第23話

 今日の買い物はいつもよりも多い。月に1度の月末まとめ買いだ。各店でつけを払いながら周るつもりで、日用品店から回っていく。他のものも一緒にと配達を頼んでから支払いを済ませ店を出る。


 肉屋で豚肉や鶏肉など買い込み、魚屋でも同じように買い込んでいく。

 良く朝餉で焼き魚を出すので、切り身より安ければ一尾ごと買って捌いてもらう事もある。


 八百屋では塩コショウから生姜やカレー等の素、チーズや卵も多めに買い、豆腐屋や必要なところすべて回って、今日は日用品店に配達を頼んだと言い、つけの支払いと本日の支払いを終え、商店街を抜けた所にある喫茶店に入る。


 封筒の中身を確認し、残りの残金を確認してから、ため息を一つ。

 今月も何とかやり繰りは出来たなと、店員に紅茶を頼み、暖かい紅茶が来たところで、見ていた通帳を袖にしまう。


 今下宿にいる子は六人。今日出ていく子が一人……昨年末から聞いてはいたが、送別会などはしないでほしいと言われ、午前の内に業者が来るとだけ前もって聞いていた。

 夕餉でみんなに話さないといけないと思いながらも、今から銀行に行って記帳しても五人分の家賃しか入らない事を考えると、食費をどうしようかとさえ思ってしまう。


 よく食べてくれるのは嬉しいが、もしもこれで米や野菜など田舎から送ってくる家がなかったら、家賃は夜のみ食事付き、朝昼自炊で八万は欲しいところだ。


 今更家賃をあげますとも言えないので、しばらくは節約しかないだろうななどと考え、紅茶を飲み干す。


 銀行までのんびりと歩いていき、記帳・確認してから必要な分だけ引き出し、今月残ったお金を違う口座へと入れる。

 ほんの少しずつだが、一年で結構貯まるのでずっと続けているが、たまにはのんびりと温泉にでも行きたいものだ……などと思ってしまう。


 下宿に帰るとちょうどお昼だったので、着物を日の当たらない影の方に干し直してから中に入る。


「おかえりなさい」


「きちんとお昼ですね。普段お昼は各自で取るのですが、みなさんが春休みになるまでは作ります。午後からは一部屋空いたので掃除を手伝ってください」


「え?誰か出たんですか?」


「ええ、前から決まっていたんです。就職先の寮に入ることになってた子なんですけど、研修が始まるそうで。皆さんとお別れが寂しいからと、午前中に」


「そうだったんですか」


「さて、昼餉は何にしましょうかねぇ」


「あの、僕余り物でもお茶漬けでもいいです」


「簡単なものにはなりますけど、それはダメですよ?成長期ですからねぇ……ちょっと辛いもの食べれますか?」


「はい」


「ではすぐ出来ますから待っててください」


 鍋では無く、フライパンに湯を沸かし、スパゲティを茹でる。

 今のは五分もかからないので、その間にベーコンと小松菜を適当な大きさに切り、レンジでチンしておく。


 固めに茹で上がったパスタの湯を捨て、そのままオリーブオイルと刻んだ唐辛子、チンしておいた材料を入れて炒め、軽く塩と粗挽き胡椒をかけて、ペペロンチーノの出来上がりだ。


 皿に盛り付けて今日は土間で食べる。


「本当は手順を踏みたいんですけど、お昼ですし。社の方はどうでしたか?」


「あ、今日は庭の掃き掃除が終わっていたので、社務所でお守りとかの袋詰めを手伝いました。お祭りで結構売れると評判のお守りだとかで」


「多少は私も術を掛けてますからねぇ」


「お仕事するんだ……」


「しますよ?神社がなくなったら、下宿がなくなるじゃないですか。それは困るので」


「はぁ……」


「所で、二匹の狐に会いましたか?」


「いえ。どこにいるのかも分からなくて。ほかの狐さんはわかるんですけど」


「見えますか?」


「しーちゃんと、橙孤さんはいつも。他はたまに……」


「来てすぐ見えるとは上等ですよ」


 今日出ていった子は途中から入った子なので、畳をあげる必要は無いだろうが、窓を全部開けてから確認のために全てあげる。


「僕の部屋もこんなふうに掃除をしてくれたんですか?」


「ええ」


 床板なども悪くなっていないので、畳を戻して掃き掃除をしてから雪翔に畳を拭いてもらう。


 その間にトイレとミニキッチンの掃除、押し入れの中の拭き掃除をして1日乾かしておけばいいだろうと、雪翔が終わるのを待って御苦労様と部屋に戻す。


「次は夕餉ですねぇ。そろそろ配達時間ですが遅いですねぇ」


 キキキッとブレーキの音がし、「冬弥さんいるかい?」と玄関口が騒がしい。


「どうしました?」


 扉を開け、日用品店の店主に聞く。


「ここに入ろうとしたら、いきなり飛び出してきてさぁ。轢いちゃいねーんだが倒れちまった」


 来てくれと言われてついていく。


「おい、あんた大丈夫かい?」


「ああ、動かさない方が……」


「警察か病院か……病院だよなぁ」とオロオロとする店主をよそに見ると、少し怪我はしているが大したことは無いらしい。


「うっ……」


「おお、どっか痛いところはないかい?」


「?」


「名前、わかります?」


 フルフルと頭を振った時に少し血が出ていることに気づく。


「とにかくうちに運びましょう。連れてきてもらえます?」


「分かった」


 中に入り雪翔を呼ぶ。


「どうかしたんですか?」


「説明は後で。一人保護します。客間の押し入れに布団が入っていますので敷いてください」


「は、はい」


「店主こちらです」


 布団に寝かせ、目に見える傷の手当をする。


「大丈夫そうですね。車も中に……」


 店主が荷物を下ろしている間に、濡らしたタオルを額に乗せて雪翔に聞く。


「どう見ます?」


「どうって……この人お狐様じゃないんですか?耳としっぽあります。三本だけど……」


「見えますか。葉孤 はこ、この狐についててください。どうも、今記憶が曖昧なようです。姿は消して下さいね」


「はい、冬弥様」


 バタバタと音がし、店主が荷物を下ろしたことを告げに来る。


「土間に置いといたよ。肉と魚は早くしまった方がいい。入れ物は明日取りに来るよ。で、どうだい?病院連れていかなくていいかね?」


「ええ、一日ここで様子みますね。轢いたわけじゃないんでしょう?」


「当たり前だい。ふらふらーっと出てきて慌ててブレーキ踏んだんだから」


「お聞きしただけですよ。後、明日にでも奥さんに言って若い女の子の洋服や下着一式用意していただけませんか?」


「え?この子女の子かい?」


「ええ。寝巻きに着替えさせる時に……サイズは」


「冬弥さん、あ、あんたもまた堂々と……」


「泥が付いたまま寝かせるわけにもいかなかったので。それにこのような場合仕方が無いかと……」


「だよな。その服預かってうちのに見せるよ」

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