第13話

 少し早いですが行きましょうかと、玄関に鍵をかけ商店街へと向かう。


 歩いて10分ほどで商店街が見えてくる。


「どうします?お昼には少し早いですが」


「え?もういいなら食べたい」


 では行きましょうかと入口を開けカウンターに座る。


 メニューは特に見なくともいいのだが、冷やしチャーシューメンと言うメニューが増えていた。


「私はあれにしましょうかねぇ」


「俺いつもの!卵付けてね」と注文し、できるまで待つ。


 お待ち!と前から出されたので、受け取り食べるが、味が一緒だったのが残念でならない。


 確かにチャーシューは大きいが、その下はただの冷やし中華。

 なんとかお腹に入れお会計を済ませる。


「魚屋の前にちょっと呉服屋に寄ってください」


「着物買うの?」


「ええ、いい反物があれば」


「普通の服のが楽なのになぁ」


「着慣れてるんですよ」


 買おうと思っているのはお気に入りの色の紫と赤。

 ただ気に入る色目があるかどうかだけだ。

 店に入り、反物を見せてくれと色目を言う。


「こちらなどいかがですかな?」と老店主に言われみるが、違うと首を降る。


「これよりもう少し淡い色味のものは無いですか?」


「それではこちらは?」


 見せられた反物の色はいうことは無いが、全身淡いのもどうかと思い、仕立てと染め直しを頼む。


「袷はこの赤を。そして、裾に向かって黒紫になるようにしてください。羽織りはこの色のままで結構」


 金額を聞き手付を置いて店を後にし、魚屋へと行く。


「魚臭い……」


「これ、そんなことを言ってはいけないよ?いつも食べている魚はここの魚なんだから」


「そうなの?スーパーとか行かないの?」


「鮮度が違うんだよねぇ。こっちのが断然美味しい」


「へぇ」


 魚を見ながら、スズキや鮭、ししゃもに鯵。秋刀魚とアサリとホタテを買う。


「毎度!後、今なら石鯛がお得だよ」


「そうですねぇ。なら刺身用にさばいてもらえます?」


「あいよっ!」


「つまみでしょ?」


「ええ。君たちのは、最近覚えたメニューにしようかと」


「今夜?」


「そうです。魚好きでしょう?」


「うん。前まで骨が沢山あるのが嫌だったけど、慣れたよ?」


「なら、魚屋の御主人のおかげですよ?たまに骨抜きしてくれますから」


「そうだったんだ。魚って骨ってイメージが強くてさ」


「なんだい、坊主は骨が嫌いか?」


「うん……おじさんが抜いてくれてるって今聞いた」


「場所によっちゃ少ないところもあるんだけどな、ほらここ。人間でいうと肋のあたり、腹側がうまい。後、頭にもすこし身があってな、つまみには最高だ」


「彼はまだ高校生ですから……私の摘みがなくなってしまいます」


「だな。スズキも三枚に下ろしておいたから」


「ありがとうございます」


 代金をつけておいてもらい、店を出ると雪翔が歩いてきた。


「あ……」


「こんにちは。お使いかい?」と目で合図する。


「誰?」


「今度下宿に来る子で雪翔君です。こちらは海都。ひとつ上になります」


 よろしくな!と海都が手を出すと、緊張した面持ちで手を握り返す。


「どっか行くのか?」


「あ、帰るところ。本屋さんに寄りたくて来ただけだから」


「雪翔君、時間あります?」


「はい」


「だったら下宿に行きましょうか」


「え?」


「行こうぜ!多分大学生誰か帰ってきてると思うし」


「あ、隆弘君ですね。今日は確かアルバイトはなかったと思いますよ?」


「でも……」


「いいからいいから」と背中をたたく。

 大体はこれで憑き物が取れるのだが、いつに無く憑けているのも気にかかる。


「夕飯みんなでどうですか?本棚の位置も自分で決めた方がいいでしょう?」


「じゃぁ」


 そのまま走っていこうとするので、海都と雪翔に魚を持たせて、先に帰っていなさいと鍵を渡す。


 酒屋により、炭酸のぶどうとミカンのジュースを買って、下宿に戻ると取り敢えず魚は冷蔵庫に入れてくれたらしい。

 袋のままだが。


「海都。雪翔君。何処ですか?」と部屋を覗くと畳をあーでもない、こうでもないと下ろしている。


「そんな適当にしてはダメですよ?番号が書いてあるでしょう?」


 裏に数字が書いてあるのだが、全く気にもしなかったらしい。


「何してるの?」と隆弘が来たので一緒に手伝ってもらう。


「四人ですると早いですねぇ」


「見てただけじゃん!」


「いえ、指示しましたよ?それでどうします?机の位置も変えて構いませんよ?」


「だったら、窓は全開にしたいので」と机の位置を変え、本棚の位置を聞く。


「俺もこれにすればよかったな」


「なんで?」


「だってさ、ここにベッドだろ?4畳の方でも、こっちに炬燵置いてみろよ。すごく広くないか?」


「ほんとだ。なんで俺の部屋狭いんだろう?」


「雪翔君に見せてあげたらどうですか?私は夕餉の支度がありますし。お母さんには電話しておきますよ」


「じゃあ、俺の部屋も模様替えだな!頼んだぞ雪翔」と既に仲良くなっている。


 行く前にちょっとと呼び止め、小さな札を渡す。


「これを、あの子達の机の下に貼ってきてください」


「でも、ノリがついてない……」


「君ならできます」と背中を押す。


 本人には自覚はないが、確かに霊感はある。無意識に札が反応してくっつけば伸び代は大きいと渡したのだがどうなる事か。

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