第21話

「怪我はもういいのですか?」


「遅かったからもらってるよ」とお神酒と揚げをつまみながらゴロンと横になっている。


 懐から酒を出し、御猪口に注いで飲みながら、この後のことを話す。


「なぁ、雪翔だっけ?あいつ変わってるな」


「変わってるとは?」


「ここの狐が見えていても、他の狐には警戒するのが普通だろ?」


「普通そうですよねぇ」


「うちの狐が懐いちまったよ。雪のところに行かないのかうるさくてさ」


「もう寝てますよ?」


「雪翔で飛べるのか?」


「飛びます」


「全く……俺達が邪魔するとか思わないのかよ?」


「するんですか?」


「しないけどさ……那智の事どうするのかと思って来たんだよ今日は」


「そうですねぇ。巻物と変な粉は奪ってきたんですよ。術に関してはこの巻物がないと使えなかったんでしょうねぇ……まだ子供でしたから。ただ、この粉がちょっとよく分からないんです」


「わからない?冬弥さんでもわからないことあんの?」


「そりゃあ、ありますよ?でも、開けたくないんですよねぇ。袋」


「開けずにどうすんのさ?」


「術はわかるので解除できますよ?こんなもの使わなくとも。でもこの粉で操っていたとなると話は別ですからねぇ」


 それだけ言って、秋彪に粉の匂いを嗅がせる。


「臭っ!閉じろよ!臭いぞそれは!」


「でしょう?」


「何がでしょう?だ!見てたからっていきなり嗅がすなっ!」


「まぁまぁ、私も鼻が曲がりそうだったんで、封していたんですけどねぇ、隣町に薬に詳しい方がいるんですよ。明日そこに行って聞いてこようと思います」


「まさか……」


「他にわかる方がいればそうしますけど?」


「お、俺は行かないからな!あの店主は怖いし……薬は確かだが、変な声出しながら作る薬飲んでから余計に……一人で行ってきてくれよ?」


「はい。人外専門の方ですしねぇ。久方ぶりに会うので手土産に酒でも持っていきますよ」


「だったら時間はもう少しいるんだよな?」


「そうなります。この社は白黒に任せてあるので、定期的に影を見に行かせてますが、那智はぼーっとしたまま。結界も張ったので影も出てこれないでしょうねぇ」


「こっちからは入れるんだろ?」


「うちの孤だけです。まだ匂いがあるかもしれないので、秋彪まで操られては困りますからねぇ」


「目星……付いてるんだろ?」


「何となくですけど断言はまだ」


「何かすることないか?」


「冬の社をたまに見に行ってください。今はそれだけしか。よからぬモノがうじうじゃと寄ってきてるので排除を」


「分かった。じゃあ、帰るわ」


 そのまま姿を消していなくなったので、そのまま残りの酒を琥珀と漆にあげて、社の上から下に見える街を一望する。


 自室に帰り、茶箪笥の引き出しを開ける。

 確か場所が2度3度と変わる度に葉書が来ていたと思い探す。


「これですねぇ……夜中の3時までですか」と時計をみると丁度1時過ぎ。


 一先ず電話を先にとダイヤルを回して掛ける。


「はい、bar TENMANでございます」


 あっていたことにホッとし、要件を伝える。


 少々お待ちくださいませと言われ、次に電話口に出たのは店主だった。


「珍しいな、お前から電話だなんて。まだ昔の黒い電話使ってるのか?」


「ええ、そうですよ。あなたも物好きですねぇ……ビルまで建ててしまうとは。うちの下宿も建ててください」


「お前の所はその古さがいいんだよ。潰れたら建ててやる。で、なんだ?お前からかけてくる時は、大怪我か面倒事だろ?」


「まぁ。少し調べてもらいたいものがあるんですよねぇ。粉何ですけど……」


「粉ぁ?小麦粉じゃないだろうな?」


「何か薬が混ざっているみたいでしてね、ちょっと同胞を助けるのにも、どのような薬か知りたいんですよねぇ。お願いできます?」


「お前、場所わかるのか?」


「全然わかりません。あの地図ではですが……」


「失礼なやつだなぁ。手書きだぞ?それも私が丁寧に書いてやったろう?地図!」


「だから分からないんですよ。ユーリさんに書かせたら良かったじゃないですか」


「馬鹿者!」


「狐です……」


「あー!分かったよ。持ってこい……粉。一旦預かる。今から来れるか?」


「普通に住所を言ってくれれば行けます」


「えーとだな、ここどこだっけ?」


 やはりあなたが馬鹿ですと言いたいのを堪えて待つ。


「お電話変わりました。お久しぶりでございます」


「お久し振りです。お元気そうで何よりです」


「冬弥様も。場所なのですが、そちらからですと……」


「はい、分かりました。意外と近かったんですね」


「ええ、どのくらいでこられます?」


「走って15分と言った所ですかねぇ」


「では、おいしいお酒をご用意してお待ちしております」

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