第18話

 いつものように朝から賑やかで、取り皿に自分の分を先に取っておかないとすぐになくなると伝えて、お膳でのんびりと食べ、お茶を飲みながら皆が書いていくボードに目を向ける。


「みなさん今日は早いんですか?」


「店長もまだ治らないって言ってるし、俺講義だけだから」


「他のみなさんもですか?」


「みんな午前だね」


「だったら、洗濯竿を配達してもらうので受け取りだけお願いします。支払いは済ませてきますので、いつもの場所に設置してもらっても良いですか?」


「あれだけいつも倒れるからさ、少し位置変えても良い?いつも修理俺だし」


「任せますよ。いま三つあるので、その位置は変えないでくださいね」


「わかった」


 海都にいたっては、今日受かったらお祝いだとはしゃいでいるが、雪翔は結果が気になるのか、いつものように顔色が悪い。


「大丈夫ですよ」と声をかけみんなに食器を浸けに行って貰う。


「雪翔、用意してきてください。もう出かけますよ」


「わかりました」


 既に制服を着ていたので上を着てカバンをとってくるだけだろうと、土間の椅子にかけておいた羽織を来て待つ。


 学校に行かなければいけないと思い、薄い灰色の着物にしたが、地味だっただろうかと考えながら、草履も履き替えて待つ。


 直ぐに戻ってきたので、食器はそのままでいいですと言って下宿を出る。


「紫狐はちゃんと入ってますね?」


「はい。一日出ててもらったんですけど、お布団いりますか?」


 座布団の上にでも寝かせておいたらいいですよと言い、先に金物店へと急ぐ。


「おはようございます」と入口で声をかけると、店主が出てきたので、新しい土台と竿も注文して、昼過ぎに届けてくれるように頼んで支払いを済ませる。


「もうすぐ時間なので急ぎましょうか」


「でも11時までって書いてありましたよ?」


「混み合うでしょう?そしたら見えにくいですよ?」


「はい。ほかの高校は郵便で送られてくる所もあるみたいなんですけど」


「昔ながらで良いじゃありませんか。昨日紫狐を出していたということは、緊張してました?」


「気になって。でもしーちゃん……あ、紫孤が仲良くしてくれて励ましてくれたので大丈夫です」


「しーちゃん?」


 ついフフッと笑ってしまったが、あだ名をつけたのは未だかつて雪翔位のものだ。


「あのダメでしたか?呼びやすくて」


「良いですよ?紫狐が気に入っていれば構いません」


 門の前につくと思ったよりも人が来ていたが、発表のボードの前はまだ空いていたので二人で見に行く。


「何番ですか?」


「これ……1537番」と紙を出していたので確認し、1200番台のボードの前へと行く。


 1522、27……


「あ、あった!ありました!」


 下の方を見ていくと確かに1537と書かれている。


「おめでとうございます。では事務所の方へと行きましょうか」


「はい!」


 早く来て正解だったなと、列を出てから思う。

 後ろには人だかりができており、泣いているもの、喜んでいるものが出てきていたからだ。

 雪翔の性格を考えると、もし自分が落ちたら誰かが泣かなくて済んだかもしれないと言いかねない。


 喜んだままにさせておいてやりたいと、足早に事務所へと行き、中身の説明を聞く。


 一通り話を聞き、お礼を言ってから近くのベンチに腰をかける。


「親御さんの記入欄の下に、代理人として私が書くところがありますから、先に書いておきます」


 書かなくてはいけないところを埋めて、用意しておいた手紙を入れて封をする。


「あ、ノリが無いけど。僕借りて……」袖を引っ張り座りなさいと促す。


「この位出来ますよ」と手でなぞり封筒を閉める。


「凄い。ちゃんと閉じてる」


「後はこれを郵送したら良いだけですね。このプリントは預かります。制服の採寸の日が書いてあるので、私が付き添います。お母さんにはその旨は手紙にしたためてありますので大丈夫ですよ」


「はい。来る時に郵便局見なかったんですけど」


「この学校からなら反対方向なんですが近くにありますよ」


 校門を出て、下宿に帰るなら左。反対の右に曲って直ぐに郵便局が見える。


 中で切手代を払って送る手続きをしてから、そのまま大型ショッピングモールへと出かける。


「ショッピングモール?」


「最近出来たんです。洋服から日用品、食材まで何でも揃ってますし、今日は広告も入ってました。日用品が安いようですし、商店街より色々と選べると思いますよ」


「はい」


「何を買うんです?」


「これなんですけど」と紙を渡される。


 ___

 フライパン小・中

 ヤカン小

 菜箸

 コップ2つ

 トイレ用品

 洗剤とスポンジ

 珈琲

 紅茶

 焼きそば

 ラーメン

 割り箸

 ___


「これだけなので商店街でもいいと思ったんですけど」


「そうですねぇ。まぁ、見学も兼ねてと思えばいいのではないですか?私も数回食料品を見に行っただけなので」


「混むところ嫌いなんですか?」


「嫌いですねぇ。狐……動物は鼻がいいんですよ。匂いがきついのは嫌いなんですが、まだ午前ですからそんなに混まないと思いますよ?」


 話ながら歩いていると着くのも早いが、相変わらず大きな建物だといつも思う。


 中に入って案内板を見てから、カートを持って日用品コーナーに行き、必要なものを入れていく。


 ヤカンも様々な大きさのものがあり、小さいと言ってもかなり小さいものまであるので悩んでいるのだろう。


「夜中でも冷蔵庫に入れたものは自由に取りに行けますから。用途に合わせたらどうです?」


「勉強してる時にも寒いからまだ暖かいものが欲しいし、土日のお昼とか夜食で焼きそばやラーメン作るのにもいるし」


「これ何かどうです?」


 小さすぎもせず、丁度コップ3杯分は沸かせそうなヤカンを手にとる。


 これならいいかもと籠に入れるが、ラーメンなどの食器がない。


「ラーメン食べるときどうするんですか?」


「この小さいフライパンごと……」


「せめて鍋敷き買いません?机が焼けてしまいますよ」


「そうだった」


 キッチン用品は黄色系で統一され、ガラスのコップとマグカップも選び、トイレのカバーは薄いグリーンのカバー。

 便座カバーは洗い替えも籠に入れて、会計所へ。


 全部で一万円ちょっとで済み、別で持っていた徳利と御猪口二つも別で支払う。


「このカートのまま食品のところへ行きましょうか」


「広いですねぇ……」


「はい。何がどこにあるのかサッパリです」


「とりあえず回りましょうか」


 カートを押して野菜などの値段を見るがやはり高い。

 練り物は半額となっていたので安いと思いカゴに入れていく。


「雪翔はなにが好きなんですか?」


「えっと、ハンバーグとかピザとかあまり出てこなかったけど好きでした。弟ができてからパンとかスープとか多くて」


「そうですか……」


「でもジャガイモは大好きです」


「分かりました。今日は合格祝いしますので、ハンバーグやピザ系統のものにしましょうか」


「良いんですか?」


「ええ。お祝いの時は大体聞くようにしてますから、問題はありませんよ。でしたら必要なものだけ買っていきましょう」


 カートを進ませ必要なものを入れていく。

 ピザソースなどの値段はそれほど変わらないし、チーズなどもその日に使うのならと割引のものにする。


 珈琲と紅茶も買い、お茶もと言われたが、お茶は用意してあるので自由に飲んだらいいと言って会計を済ませる。


「あ、僕の分は……」


「良いですよ。それよりも大分と余ってしまいましたので、学用品や現金が必要な時にここから出しますね」


「有り難うございます」

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