第19話

 買い物袋がいっぱいになってしまったので、そのままカートを押し別館にあるフードコートまで来る。


「混んでますねぇ……もう少し歩いてもいいですか?」


「僕は平気なので」


 奥にトンカツ屋やラーメン屋などたくさん立ち並んでいたが、夜の事もあるしとうどん屋に入る。


 本日のおすすめが天ぷらうどんとミニ丼にサラダとドリンクもついて780円だったので、それを二つ頼み、雪翔はコーラ。自分はアイスコーヒーを頼んで来るのを待つ。


「あの……」


「雪翔は心配性ですね。誰かと来る時もありますよ?この前は海都が休みだったのでちょっと手伝いをしてもらいましてねぇ、御褒美にラーメン屋に連れて行ったりしましたから、何も気にすることもないですし、誰も何も言いません」


「良かったです。それと、お狐様って揚げ以外も食べるんですね……」


「やはり揚げが一番好きですけど、食べますよ?この千年で食の事情も変わったので、今では楽しみの一つです」


「他の人も?」


「ええ。そのうち皆さんと会えると思いますよ?夜は私、暫く忙しいので会わせられませんけど、時期がきたら自然に会えると思います」


「はい」


 お待たせしましたとうどんが来たので温かいうちにと勧める。


 ミニ丼はマグロの山かけになっていたので、先にそちらから食べ、少し温くなってきたのでうどんも食べ、最後にアイスコーヒーを飲む。


 たまに飲むと美味しいが、やはりお茶が一番だと思う瞬間でもある。


 雪翔も育ち盛りなのでぺろっと平らげて、コーラを飲んでいるので、少し落ち着いたかなと思い話を切り出す。


「明日からは卒業式まで休みで、その間に制服の採寸があるでしょう?」


「はい」


「下宿屋の奥に宮司さんの御宅があって、その奥に本殿と社務所があるんですけど……」


「そこに何かあるんですか?」


「下宿屋は神社の敷地内の古い長屋を改装して使わせてもらってるんです。なので月に一度、大学生たちから集めた酒代の残りを持って参拝に行くんですけど、今日宮司に挨拶だけ済ませましょうか」


「はい。なにかお菓子とか持っていかなくていいんですか?」


「帰りに買っていきましょう。そこにもお子さんがいらっしゃいますから。そこでなんですが、雪翔は朝早いでしょう?」


「はい」


「修行しません?」


「えっ?修行?」


「朝宮司は五時から掃除を一時間かけてしています。5時半からでいいのでお手伝いに行ってください。その時必ず参拝を忘れずに。鳥居の階段の方まで手が回らないようなのでそちらを手伝うといいでしょう。あ、毎日鳥居はくぐってくださいね」


「良いですけど、勝手にお手伝いとかしてもいいんでしょうか?」


「下宿屋の子だとわかっていれば何も言いませんよ。学校が始まるまでと言っておけば問題は無いでしょう」


「おいおい教えてくれるって話は?」


「今言いましたよ?修行です。三月の終わりに千年祭が行われるんですが、私、鳥居飛ばないといけないんですよね。この神社は小さい神社を入れても四大神社の一つですからねぇ。総代としてまだまだ私も隠居はできませんし、飛べは格が上がるんです」


「普通に飛び越えれそうだけど……」


「目に見えない鳥居が存在するんですが、年々大きくなって行くのにも関わらず、千年の鳥居はどのようなものかも分からないんです。飛べたものが少ないとかで、我々の中でも伝承が残っている位ですからねぇ。ただし人間の手助けがいるとは聞いてましたので」


「それが僕ですか?」


「ええ」


「その時僕は何をすれば……」


「まずは毎日鳥居を見ていてください。変化があれば教えてくださいね。普通の鳥居ではなく、大きな影のような鳥居が見えてくると思います。社に二匹付けてますし、安全ですから」


「はい。その狐さんは……」


「かなりの年ですよ?白いのが琥珀。黒いのが漆と言います。なれてきたら姿を見せるでしょう」


 話はここまでですと会計表を持ち、レジでお金を払って、タクシーで帰る。


 タクシーを利用することがほとんどないので、みんな出てきたついでにと、荷物を運んでもらう。


「どうだったの?」


「みなさん、ご馳走ですよ」


「おお、おめでとう!朝は一緒に学校行けるな!」


「俺達も横の大学だから、時間が合えば会うだろ。何かあったら大学まで逃げてこい」


「私は新たに研究室ができるので、普段はそこに居ますから、遊びに来てくださいね。海都君は夕飯まで勉強でしょう?行きましょう」


 引き摺られる海都を見ながら、荷物を運ぶのを手伝ってもらい、部屋で片付けをする。


 外をみると隆弘さんと冬弥さんが何か話しているが聞こえない。


「洗濯竿これでは乾きにくくないですか?」


「前の位置はこけてたから、風の抵抗考えて置いたんですって。それより、水道もうやばいですよ?」


「あ!わすれていました。すぐ電話してきます」


 下宿の電話から大工の棟梁に掛け、事情を説明し、今から水道屋にかけるところだと言うと、見積もりついでに見てくれると言うのでお願いした。


「来てくれるの?」


「棟梁が来てくれます。すっかり忘れてしまって申しわけない」


「いや、棟梁来るならさ、ついでに屋根も見てもらったら?」


「今回は全部見てもらいますよ?水道管は外ですが、工事の時は赤水が出るかもしれないのでまたお知らせしますね」


 隆弘が戻って、棟梁が来るまでにと「夕餉の支度でもしますかねぇ」とお米から研いでいく。


 解凍した挽き肉をこねてハンバーグを作り、焼いて大皿に載せたところで棟梁が来たので、見てもらいたい箇所を一緒に回る。


「水道はすぐ直せるよ。道具も持ってきたから。屋根は登ってみるけど、全部見るかい?」


「お願いします。他にも悪いところがあればこの際直したいのですが」


「ここも古いから……建て替えは考えてないのかい?」


「ええ、前の時に棟梁が後100年持つくらい完璧だって言ったじゃないですか」


「それもそうだ!あとは見て回るから、夕飯の支度してやんな!」


「じゃあ、お願いします」

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