第12話

「ところで、明日休みでしょう?」


「うん」


「高校生の中じゃ、今は海都だけ私立だもんな」


「俺もみんなと同じ大学行くんだ!」


「まずは、成績だろ?」


「頑張るもん。で、明日薪割り?」


「いえ、新しい子が来るので、今掃除をしてるんです。明日はその手伝いをしてもらおうかと思って。畳はあげてあるし、大方掃除は済んでるんですけど、1枚1枚拭くのが面倒なので」


「そっちのがいいよ。買い物は?」


「今日忘れてたので魚屋に行きますが」


「ついてっていい?」


「構いませんよ?オネダリは聞きませんけど」


 ちぇっと、言いながら手伝ってくれるのはありがたいので、御褒美はあげないとと思い、残りの野菜も食べなさいとみんなに促す。


「海都君、今日数学します?」と不意に堀内が言う。


「え?いいの?」


「明日は僕、夜は出かけるので……あ、冬弥さん、明日は夕食いらないです。もしかしたら門限超えるかもしれないんですけど……」


「珍しいですねぇ」


「先に僕が研究室を離れるので、送別会をしてくれるそうです」


「なら、土間の方の鍵を開けておきます。裏からになりますけど、玄関は一応防犯のために閉めたいので」


「すいません」


「皆さんはまだ学生ですから駄目ですよ?」


「分かってるもん。高校生はバイトも22時までだって聞くし、賢司さんの居酒屋も閉店12時でしょ?それでも、0時の門限には間に合ってるじゃん」


「学生中は仕方ないよ。それにここよりいいところなんてないだろ?」


「間違いない」


「では、私は先に。食器は……ボウルだけなのでつけておいてください」


「出かけるの?」


「少し……すぐに帰りますが」


 それだけ言い、お膳を土間の机において早々に自室へと帰る。



 コン__


「何かあったかい?」


「また社に何か……」


「懲りないねぇ……朝も言ったけど、お前達はゆっくりしておいで」


 いつものように姿を消して社へと行くが、気配は残っているものの既に姿はなく、荒らされた形跡もない。

 神社の敷地すべてに結界を張り、宮司の家も下宿屋も結界を強化する。


 そのまま雪翔の家へと行き、部屋の窓を叩く。


「あっ……」


「しっ!誰にも姿は見えていないから声は出さなくとも思うだけで通じるから大丈夫」


「何か用事ですか?」


「引越しの支度はできてます?」


「ほとんど。ベッドは持って行って、押し入れをクローゼットみたいに使おうと思ってます。下の段には衣装ケース入れますけど、広かったから……なので、引越しの前日に本棚と絨毯が届いてしまうのを明日連絡しようと思ってたんです」


「絨毯は敷いておくよ。本棚は机の横でいいですか?」


「はい。ありがとうございます」


「ちょっとねぇ、お願いがあるんですよ」


「何ですか?」


「学校はもう休んでるのかい?」


「はい。卒業まで在校生ではありますけど」


「なら、春風神社って知ってますか?」


「ここから近いから」


「今宵使いは出しておくから、その社に稲荷寿司を届けてもらえませんか?本当なら私が行かないといけないんですけど、ちょっと忙しくてねぇ」


「どのくらいいるんですか?」


 懐から財布を出し、1万円を渡す。


「これで、5人前。それと、ミカンかなにか果物を買って行ってくれるかい?

 秋彪って生意気な狐がいるんだが、今臥せっていてね。元気なようにしているだろうが、まだ全快じゃぁないんですよ」


「その人って見えるのかな……」


「雪翔ならば見えるし、秋彪も口は悪いけどいい子だから仲良くなれると思いますよ。そこで、あちらの影……狐と秋彪と仲良くなってきて下さい」


「仲良くって……」


「行けばわかります?頼みました」


 それだけ言ってから、冬の神社へと向かう。


 この辺りは海風があるためか、それなりに大きい神社には『風』という字が使われている。

 町も、東風町(ひがしかぜちょう)南風町、冬風町に春風町と分かれている。


 他の地域は普通の名前がついているが、大きめの神社の方は、昔からある神社の影響は大きいので神社の名前のつく町となっている。


 頼んだよと言いそのまま冬の神社へと行くと明かりがいくつかついていた。


 発掘工事と社などの修理が急がれているのだろう。

 人やトラックが行き交い、一部通行止めとなっていた。


 狐に秋彪の所への使いを頼んだ後、早々に社へと戻り中で神酒を飲みながら一日を過ごす。


 何もなかったのでそのまま朝の宮司の掃除の音で起き、自室へと帰りのんびりと風呂に浸かる。


 朝からの風呂は気分が引き締まって好きだが、今日も寒そうだと着物を着てから羽織を着て土間へと行く。


 さて、今日の朝餉は何にしようと裏の畑に行き野菜をとる。


 小松菜と大根、白菜に卵。キャベツにニンジンなどの野菜は豊富だ。


 キャベツを千切りにして、残りの野菜も細かく切り、マヨネーズで和える。


 薄く卵焼きを焼き、皿に広げた卵の半分にサラダを置き残り半分を上に被せ、ケチャップとマヨネーズを格子状にかける。これで、オムサラダの出来上がりだ。

 忙しい朝にオムサラダは卵と野菜が一緒に食べられるので、別でサラダを用意する手間も無くて楽だ。

 空いた半分にウインナーとヨーグルトを置き、机に並べ、真ん中にパンを置く。


 みんなが学校へと行ってから、休みの日の海都を連れて部屋の畳を拭いてもらう。


「トイレとかは?」


「もう済んでますよ。消毒済みです」


「それにしてもさ、これ拭いてからすぐに戻すの?」


「天気もいいので戻します。明日の土曜に絨毯と本棚が先に届くそうなので、今日中に済まさないといけなかったんです」


「俺の部屋の本棚は漫画ばっかだけど。頭のいい子なのかな?」


「そう見たいですねぇ。なので合格したらいいとは思ってますけど」


「そうだね。拭き終わったのは?」


「窓に立て掛けて行ってください」


 2人というのが中々無いので嬉しいのだろうか、今日はよく喋る。

 まだ16になったばかりだしと思い色々と聞くが、今の高校生や大学生は遊んでいる子の方が多いと言う。


「だからさ、ここにいる人たちって真面目だと思うよ?」


「そうなんですか?別に休みの日には遊びに行っても構わないんですけどねぇ」


 その方が食事の支度をしなくていいので楽だと少しばかり思う時もある。


 すべて拭き終わり、昨夜廊下に出しておくと言われた本を取りに行くと、かなりの量がある。


「あ!この漫画今人気でさ、買えないんだよ?予約しても結構待つんだって。冬弥さん読むの?」


「平日にアニメがやってましてねぇ、それを見ているのを賢司に見つかってしまったんですよ。そしたら本があると言うのでお借りしました」


「俺も頼んでみようかな?」


「大切に扱うのなら貸してくれると思いますよ?彼も何だかんだと優しいですから」


「だよね。頼んで見る。それよりもさ、ご飯は?」


「今から買い物に行くので、行きに食べていきましょうか。何か食べたいものありますか?」


「商店街だよね?」


「ええ」


「だったらさ、角にあるラーメン屋さんがいいな」


「1度皆さんで行きましたねぇ」


「うん、月に1回は行くんだけど、今月お小遣いピンチだから……だめ?」


「良いですよ。私もあそこの年中やっている冷やし中華は好きです」


「熱いの苦手なの?」


「猫舌なんですよ」と言いつつ、狐だからとは言えない。


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