第27話

 今までのことを話して、ついでに音々の話もする。本当はこちらを頼るつもりだったが噂が流れていてうちの下宿に来たと少し大げさに言っておく。


「はぁ……借りができてしまったな。千年祭と社の件は手伝う。俺は嫁はいらんから押し付けるなよ?」


「そちらも頼みたかったんですけどねぇ?」と秋彪を見るとブンブンと首を横に振っている。


「まずは、休んでください。影の方は術は解けているようなので問題は無いでしょう。ここ一体の結界はまだこのままにしておきます。うちの狐お貸ししましょうか?」と薬屋の店主から渡された請求書を渡す。


「いい。この請求書も破っていいか?」


「あとが怖いので払ったらどうです?」


「分かったよ。掃除はいつだ?」


「那智が回復してからでいいですけど、早い方がいいでしょうねぇ」


「一日でいい」


「分かりました。では明日の夜に迎えに来ます」


 下宿へと戻り、音々に明日の事を話し社へと姿を消して行く。


「ついに冬弥も嫁を貰う気になったみたいだね」


「琥珀……これは間にある社狐の音々です。明日はお二人にも行ってもらおうかと思いましてねぇ」


「雑魚掃除ぐらい自分でしたらよかろう?」


「那智も秋彪も来るんです。うちだけ主力がいなくてどうします?」


「仕方ないね」


「こちらの方はどうなってますか?」


「平和なもんだ。毎日宮司が酒をくれるので飽きはせんよ」


「明日は他の狐を置いていきますのでお願いしますね。夜まで好きにしてください」


 その後影から雪翔の働く姿を見、鳥居の確認をする。


 ほんの少しだけ見えてきているが、千年祭までどのような大きさで出てくるのかわからない。

 その鳥居を飛べば雑魚妖怪なども力を増すと言う。それらを蹴散らしながら飛ぶことは難しい。


「どうしましょうかねぇ」と雪翔を見る。


 社から離れたところで姿を現し、鳥居を見上げる。

 形や大きさは他の神社と対して変わりはないように感じるが、階段でも作れれば駆け上がりながら進むことが出来るなと考える。


「冬弥さん」


「終わりましたか?」


「はい。もうお昼なので。何してるんですか?」


「いえね、この鳥居を飛ぶんですけど、見えますか?うっすらと鳥居の上にさらに鳥居があるのが」


「何となくですけど」


「これがどのぐらい大きな物なのかがわからないんです。そこで天にも届くような階段が欲しいんですけどねぇ」と雪翔を見る。


「階段?」


「作ってください」


「無理ですよ。どうやればいいのかわからないし」


「毎日ここで少しずつ階段をイメージして空高くまでになるようにしてもらいたいんです」


「はぁ」


「思いが強ければ強いほどいいと聞きます。それにあの宮司。いい気を放ってるんですよねぇ」と宮司に目を向ける。


「気ですか?」


「毎日おすそわけしてもらってくださいね。一緒にいれば勝手に雪翔の方へと回ってきます。それをあの鳥居に向けて階段をイメージしてくれるだけでいいんですよ」


「簡単に言ってますけど、僕に出来るんでしょうか?」


「出来ると思ってますよ。これには信頼関係が必要になるんですけど、その証としてまずは琥珀と漆の姿が見えるようになります。彼らの姿が見えるようになれば雪翔の力も上がります」


「はい」


「もうすぐ祭りの準備が始まります。そうすればいい気も入ってきます。まずはあの人が散らかす前にお昼にしましょうか」


 二人で下宿に帰ると案の定何か料理をしようとしている音々を止め簡単にうどんで済ます。


「ところで、雪翔はどのぐらい学校の勉強が進んでるんです?」


「塾に行っていたので、高校一年生のところまでは殆ど終わってます。三年生までのテキストは持ってるので今はそれを。不得意な科目は特にはないんですけど、体育だけは苦手なんです」


「今から勉強しておけば、あの学校で遅れることは無いですねぇ。四月から塾は行くんですか?」


「いえ、学校の勉強と別でテキストを使って勉強していくだけなんですけど…… ただ、自分だけで出来るか不安はあります」


「分からないことは隆弘に聞いたら言いでしょう。彼、家庭教師のアルバイトしてますからねぇ」


「でも、そんなにお小遣いもらってないから」


「ここではみんなが助け合ったりしますから、お金は取りませんよ?海都は堀内くんに教えて貰ってますし。その代わり時間のある時だけになりますけど」


「それなら出来るかな……」


「雪翔はもっと自信を持ってもいいと思いますよ?朝早くから掃除や手伝いも頑張ってますからねぇ。それに体力はそのうち付いてくると思います」


「はい」


「音々さん、明日の夜ですが残ります?」


「私も行きます!私の……社ですから。冬弥様はまだ私をお疑いですか?」


「いいえ?敵ならば今頃琥珀と漆はあなたの前に姿を表さずに食べているでしょうからねぇ」


「食べる……?」


「そうです。食べるんですよ……我らには生まれてすぐ一・二匹親代わりのような狐が影としてつきます。眷属ではあるものの、親なので自分のついた狐を守ります。音々さんについている狐も最後の狐にして、親と同じ様な存在の狐なんですよ。親は敏感です。なので敵となれば容赦なく……という事です」


「では琥珀様と漆様には認めていただけたのですか?」


「社の狐としてですよ。たまに遊びに行ってしまうので、あなたの事は知ってる風でしたね?それ以外はからかわれただけですよ」と何も疑っていないふうに装うのは少し面倒臭い。


「お狐様の悪戯ですか?」


「特に琥珀と漆は長く生きてますから、退屈なんでしょう。さて、音々さん洗い物を任せていいですか?あなたの部屋の用意をします」


「はい」


「雪翔、倉庫にいくつか使ってない家具があるんですよ。絨毯も去年使おうと思って買っておいたものとかあるので出すのを手伝ってください」


「分かりました」


 倉庫で絨毯、テーブル、折りたたみベッドを出すと、奥にアンティーク調の小さなタンスを見つける。


「これ、出せますかねぇ?」


「他のもの出したら出ませんか?」


「仕方ない。出しましょうか」


 出せるものは出し、残りは倉庫に戻して全て拭き掃除をしてから先に絨毯を敷く。


 八畳の部屋に敷かれた絨毯の色は淡いピンク。


「こんな色でしたかねぇ?」


 板の間に敷くのには何でもいいと、安いのを適当に買ったので、記憶があやふやだったが、タンスは前に気に入って買ったものの、囲炉裏に似合わないと使わずに閉まっていたものなので使えないことは無い。


 押し入れ側にタンスとベットを置くとスッキリと収まり、出し入れも不便はなさそうだが、テーブルだけというのは味気無い。


 客間の布団をベッドに敷き、カーテンがいると商店街へと買いに行く。


「あの、色って僕が決めてもいいですか?」


「構いませんよ?」


「僕、本当はインテリア関係の仕事がしたくて……親はちゃんと大きな会社に入るために勉強しなさいって言うけど……」


「好きなんですか?」


「部屋作りも、家具などを見るのも好きです」


「なら、インテリアなどの関係の大手に行けばいい。そのために今頑張ればいいんじゃないですか?」


「親は……許してくれるでしょうか?」


「結果を出すのは雪翔ですよ?ここのお店でいつも買うんですけど、好きなの選んでください」


 セールと書かれたワゴンで幾つか濃い色のカーテンを選んでいる。


「サイズってこれで合ってますか?」


 書いてあるのを見て大丈夫だと言うが、ピンクの絨毯に何色を合わせるのだろうと思いながらも、書かれている値段にビックリする。


「これ、二枚入ってますよね?」


「はい。生地も遮光になってるのに、980円の税込は安いと思って」


「ですよね?傷物でしょうか?」


「在庫処分て書いてありますけど……あ、これいいかも」


 雪翔がワゴンから出したカーテンの色は白から濃いピンクへのグラデーションカーテンだった。少し花の刺繍がしてあるだけなので、落ち着いた感じになるだろう。


「あの、カーテン安かったから、この500円のラグも買ってもいいですか?」


「構いませんけど、どこに置くんです?」


「テーブルの下です」


 買い物を終えて、下宿に帰る時に100円ショップに立ち寄り、ジャラジャラとしたビーズが沢山ついたものを雪翔が買って、それを持って音々の部屋へと入る。

 カーテンを取り付け、白い小さなテーブルの下にアイボリーの楕円形のラグを敷いたら、部屋らしくなり、ドアとキッチンの間に100円ショップで買った突っ張り棒につけられたビーズの暖簾が掛けられる。


「わぁ、可愛い……」


「スッキリとした部屋になりましたね」


「音々さんこれで良かったですか?」


「はい、ありがとうございます。でも私お金は社に置いてきてあって」


「僕はいいです。気に入ってもらえたなら」


「そういう事です。今夜からここを使ってください。で、お家賃なんですけどねぇ」


「私働いてないんですけど」


「なので、下宿を手伝ってもらいます。壊滅的にできない料理はしなくていいですから」


「酷い」


「食材がもったいないです。後で日用品を渡しますので取りに来てくださいね」


「……はい」


「さて、今宵の夕餉は何にしましょうかねぇ」

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