第16話

「さて、今夜の夕餉は何にしましょうかねぇ」


 家を出て土間に行く間に、温室や畑から必要なものを取り、麻袋から里芋などをだして水につけておく。


 炊飯器二つの中は既に空だったので洗ってお米を研ぎ、タイマーをセットしておく。


 大きなやかんに水をいれて沸かしてお茶を作っておくが、1回でなくなってしまうので毎回面倒ではあるが、無ければそれはそれでみんな困るだろうと常に用意している。


 里芋の皮をむき、半分か大きい芋は四等分に切り、鍋に放り込んでいく。

 里芋と長ネギの赤だし味噌汁に、よく育っていた小松菜をベーコンとともに炒め卵でとじる。これはツマミにもなるので平皿でいいだろうと、土間のテーブルに置く。


 後は昨日が魚だったし食費の予算も考えて、酢豚を作るが唐揚げではなく、茹でて冷凍して置いた肉団子を解凍して、フライパンで焼き揚げたものを使う。

 大鉢に入れ、後は木のボウルにいつもと同じくサラダを作り、ツナをのせ全てにラップをかけ、テーブルに置いておく。


 暖かいお茶をいれて寛ごうと思ったら、外が騒がしいので覗きに行く。


 何をしているのかと思えば、洗濯物を入れているだけなのだが賢司と海都が両脇に立って、隆弘が籠に洗濯物を入れていっている。


「何かありましたか?」


「冬弥さん、ついに壊れました。洗濯竿の土台!」と賢司が言うと、「もう腕が疲れた!」と海都が音をあげる。

 力を使えば早いがそれもできないので、隆弘を手伝ってから、みんなで土台をねかせる。


「前から少しぐらついてはいたんですよねぇ。長く使いましたし、前の台風で何度か倒れたのもいけなかったんでしょう」


「これは乾いてるからいいけどさ、明日からどうするの?」


「明日、合格発表を見に行った帰りに買ってきます。雪翔の買い物にも付き合うので、配達してもらいますね」


「明日は洗濯干せないから、細かいものは部屋干しだな」


「そうなりますが、あなた達3人洗濯物多くないですか?」


「俺はバイト先の制服もあるから、一日おきにはしないと間に合わないかな?」


「俺はお洒落って事でいいかな?」


「え?俺は……すぐ汚しちゃうから……」


「海都は注意力が足りないだけですよ。バイト先の制服は飲食店なので仕方ありませんがお洒落だからってなんです?」


「いや、買った服を着ると、前の洗うの忘れて纏めて洗うから……かな?」


「着回せばいいでしょう?まとめてだから洗濯機も動かなくなるんですよ?この前泡だらけにしてましたよね?壊したら……」とじろりと見ると「ごめんなさい」と返事が返ってきた。


「今、板の間が空いてますから使って下さい。また纏めてすると掃除大変ですからねぇ」


「あ、雪翔に……」パコっと賢司に手で叩かれ、「話は聞いたけどさ、雪翔はメイドじゃねーんだよ!」と怒られている。


「夕餉までに済ませてくださいね」と中に入り、ぬるくなったお茶を渋々飲む。


 その後、廊下を歩きながら何事もないだろうなと確認しながら見ていくと、所々補修の要る箇所が出てきた。

 古いから仕方ないが、まとめて修理してくれる大工の棟梁に話して直してもらおうと決め、貯金がいくらあったかな?と考える。


 通帳は今のがあるが、ここを始めた時は箪笥に隠していたものだ。通貨が変わる度に銀行で少しずつ変えたりしていたが、50年分の貯金は結構ある。

 銀行にも箪笥にも。



 大凡の金額を弾き、箪笥から出せばいいかと共有の水道を見ると、いくつか水漏れもしている。

 蛇口は三つ。これも修理が必要だなと昔ながらの石のタイルを見る。


 いくつか発見してしまい、入用な時期なのだと言い聞かせて、雪翔の部屋をノックする。


「はい」


「私です」


 扉が開き、どうぞと言われ中に入ると既に紫狐は影から出ていた。


「あの、ずっと影にいるのも可哀想だと思って」


「良いですよ。この部屋には中の声は聞こえないように札が貼ってありますし、他の人には見えないので。たまに稲荷などあげると喜びますが、太ると困るので程々に」


「分かりました」


「聞くのを忘れていたのですが、発表は何時からです?」


「朝の9時からで、合格者はそのまま事務室で入学書類をもらうって聞きました」


「親御さんに一度送らないといけないですねぇ」


「はい。郵便局は近くにありますか?」


「通り道にありますよ。こちらでも手紙を書いておきますから、帰りに投函するといいと思います」


 そのまま銭湯に行ったら良いと言い、洗面器とシャンプーなどを用意させ、板の間に連れていく。


「このボードに朝昼晩に丸をふる所があるので、丸を書いてください。これが食事がいると言うマークです。要らない時はバツを書いてください。その横の備考欄に、帰宅が遅くなるなら時間を書いてくださいね」


「分かりました。この横の札は?」


「名前が両面に書いてあるでしょう?黒は下宿にいる時。出かける時や学校などは反対の赤い札にしてください。でないと、私もすべてはわからないので」


「本当は分かるんですよね?」


「見た方が早いんですよ。他の子はちょっと汚れたので先に行っていますから、一緒に帰ってきたらいいですよ」


「じゃあ、行ってきます」


 雪翔を見送り、かなり熱く温め直して板の間の机に置いていく。


 自分のお膳も用意しながら、日本酒を選ぶ。


「たまには辛口でも飲みましょうかねぇ」

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