第29話
みんなが出掛けるのを見届け、雪翔を呼ぶ。
「宮司さんに、しめ縄をいつするのか聞いておいてください」
「分かりました。今日は御輿の手入れをするって言ってて、大工さんとか来るみたいです」
下宿の修理はすぐに済んだので良かったが、棟梁ももうかなりの歳だ。
腰でも悪くしないといいのだがと思い、どんな人が来ていたかも覚えてきて欲しいと頼む。
千年祭の社の修理や、関係した人達には多少良いことが起こるようにいつもしているが、今年は大きな祭りとなるので数も多いだろう……
面倒だな……と少し思い腕を組んでいると、一枚の紙を雪翔に見せられた。
「これ、鳥居の絵なんですけど、うっすらと見えたのも書いて、階段てこんな感じで上に進めるようにイメージすればいいのかな?って書いてみたんです」
鳥居の真ん中から空へと向かって階段が書かれており、何故か途中から鳥居を囲んで螺旋階段のように書かれているのを指差すと、真っ直ぐだとハシゴみたいになるなぁ?って思ったからと子供らしい答えが返ってきた。
「真っ直ぐで大丈夫ですよ?脚をかけて飛びながら上へと進むので、支障はないです」
「僕、頑張ります」
「お願いしますね」
雪翔が社へ向かったのを見て、洗濯物をして干す。
みんな自分で洗うのだが、やはり男なのでシーツ類は出してもらうようにし、定期的にみんなの分を洗うようにしている。
「あの、私は何をすれば……」
「葉狐と桜狐の治療を受けてください。何もしないより治りは早いので」
「分かりました」
二匹を音々につけ、掃除など家事をこなすと大体10時は過ぎる。
「昼餉はお蕎麦でいいですかねぇ」
お昼に雪翔が帰ってきてすぐに蕎麦を茹で、狐蕎麦にする。
「狐がきつねそばって」
「揚げ好きなんです。気にしないでください、共食いでもないですし」
「音々さんはいつもご飯とかどうしてたんですか?」
「いつもは影の狐が用意してくれてたから」
「あそこ宮司さんいませんもんねぇ」
「たまに小さなお社だけの神社ってあるけど、お狐様がいない神社もあるんでしょ?」
「沢山ありますよ?ですがどれだけ小さくても、誰かは来るんですよねぇ。雪翔のお婆さんのように懐かしんで来てくれる方やご近所の方が。そうでないといい気が貰えませんからねぇ」
「え?人から貰うの?」
「勝手に私たちを呼ぶときに出してくれるんです。それが食事のようなものですかねぇ」
ご馳走さまでしたとお茶を飲みながら、昼から買い物に行くので音々には着いてきて欲しいと頼み、あまりの喜びようだったので、日用品店の夫婦に元気な顔を見せに行くだけだと念を押す。
全く……と思いながら、支度をして商店街へと向かう。
歩いてすぐ着くのに、あっちもこっちも見て回るので中々前に進まない。
「あのですねぇ、時間は限られてるので道草してる時間なんてないんです」
「でも珍しいものが沢山で」
「社生まれの社育ちはこうなるんですか」とため息をひとつつき、音々を放って先を急ぐ。
「待ってください......あ、わ、きゃぁぁぁ」
振り向くと豪快に転けており、その側を自転車が通りすぎる。
「あなたは疫病神ですか?」
「違います。疫病神なんかじゃありません」
「後一度でも同じことが起きたら下宿から出ていってもらいます。面倒事はお断りしているので」
「そんなぁ。冬弥様ぁ」
商店街に殆ど放置な状態で入り、呉服屋の主人に着物の出来具合を聞いてから、日用品店にはいる。
遠くから、きゃー!ごめんなさい!ガシャーン!と色々な音が聞こえ、自分には関係ないと言い聞かせながら、彼女が大分元気になったことを伝え、自分の買い物を済ませていく。
魚屋でイカを捌いてもらっている間に、音々がボロボロと言ってもいい感じに汚れて到着した。
一口大にまで切ってもらったイカと、ゲソ。他にもアサリやタコなどを買い、八百屋で紅生姜とコンソメ、ほんだしなど粉も買って、早々に下宿へと戻ろうとする。
「待ってくださいー」
「嫌です。この距離を怪我しながらどうやって移動できるんですか?はずかしいを通り越して他人になりたいです。一時的な下宿人と考えれば他人ですが」
「酷いです。女性が困っているときに助けるのが王子様の役目と決まっているんですよ?」
「生憎、狐ですので」
「そう言うことじゃないんですっ。母上が言っていました。女性は何も出来なくとも、男性が守ってくださると!って、ちょっと待ってください!」
無言で下宿に戻り、冷蔵庫に買ってきたものをいれてから、「いいですか?あなたの夢物語に付き合ってる暇はないんです。今宵のことも考えなければいけないのに余計な手間をとらせないでください」
「すいません。でも……」
「それと、意識がなかった状態での着替えは仕方のないものと考えてください。なのであなたの言う結婚やその他のことには一切関係ないので良く考えてくださいね?今あなたが助けてほしいのはどれか選んでください」
「え?」
「一つ、結婚」
ぱぁっと顔が笑顔になる。
「二つ、社通いの居候使用人」
少しシュンとなる。
見ていて飽きないが。
「三つ、社の取り返し」
更に下を向いてしまうが、普通答えは三つ目だ。
「全部がいいです」
頭を抱え座り込んでしまったが、これで腹もくくれる。この世間知らずな馬鹿雌狐にも手伝わせよう。
「わかりました」
「じゃぁ!」
「今宵あなたにも手伝って貰うことにします」
「え?見てるだけでいいって」
「あなたの答えを聞いて、女性だからと甘やかしていたようです。あの地は別にあなたでなくとも、我ら三人が統治すればいいだけのこと。それを親切心を利用して楽が出来ると思い込んでる馬鹿な狐等には用はない。逃げて頼るのはまだ良いが、それに甘え感謝もなく我が儘なことばかり言うような奴に私は興味はありません」
「そんな……酷いです」
「酷くなどないです。元々はあなたあなたの社の事ですよね?泣いても何をしても無駄だと何故分からないのです?あなたの母上は何も教えてくれなかったんですか?社を守るのに一番必要なことを」
「え?」
「いいです。今から那智、秋彪のもとへと一緒に来ていただきます……水狐、朱狐、お願いします」
「はい冬弥様」
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