第24話
お願いしますと言って店主を玄関まで送り、肉や魚をしまう。
ここは男の住まいだ。
いくら年を重ねた狐とはいえ、女に変わりはない。
「さて、どうしたものか……」
「あの、もうみんな帰ってくる時間ですけど」
「あ……お米も炊いてませんし、今日は三人しかいませんから、出前でいいですかねぇ?」
「お米残ってないんですか?」
「ありますけど、葉孤だけに見せているわけにも行かないでしょう?」
「僕、作りましょうか?三人分なら炒飯とか野菜炒めくらいしかできないけど」
「今日は海都と隆弘と私たちだけですから、三人分でいいですよ。私は酒とつまみがあればいいので」
「その人のは……」
「目が覚めてからにしましょう。野孤ならば追い出して終わりですけど、身なりもちゃんとしてましたからねぇ」
「あ、じゃあ、どこかのお狐様なのかも」
「そうですね。とにかく少しだけ米を残して、作ってください。何使ってもいいですよ」
「はい。作ってきます」
隆弘と海都が一緒に帰ってきたので、事情を話して客間へは入らない様にと言う。
それでも覗きに行こうと海都が行こうとするので、先に銭湯へと行くように言うと丁度ご飯が出来たと雪翔が来る。
「出来ましたけど……」
机に並べられたものは野菜たっぷりの野菜炒めと炒飯。
「中々上手じゃないですか」
「美味そうだな」
頂きますとみんなが食べているのを一口もらい、美味しいですねとどう作ったのか聞く。
「切ったものを全部ボウルに入れて、そこにご飯と卵、塩コショウをして混ぜたんです。そこで少し味見して、一気に炒めて、最後に醤油をひと回ししただけなので……使ったものは野菜炒めの時に洗っておいたので」
「これなら別々で炒めて焦がすこともないから良いですねぇ。覚えておきます」
「そんな……」
「ほんとに美味いよ。また作って!」
「はい」
「海都?今日は事情があるとは言っても、入るのも禁止、ご飯も頼りきってはいけないですよ?」
「わ、分かってるって!危ないのは隆弘さんだろ?」
「残念。俺は紳士だから入らないよ。それに怪我してるんでしょう?医者行かなくていいの?」
「ええ、轢かれたわけでもないので軽いケガだけです。明日の朝に日用品店の店主が来ますから……」
ピンポーン
「誰でしょう?あ、食べ終わったらつけておいてくださいよ?」
返事をして開けると、日用品店の奥さんと店主だった。
「どうしたんですか?」
「いやね、うちの人が迷惑掛けちゃって。これなんだけど、みんなで食べて頂戴。あとね、明日でいいって聞いたんだけど、女の人だろう?目が覚めたら必要だと思ってね、商店街で買ったから流行りのものじゃないけど、下着と服と要りそうなもの入れておいたから」
「すいません、こんなに沢山」
「やだねぇ、男には女のいるものなんてわからないだろう?うちで見てあげれればいいんだけど」
「大丈夫ですよ。目が覚めたら連絡します。あ、ついでに入れ物持って行ってもらっていいですか?」
店主に持って行ってもらい、やっと静かになったと袋の中を確かめ、成る程と客間に袋を持っていく。
葉孤まだ目が覚めませんか?
「まだですが、影が一匹……出てこれないようです」
「あぁ、弱ってますね。桜孤に少し影の方の治療をさせましょうか。話せるといいのですけどねぇ」
狐に任せてみんなで銭湯へと行く。
たまには付き合わないとへんに思われる一番面倒な、でも少し楽しい一時だ。
いつも子供たちだけで行かせているが、相変わらず騒がしい。
番台にいる爺さんに、いつもすみませんねぇとお代を払い、中に入る。
「騒がないでくださいよ?」
「だっていつも貸切だもん」
「この時間一番少ないんですよ。三時にご近所さんと入れ替わりで空いててつい。すいません」
「いいですけどね。でも、公共の場だと自覚してくださいよ?」
「はーい」
「はぁ……」
髪と体を洗って湯に浸かり、長湯してもと早々に上がる。
椅子に座って冷たい水を飲んでいると、3人が出てきて、服も着ないでタオルだけ巻き、フルーツ牛乳とコーヒー牛乳で、腰に手を当て「せーの」と一気飲み勝負をしている。
「雪翔……参加しないでくださいよ?」
「無理みたいです」
と言うその手には2回戦用の牛乳が手にされていた。
勝ったのは言うまでもなく海都。二番が隆弘、三番目の雪翔はまだ飲んでいる。
飲み終わったのを見計らって、「さ、帰りましょうか」と銭湯を後にする。
下宿に帰ると、賢司と堀内が板の間におり、お茶を飲みながら本を見ていた。
「早かったんですねぇ。今夜はご飯ないんですよ」
「いや、大丈夫。途中で会ったから飯食ってきた。それより、客室に誰かいるの?物音するから」
「ええ、怪我をされた方を寝かせてありますので、静かにしていてあげてください」
「じゃぁ、俺達も風呂行くか」
「そうですね」
二人が銭湯に行き、みんなが部屋に荷物を置きに行ったので、客間の襖を開ける。
「あっ……」
「起きてましたか。どうですか?痛むところはないですか?」
「はい。貴方が冬弥様……ですか?」
「冬弥は私ですが……」
良かった!といきなり抱きつかれ、狐達に冬弥様のエッチなどと言われるが、声がしたので見に来たのであろう三人にも見られてしまった。
「もしかして彼女?」
「いい男だからいない方がおかしいんだって。でも連れ込むとは大胆な……」
「海都も隆弘も違いますよ!これは事故、そう、事故です。まだ混乱しているのだと思いますよ?」
「まぁいいや。俺お茶入れてくるよ」
僕も行きますと雪翔まで逃げ、隆弘には頑張ってと言われてしまう。
頑張るも何もこの狐が雌だという事しか知らない。
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