第2話
「おや、何かあったのかい?」と報告を聞く。
「冬弥様、お爺がもう水もほとんど飲めず、冬弥様にお会いしたいと言っております」
「冬弥様、行って差し上げてくださいまし」
今、自分の影になっている眷属は雄雌全部で9匹。
その内の2匹を爺さんにつけていたが、やはり祭りまで持たなかったかと、1匹の狐に自分の分身として代わりをさせ、爺さんにつけていた2匹を自分に戻して、夜道を急ぐ。
人の気配はまだ残っているので、調査にでも人が入っていたのだろう。
社の中に横たわる爺さんの側に行き、声を掛ける。
「御酒も飲むことは叶わないのですか?」
「私はもう永くない。千年祭が見たかったが……それにこの社を守る力ももう……」
「大丈夫です。社は私が守りますから。約束します……」
「毎日人が何か裏を掘り返しておる。社の裏には私の珠が埋めてあるのじゃ。冬弥、お主が持っていてくれぬか?」
「あれは、その者の魂と同じ。今
「あの珠は代々この社を次ぐものが持つもの。そこに自分の魂の一部を入れて守っているのは知っておろう?お主もしておるから分かるはずじゃ。人間に見つかる前に預かってほしい。そして次の者が来たら渡してやってくれぬか……」
「__分かりました。必ず次の者に渡すと約束します。お世話に……なりました」
そのまま爺さんの意識は薄れていき、天に昇るかのように魂が上にあがっていく。
完全に魂がなくなるまでに掘り出さねばと社の裏に回り、珠を取り出す。
殆どの者は体内に珠を隠しているが、力の弱いものは社の下などに埋めて隠したりもする。
一説には、千年を超えた珠を7つ集めると、仙にも勝る神通力が集まるとも聞くが、そのようなものを狙うのは悪孤位の者だ。
大切にハンカチに包んで懐の奥にしまう。
社の中に戻ると、姿はもうほとんど消えていて、後は見送るだけとなり、眷属の狐たちも出してみんなで送る事にした。
朝焼けとともに完全に空に昇ったのを見て一言。
さようなら__
そう、心の中で呟き社を後にする。
三匹残して、この社を守れと命を出し、姿を消してゆっくりと自分の社まで歩いて帰る。
鳥居をくぐると、まだ朝も早いうちから宮司が掃除を始めている。
他の者にやらせれば良いものをといつも思うが、毎日欠かさずに掃除をし、お神酒を供えたまに団子や菓子などを置いていく。
「今日も良き日でありますように」
いつもそう願い、家族のいる家へと一度戻るが、その子供達も毎朝学校へ行く前に宮司と同じ願い事をして出掛けてゆく。
この社に来た時にはあまり興味がなかったが、代々同じ家系の者が継ぎ、千年同じことが繰り返されていると、その願いを叶えてやりたいと思ってしまうようになった。
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