居候
第15話
予定よりも早くトラックが着き、荷物を降ろしていく。
絨毯の色はラベンダー。
どんな部屋になるのだろうと思いながら、お昼の支度に取り掛かる。
炊飯器に米を入れ、水の量は米の分量より少しだけ少なく合わせて入れコンソメと塩コショウを入れて味を見る。
少し濃いぐらいにして、バターを大さじ1ほど入れて混ぜてから、冷凍のミックスベジタブルと海老、マッシュルームを入れスイッチを押す。
炊飯器二つ分。
二升分を炊くので子供6人の胃袋の大きさに最初は驚かされたが、もうそれも慣れてしまった。
ミックスベジタブルはとうもろこしを買った時に、人参やサヤエンドウを剥いて茹でて冷凍しておくと使い勝手がいいが、今は安く買えるのでつい頼ってしまう万能なものだと思っている。
ご飯が炊けたら終わりだが、1人の時や残った時に冷凍しておいたものは、少し炒めた方が美味しい。
なのでエビピラフではあるが、炊飯器でするのでピラフと呼んでいいのか少し微妙だ。
「あ、堀内君。みんな呼んできてくれないかい?」
「良いですよ」
みんなが集まったところで、引越しの片付けをみんなに頼む。
「一人でもできるだろうけど、早く終わらせてあげた方がいいと思ってねぇ」
「俺手伝ってくるよ。この前片付けてもらったし」そう言うとみんなで行っても仕方ないからと、隆弘と海都の二人が手伝うことになり、今年卒業のこの引越しも近かったので他のものは、そちらのダンボール詰めを手伝ってもらうことにした。
引越しの時期が近付くと下宿屋も賑やかになる。
「さて、今のうちに買い物に行きましょうかねぇ」
こんなときに商店街が近いと助かると思い、陶器屋に行き、茶碗に汁椀、湯呑みに箸と選び、絨毯に合わせて薄い紫色に桜の絵が書いてあるセットを買うことにした。
取り皿だけは共有だが、入る子のイメージに合わせて毎回買いに来ている。
「新しい子かい?」と店主が話しかけてくる。
「ええ、高校一年生になる子です」
「前の子は何色だったかねぇ?」
「たまに高校生の海都がお使いにここまで来るんですが、その子のはお茶碗が大きいものを買いましたね。白のしっかりとした、薄茶で渦の書いてある……」
「あぁ、覚えてるよ。セットにはならなかったけど、同じ作品のを買ってもらって。みんな色が違ったよね?」
「私の趣味になるんですけどね。家族のように暮らしてますから自然と」
「これでいいのかい?」
「もうひとり増えるかもしれないのでその時はまた来ます」
お会計をし、雪翔が高校に受かるのは分かっていたので、魚屋によって鯛を中心にお刺身を明日届けてもらえるように頼み、ついでにと酒屋にも寄って定期的に買っているビールの追加と、日本酒にジュースを頼んで帰宅する。
「ただいま。みんなどうかしました?」
「お腹空いた……」
時間を見るとお昼は回っており、申し訳ないと炊飯器の中を確認する。
杓文字で混ぜ、お皿によそってみんなに取りに来てもらう。
その間に軽く茶碗などを洗って拭き、雪翔に渡す。
「今日からみんなが家族だから、困ったことがあればみんなに頼るといいですよ」
「ありがとうございます」
「あ、俺の時地味だったのに!」
「海都は量だったでしょう?割れにくいものを選んだんですよ?」
「俺のも長く持ってるもんな」等と言いながらも食事を始める。
「もう片付けは終ったんですか?」
「俺、布団のシーツセットしただけ。毛布とか布団新品だったから、ベッドに置いただけだな……」
「俺も押し入れに突っ張り棒つけて、引越しの箱からそのまま服掛けただけかも」
「じゃあ、終わってないんじゃ……」
「それが終わったの。俺の時一日かかったのに」
「漫画が多かったですからねぇ。ほかの皆さんもパズルとか、模型とかたくさんで驚いたものです」
「それに荷物少ないんだよ。トラック来た時は多そうだったんだけど」
「あの、遅くなったんですけど、これ母から皆さんにと……」と菓子折を渡してくるが、人数が多いと聞いたからか、3箱大きな菓子折が出された。
「ありがとうございます。みなさん、ちゃんと分けてくださいね?」
賢司に隆弘、海都くらいしか食べないが、たまに和菓子だと堀内も飛びつく。
「あ、開けるのは食事が終わってからです」
食事が終わってから、一度部屋を見に行き、確認する。
「本当に片付いてますねぇ……キッチン用品が足りないようですけど」
「こちらで買いなさいってお金を渡されたんですけど」
「では明日にでも買いに行きましょうか 。後、カーテンも絨毯と同じ色なんですねぇ。だからスッキリと見えるんでしょうか」
「あ、炬燵は閉まってあって、折りたたみのテーブルがひとつ。ベッドの隙間に入れてあるんですだから広く見えるのかも」
「そうですか。お母さんにお伝えしておいたものは預かってきてますか?」
「はい」
「では、付いてきてください」
狭い下宿だが一通り案内し、土間から自宅の入口までを通って来てもらう。
囲炉裏の前でお茶を出して、一通りのルールを教え、用意していた日用品を渡す。
「トイレットペーパーとティッシュ。それと、スーパーの袋なんですが、このゴミ箱と一緒に使って下さい。毎週、月曜と木曜が燃えるゴミの日なので、さっき教えた場所に捨ててください。スーパーの袋も少ないので、見られたくないものは縛って捨ててもらっても構いませんけど、そうでなければなるべく使いまわしてくださいね。プラスチックゴミは火曜です。缶やペットボトルも捨てるゴミ箱があるのでそこにお願いします。」
「日用品置場から勝手に持っていってもいいんですか?トイレットペーパーとか……」
「ええ。定期的に配達に来てもらってますから。それと、具合の悪い時は早めに言ってくださいね」
雪翔から渡された封筒の中を確認する。
認印、保険証、委任状など。
「たしかに預かりました。今日から親御さんに変わって私が保護者代理ですので、何でも言ってください」
「はい、後これなんですけど」
封筒を渡されて中をみると、お金が10万円入っている。
「これは?」
「大金だから預かってもらいなさいって。そこから必要なものを買うように言われました」
「分かりました。レシートと残金も預かっておきますね。所で、昨日のことですが……」
「秋彪さんはもう怪我の方はいいと。でも、狐ちゃん達がまだダメだと言ってて、伝言で一匹貸してくれと言われました」
「そうですか。お前達みんな出てきなさい」
突然9匹が出てきて囲まれたので驚いたのだろうが怖がってはいない。
「雪翔は紫が好きなのかい?」
「え?あ、好きです。花とかも紫色の花とか好きですし」
「じゃぁ、紫狐にしようかねぇ」
「
「うちの
「色ですか?ならこの狐は赤狐?」
「残念!
「はい。雪翔様、常に影からお守りいたしますので、御用の際はお呼びください」
それだけ言って雪翔の影の中に消える。
「え?居なくなった?」
「居ますよ?名前を呼んでみてください」
「紫狐さん?」
影から頭だけを出し、お呼びですか?とくつくつと笑う。
「これ、紫狐も遊ばないでちゃんとしなさい。お守りは持っているね?」
「あ、いつの間にかあったお守り……もしかして?」
「神社に来た時にこっそりとね。普段社で願いを聞いてはいますが、本当に聞くだけなんですよねぇ。でも雪翔の参拝が面白かったから少し力を貸しただけです。それに、それのお陰で悪いモノも余り憑いてはいないし」
「やっぱり体が重かったのって……」
「自覚はあったんですか?」
「婆ちゃんのお母さんがイタコって聞いたことがあって、僕が似てるって話を前に聞きました」
「うん、とても似てると思いますよ?お婆さんも心配していたけどちゃんと成仏しましたしねぇ。これからは毎日紫狐が守ってくれるから安心するといいです。雑用も任せていいですよ?」
「そんな事は出来ないです。は、話し相手になってくれてらいいかな……」
「好きに使うといい」そう言って葉狐を出し、秋彪のもとへと行かせる。
「追々色々なことを教えよう。今日はゆっくりしておいで。初めての日は疲れるからねぇ」
「はい。じゃぁ、これお借りします」
新品のゴミ箱に日用品を詰めて両手で抱えて戻っていく。
戸が閉まったのを確認し、白狐の琥珀と黒狐の漆を呼ぶ。
「久しぶりに出されたと思ったらなんだい?あの子で飛べるのかい?」と琥珀に言われ、「先がわからんではないか!後少しで千年祭ぞ!」と漆に叱られる。
この社に来る前からの……まだ旅をしていた頃からの眷属だが、この千年近く小姑のように煩いのは変わらない。
「だから、紫狐をつけたんですよ?あれは気も利くし口煩くもないし頭もいい。全く、あなた方を調伏した時は苦労しましたけどねぇ、まさかこんなに口煩いとは思いませんでした」
「失礼だね!あんたの考えなんぞお見通しさね。社に行っていればいいんだろう?」
「然し、今は冬弥の言う通りだ。我ら二人離れても構わんのか?」
「ええ、他の子達もいますし、少しは信用してください」
ならばと
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