第26話
「おはよう……冬弥さん、雪翔がいないんだけど」
「あぁ、神社の掃き掃除に行ってますよ。朝餉には一度帰ってきます」
「そうなんだ……なんか……焦げ臭くない?」
竈からはモクモクと煙が上がり、卵は焦げ、台所はいつの間にか火事の一歩手前状態だった。
「音々さん?もしかしてですが?」
「母のを見ていたので出来ると思ったんです」
「海都、みんなを起こしてきて下さい。音々さんは片付けを手伝ってください」
「はい……」
玉子を冷蔵庫から出して人数分焼き、サラダやウインナーなどを乗せてワンプレートにし、パンを焼いてもらうのに机に置きに行く。
「これも慣れです。朝餉は私と同じお膳でいいですか?」
「はい。あの、この洋服なんですけど……」
「どうかしました?」
「地味……」
「でしょうね。あなたの見た目はまだ二十そこそこですからねぇ。後で買い物に誰か付き添わせます」
「でも、お金もってなくて」
「良いですよ?その代わり働いてもらいますけど」
「花嫁修業ですね?」
「違います」
雪翔が帰宅し、みんなで朝餉を食べるも、女の人がいるだけで華やかな雰囲気に変わる。
「隆弘か賢司どちらか今日空いていませんか?」
「俺一日休みだけど」
「じゃあ、申し訳ないんですが、ショッピングモールに彼女を連れていってくれませんか?洋服など買いたいそうなので」
「良いけど、冬弥さんは?」
「野暮用がありまして……彼女は音々さんと言います。しばらくの間ここに居るので、必要なものを揃えて来てください」とお金を入れた封筒を渡す。
「雪翔は昼から部屋を作るのを手伝ってください」
「音々さん、使い回しの家具で申し訳ないのですけど、丁度一部屋空いていますのでそこを使ってください」
「ありがとうございます」
「では、私はお先に。このまま商店街へ行ってきます」
「日用品店?」
「報告もかねてですけどね」
そのまま下宿をでて、
着いてすぐはまだ店もしまっているところも多いが、日用品店はいつも早い。
「おはようございます」
「はーい、あら、おはようございます」
「彼女が目が覚めたのでご報告にと思いまして」
「それは良かった。主人呼んできますね」
奥の自宅に入ったと思ったら店主が慌ただしく出てくる。
「どこの娘さんかわかったのかい?」
「ええ、事情は聞きました。私の知り合いから下宿を頼って行くように言われてきたと。それで、しばらくの間預かることになりました」
「下宿でかい?」
「ええ、丁度一部屋空いたものですからそこを使ってもらおうと思いまして」
「大丈夫かね?男所帯で……」
「みんなも理解してますし、家はお風呂は銭湯ですから変な心配もないと思います」
「何かあったら言ってくれよ?」
「ありがとうございます」
そのまま日用品店を出て薬屋へと向かう。
夜の約束だが、音々の話を聞く限り早く済ませた方がいいと思ったからだ。
三十分ほど歩き、近くまで来てバーは夜からかもしれないと思いながらも、店の前に行くと外で掃き掃除をしている人では無い人がいた。
案内してくれたカウンターの人だ。
「おはようございます。もう開いてるんですか?」
「おはようございます。まだ準備中ですが、奥に予約の方が来られるので、姫様ならもう来てますよ?呼びましょうか?」
「お願いします」
一緒に中に入り奥の部屋へと通される。
「まだ夜じゃないぞ?」
「事情がありましてねぇ。結月さんの事だからもう分かってるんでしょう?」
「まあな。あの粉は意識を朦朧とさせ、術にかかりやすいようにするためのものだが、効果が切れる前に常に匂いを嗅がせておかないといけない。もう薬の効き目は切れてるだろうが、癖になると常に欲しくなる厄介なものだ。悪いが処分したぞ?」と巻物を返される。
「では無理やり解いても構わないと?」
「構わんが、その時にこの香を焚け。それで気分も落ち着くだろう。それと、お前が嗅いでも害にはならんから安心しろ。で、代金は巻物でチャラだが、見学しに行ってもいいか?」
「やめておいた方がいいと思いますよ?雑魚が沢山いますからねぇ。汚れ仕事は私がやりますよ」
「つまらん!那智にこれを渡しておいてくれ」と一枚の封筒を受け取る。
「何ですかこれ?」
「あいつの溜まりに溜まった請求書だ。いい加減払ってもらわんと困る」
「言っておきます。では今から那智の所へ行くのでまた」
「気を付けろよ?」
「ええ……。この先の公園も気をつけた方がいいですよ?」
「ふん、そのうち片付ける」
店を後にし、路地裏で姿を消して那智の元まで急ぐ。
途中で秋彪と合流して薬屋の店主から聞いたことを話し、結界内に入ったらすぐに那智を取り押さえ香を嗅がせること。大人しくなれば巻物を反対から読み術を解き、そのまま香を焚いて様子を見ることを話す。
「相変わらずでかい神社だな……雑魚はいないみたいだけどもう入るのか?」
「ええ、面倒事がまた増えたので、那智の協力がいるんですよねぇ。さ、この隙間から入って……すぐ閉じるので」
一部結界を解除し、すぐに閉じる。
那智は社の中。影は出れないのか大人しいものだ。
「何をしに来た?」
「話をしに来たんですよ」と秋彪に目配せをする。背後から秋彪が羽交い締めにし、香を嗅がす。
「な……何を……」
巻物を反対から読み、術を解除すればするほど暴れるが、途中でやめるわけにも行かない。
なんとか読み終えた時には、那智は呆然と立ち尽くし、なんとか出てこれた狐共に横にさせられている。
皿の上でもらった薬を焚いてしばらく様子を見ていると、うっすらと目を開け「頭がぼーっとする」と頭を抱えている。
「私が誰かわかりますか?」
「冬弥と秋彪だろ?何だこの香は。それに、身体中が痛くて仕方が無い……」
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