第17話

 食事を終えるとそのまま皆が雪翔に教えていたので、後は任せて自室に戻る。


「橙狐」


「はいな」


「誰か来たら私の振りをしておいてくださいね。少し出掛けてきますから」


「雪翔様はどうされますか?」


「あの子が来たら出掛けてるって言ってくれたらいいよ」


 頼んだよと言って姿を消して社へと行く。


「神酒はもらってるよ」と琥珀が言うと、漆は今日の揚は上物だったと堪能していたらしい。


「誰か来ました?」


「いつもの老人が犬の散歩ついでにここに来たが、それ以外は小さい子達ばかり遊びに来て宮司が困っていたよ?」


「それはいつもの事でしょう?違う方です」


「野狐が来たから追っ払ってやったが、嗅いだことのない臭いだった」


「あれは臭かったね」


「臭いですか?」


「どんな臭いかわかります?」


「ほら、人間の女がつけるような臭い」


「そう、蜜柑のような臭いだった!我らは鼻が利くが、あのような臭いはごめんだ」


「わかりました。引き続きお願いしますね」


「なにかあれば呼んでくれても良いぞ」


「その時が来たらにしておきます」


 そのまま社の外に出て冬の社へと向かう。


 近くにプレハブの家ができており、工事関係か発掘の方かはわからないが明かりがついている。


 社にも電気が通されたのか中の改装など行われ、補強などもしているのか外には幕が張られているが透けて見えるので意味はない。


「臭いますねぇ。蜜柑も食べるのは美味しいのに、変な臭いがついているのは困りますよねぇ」


 社の裏の古墳のところにも人は数人いたが、木の上に見知らぬ狐が一匹。太い枝に寝そべってこちらを見ていた。


「あなた誰です?」


「どうも。東風神社 ひがしかぜじんじゃの狐さんだよね?」


「そうですけど。あなたが那智の言っていた狐ですか。こんな所にいないで那智の世話にでもなったらいかがです?」


「旦那がここにいろって言うからさ。その内ここにも御信託が来るだろう?それを俺が受けてやろうと思ってさ」


 生意気な口を聞く狐だと思いながらも、「きっとあなたには降りないでしょうねぇ」と少し嫌味な風に言う。


「何でそんなことがわかる?」


「那智にもわかっていると思うんですけど、あなた何か術かけたでしょう?」


「俺にはまだそんな力はないよ。親父様が行けって言うから来てやっただけだ。少し巻物と、この粉で操らせてもらったけど。夏の狐も大したことないね」


「そうでしたか。臭いの正体はその粉なんですね?まぁ、そんなものにかかるほど那智は甘くないと思っていたんですけどねぇ?」


「簡単だったけどな。それにこの地の狐は弱いと聞いているし。俺が総代勤めてやっても良いんだけど?」


「それでここの狐も手にかけたんですか?」


「あれは放っておいても死んだだろう?楽にしてやっただけだよ。ちょっとこの粉の臭い嗅がせただけだけど」


「その粉はなんなんです?」


「しらね。何でもできるとは聞いてるけど」


「ほう……」


 あの粉もそうだが、巻物さえ奪えばどのような術がかけられたのかもわかるだろう。

 千年祭を飛ぶのには雪翔の力も必要だが、妖怪などの雑魚の邪魔なども入るので、やはり那智や周りの援護は必要となってくる。


「ここから出ていってはくれないのですよねぇ?」


「無理だ。信託が起きずともここにいるように言われている」


「なら仕方ありませんね。みなさん出てきていただけます?」


 影から残りの狐をだし、中のものは任せましたと狐に向かっていく。


「何を……」


「邪魔なものは排除しないとねぇ。ここの神社に来る狐ならきっと前狐が決めてると思うんですよ。あのじいさんはその事には長けていましたから」


「俺を殺しても意味はないぞ!」


 長い爪で引っ掻くように攻撃しただけで意図も簡単によろけてしまう。


「今ですよ」


 コン__


「あ!」


「上出来です。皆さん戻ってください」と、手に巻物と袋を握る。


「お前!」


「あなたの親父様とか言う人に伝えてください。東がいる限り勝手なことはさせないと」


「また他のやつが来る。団体様でな」


 それだけ言って姿を消してしまったので、臭い袋には術をかけて臭いがしないように封をする。


「この巻物に使い方が書いてあれば良いのですけどねぇ」


 しばらく誰も来れないように結界だけを強化し、のんびりと歩いて帰りながらいつものように辻にいるモノを適当に祓っていく。


 家についたときにはすでに夜も更け、誰も来ていないとの事で布団も敷いてあったので、そのまま横になり眠ることにした。


 朝にいつものように起きてから土間へと行くと、板の間でお茶を飲みながらテレビを見ている雪翔がいた。


「お早うございます。早いですねぇ」


「いつも6時には起きるので。お茶もらいました」


「いいですよ。ここはみんなの使う共有の場ですから、テレビでも見てのんびりしていててください」とだけ言って朝餉の支度を始める。


 朝はほとんど同じメニューになるが、ほうれんそうのお浸しに、人数分の鮭を焼き、卵焼きを焼く。それらを平皿に置いて机に並べ、ご飯や味噌汁もお櫃と保温器にいれる。


 手伝いますと言われ、机に運んでもらうが、後は漬け物を出すだけだったので、みんなを起こして来るように頼む。

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