第11話
昼はいつも適当に済ませるが、今日は久しぶりにたくさんの狐を出したからか、お腹が空く。
天気も良いので降らないだろうと、畳を干したまま、上だけ羽織り買い物がてらにと商店街手前にある洋食屋さんに入る。
なんでも作れると思ってはいるが、洋食だけは苦手だ。
売っている市販のルーなどを使えば、ハヤシライスなども簡単に出来るし、スパゲティ等はソースを大量に買うのが面倒なだけで出来ないわけでもない。
何ができないのか。
中のチキンライスができても、ふんわりと卵で巻けない……これが悔しくて、月に2度ほど洋食店に来る。
今日ももオムライスセットを頼み、いつもと違う所に気づく。
いつもはきっちりと巻いてあるのに、今日は上にとろりとした半熟卵が覆いかぶさっている。
これならば出来る!と食べながらどうなっているのかを見て、堪能してからお会計を済ませ買い物へと行く。
八百屋の中には市販のルーや調味料も置いてあるので、先にそこへと行く。
近くに大型スーパーもあるのだが、鼻が効く分臭い酔いしてしまうので余程のことがない限り行きたくない。
「いらっしゃい。今日は配達にするかい?」
「いえ、天気も良いのでゆっくりと歩いて持ち帰ります」
「いつでも言っとくれね」と、おかみさんが言うのでお礼を言い、棚にあったケチャップ2本と細粒のコンソメをかごに入れる。
野菜は多くは送られてきたり、神社からのおすそ分けもあるので困らず、温室で野菜も作っているので、作っていないものだけ買うことにしているが、今日は好きなみょうがが見当たらない……
大葉も温室でやっと出来だしたが、まだまだ小さいので、大葉、生姜、片栗粉をかごに入れ、会計をしてもらう。
「付けとくよ」と、袋に商品を入れてもらい、豆腐屋へと行き、揚げと豆腐。大豆も買い、たまにはと玉子豆腐を見ていると、半額となっていたので追加で購入する。
残りの肉屋で、鶏肉のもも肉を細切れと唐揚げ用にぶつ切りにしてもらい、豚肉と牛肉の筋を買ってから、帰り道みち他のお店をちらりと見て帰る。
どうしても立ち止まってしまうのが、古くからある呉服屋。
飾られている着物と羽織を見て、もう少し色が濃ければと残念に思い下宿へと向かう。
帰ると丁度元気な狐たちが掃除をしてくれていたので、揚げを少し分けてあげ、残りを冷蔵庫にしまっていく。
畳を中に入れてから窓を閉めて夕餉の支度をと取り掛かるが、今宵の夕餉で果たしてあの子供たちの胃が満足するのだろうかと少し不安になる。
玉ねぎとピーマンの粗みじん切りにベーコンを大きなフライパンに投入して炒め、冷凍のミックスベジタブルを加えて炒め、少しだけバターも入れる。
大きなボウル二つに残りご飯を入れそれぞれに塩コショウし、ケチャップとコンソメ、炒めた具をいれて混ぜる。
六人分ともなると、さすがに炒めるのも大変になってくるので、三回に分けて炒めていく。
炒めた最後に醤油差しからひとまわし入れて味を整える。
各皿にチキンライスを盛り付け、ラップしていく。
卵と同時にレンジで温めればいいだろう。
大鍋は最近噂の天満堂特製大鍋を使っている。
フライパンもセットで買ったので高かったが、食材もくっつかず、洗うのも楽でいい。
鍋に水をいれて沸騰させ、スライスした玉ねぎと、残りのミックスベジタブルを入れて、コンソメと塩コショウで味付けしスープを作る。
サラダはまた大きな木製のボウルでいいかと、洗った野菜を手で千切り、ボウルの中に、レタスや細切りにした人参大根を入れてまぜ上にシーチキンを乗せ、ミニトマトとブロッコリーやカリフラワー。黄色のパプリカ等で飾っていき、ラップをして冷蔵庫へと入れ、みんなが帰ってくるまでと、お茶を入れてテレビをつける。
今日は掃除があったので、いつもより少し遅くなったが、夕方の四時から五時までやっている、ファンタジーアニメが今のお気に入りだ。
他の子達に見られたら恥ずかしいかもしれないが、鍋かフライパンセットと同じ名前のついているアニメで、「天満堂へようこそ」と言うコメディな感じのアニメだ。
主人公の鍋をかき混ぜながらの高笑いと、薬を作る際の奇声をあげるシーンが人気なアニメで、狐達もその時だけは見に出てくるほどだ。
「ただいまー」
え?っと玄関の方を見ると賢司だった。
「あ、そのアニメ今人気なやつだよね?冬弥さんも見るんだ」
「ええ、商店街で聞いたんですよ。ここには若い子達がいるから見て置かないと話について行けないと言われてね」
と、言い訳じみているが、きっかけはそうだったので嘘ではない。
「このアニメさ、もう変な鳥みたいなのでた?」
「鳥?まだですが……」
「本当は夜やってるんだよこれ、だから少し遅れてるのかも。俺マンガ持ってるけど読む?」
「漫画まであるんですか?知りませんでした。是非」
「後で部屋の前に置いておくよ。それにこの話のモデルって、有名チェーンの薬屋と日用品会社がモデルなんだって。名前も同じだし」
「うちでもその鍋使ってますよ?本は後でお願いします。それよりもバイトの方は?」
「店長が風邪で、今日は店閉めるって電話来たから帰ってきた。夕飯てある?」
「有りますよ。チキンライスですが」
「洋食って珍しいね?」
「どうしても卵がきれいに巻けないんですよねぇ。でも今日、できそうな感じのオムライスを見つけまして、作ってみようかと」
「みんな大食いだから、量が多いんだよ。台所借りていい?」
「いいですよ?」
賢司について行くと、手際よく卵を割り牛乳を少し入れてまぜ、油を引いたフライパンに流し入れる。
残ったチキンライスを入れて、手首でポンポンと器用に巻いていく。
「はい、これが多分普通の量だよ?」
「大きさがかなり違いますもんねぇ……それにしても、上手いですね?」
「居酒屋だから色々とやらされるんだ。最初はなんにもできなかったけど、ずっと同じ店で働いてるから、オムレツとか卵系は任されてるんだよ。もしかして簡単なのって上に掛ける系?」
「ええ」
「冬弥さんオムレツ作れるよね?あれを表面だけ軽く火を通す感じにしてチキンライスの上に乗せたら、食べる時にこう、スプーンで上開いたらトロッとイメージ通りに出来るよ?」
なるほどと思い、先に開いて出してもいいのか聞くと、いいと言うので、今夜の卵は賢司に手伝ってもらうことにした。
その後は続々と帰ってきて、銭湯に行かせている間につまみを作る。
いつもの揚げのカラ焼きにしてもよかったが、納豆があったと冷蔵庫から出して、刻んでおいてあったネギと納豆を付いているタレも入れて混ぜ、半分に切った揚げに詰めて楊枝で留め、フライパンで焼く。
もう一つと思いつつも、今日は洋食だからと漬物だけ出し机の上に置いて、自分の分だけお膳に乗せて運ぶ。
風呂から先に戻ってきた賢司に卵を任せ、サラダを机に、スープは保温機に入れ板間の上に置く。
「冬弥さんいくつか出来たけど!」
「ありがとうございます。これはこれで何だか可愛いですね」
チキンライスの上にポンと乗せられたオムレツ。
小さなナイフできると左右にわかれ、中の半熟卵がトロッと流れる。
そこにケチャップをかけ、刻んだパセリを散らす。
「後残りもお願いしますね。これはこれでとても美味しそうですけど、割らない方が良かったのでしょうか……」
「あいつら、絶対割ってあった方がいいと思うよ?普段和食だから食べ慣れてないと思うし」
「そうですねぇ。私ももう少し作れるといいんですけど」
続々とみんなが席について、スープを器によそい、オムライスを取りに来る。
「これ、賢司さん作ったの?」と海都が子供らしく聞く。
「卵だけね。後は冬弥さんだよ?」
「賢司が飯作れるとは」等、みんなに冷やかされながらも、少し照れたように笑っている。
冷えたビールを出し、グラスに注いでから「戴きます」とスプーンで食べる。
みんな久しぶりの洋食だったので嬉しかったらしく、スープのお代わりをしているが、海都だけは1.5人前はある。
「冬弥さん、何で冬弥さんだけお膳なの?机で食べればいいのに」
「昔からお膳だったので、慣れでしょうねぇ」とビールを飲み干す。
オムライスは小さく作ったので、早々につまみに手をつけながら、日本酒に切り替える。
「着物に日本酒でしょ?それにお膳てさ、江戸時代の人みたい。横に火鉢まであるし」
「海都も1度ここで食べてみます?多分机より低いから食べるのに時間かかると思うので大食いが直るかもしれないですねぇ?」とじっと見ると、「俺はいい!たくさん食べれる方がいいもん」と拒否している。
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