何話してるのかは聞きたいけど」


「では、そのようにしてください」


 朱孤が鏡をなぞると声が聞こえて来る。


「東のはたぶらかせたか?」


「まだ……」


「頭を使えよ。俺達が教えてやっただろう?」


「もうこれ以上は……」


 服を脱がされ男達の慰みものにされる女狐に秋彪が動こうとするのを止める。


「いくら野良でも、こんな扱いひどいじゃないかよ!精進すれば……」


 よく見てみろと顔のあたりを指さすと、恍惚とした表情で野狐達の相手をしている音々の姿があった。


「人……いえ、狐と言っても様々ですからねぇ。長く生きてどこかの社は飛んだんでしょう。3本ありますし。ですが人間社会の中と変わらず、狐の世界にも廓はあります。そこの者でしょう。体は正直ですからねぇ」


「下らぬ」


「ええ、本当に。ですが、狐の世界から抜け出したかったことだけは事実かも知れません。が、一度廓の世界に行くと、召し上げた人の言いなりですから奴隷と変わらないと聞きますし。その内飼い主が出てくるでしょうねぇ」


「冬の神社に?」


「欲しいみたいですから」


「それで?こんなものを見るために来たのではない。そろそろ本題に入って欲しいんだが?」


「今手薄です。なのでチャンスではありますが、野狐達が満足すればするほど、気も抜かれます。一気に叩くならその時が一番楽です。あと何時間楽しむのかはわかりませんが。

 かわいそうと思い助けるのであれば今から雑魚狩り。一気に社まで行き、中の狐を助け社を取り戻す。そうすれば嫌でも野狐達が出てくるので、そいつらを片付ければ、自然に野良も開放されるでしょう」


「助けたとして、誰が面倒みるの?」


「私は嫌です」


「同じく」


「俺も無理だよ」


「ならば、放っておくしかないですね。下宿のものの記憶くらいは消せますし」


「着いてきそうだけど?」


「秋彪、そのような時には無になるんです」


「無?」


「何も考えず心を無に……」


「お前に出来るのか?人間を養ってるお前には無理だと思うが?」


「那智?私にも好みがあるんです。優しいことひとつ言っただけでボロをたすような馬鹿な狐に興味は全くありませんし、女に困ってもいません」


「お、おい。もう六匹目だぞ?相手するの……」


「お楽しみ中悪いんですけどねぇ。どちらにします?それにあと何匹相手するのかよく数えてみてください。一度に三匹から五匹同時に相手してるんですよ?嫌ならしませんよね?無理にだったら泣いてますよね?楽しんでますよね?そのくらい分かりますよね?秋彪君!」


「助けられるんなら助けたいけど……あんなに楽しそうにされてたら……」


「性分なのかもしれませんねぇ。では待ちましょうか。夜までは終わらないでしょうし」


「葉孤、酒をおくれ」


「お待ちください」


 木の上の影に陣取り、盃を三つ出して酒壺から注ぎ飲みながら待つ。


「はぁ、なんで俺が監視役なんだよ。もう見飽きたよ……って、これ!」


「なんです?私たちには興味無いものなので」


「違うって。社が手薄になった!悪狐達出てくる」


「ではそいつらから……これは、中の狐ですね。どこかへ移動させられるのかもしれませんねぇ」


「私が行こう。雑魚どもならば影のみで十分。珠の確認もしてくる」


「任せました」


 那智が出ていき、誰もいなくなった社の中に偵察に水狐を送る。


「何もおりません」と返事が来たので、そちらに酒をもって移動し、結界を張って野狐の侵入を阻む。


「いつ気づかれるかわかりませんしねぇ。まぁ、秋彪はそれでも見ててください」

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