第1話 砂漠の中で

 「暑い!!!」僕は、あまりの暑さにそう叫んだ。「あの女!帰ったら泣かしてやる!」ゴブは、憎々しげにそう言った。現在、僕たちは世界地図で言う南東の端の砂漠が広がる大陸ガリフにいる。ちなみに、僕たちがいた飛ばされる前の大陸は北西のサイリードだ。


 そして、僕たちは砂漠の真ん中を彷徨さまよっていた。「そんなことより、このままだと僕たちミイラになっちゃうよ・・・。」ゴブは、水を飲もうとした。「・・・それ僕のなんだけど。」「あ・・・。あれ?」叩いてみたが一滴も出てこなかった。


 「ヤバイな。俺たち・・・。」ゴブは、深刻に言った。「君のせいでね・・・。」僕は、皮肉たっぷりに言った。・・・ていうか、本当にヤバイな。「・・・。」当てもなく彷徨っていると、モンスターの死骸が目に入った。このままじゃ、本当に死んじゃうよ・・・。





 「お、おい!」ゴブは慌てて、指をさした。「デザートワーム!?」遠くに全長20メートルはある大ミミズが目に入った。「何か・・・こっちに来てないか?」・・・マジで?「やっぱり、来るよねええええ!!」デザートワームが飛びかかってきた!


 「ひい・・・!ひい・・・!」全力で逃げているが、暑さで消耗しているせいで速く走れない。「どうすんだよ!?このままだと、食われちまうぞ!」ゴブは、そう叫んだ。「僕も分かんないよ!ああ!もう!師匠の馬鹿ああああ!!」僕は、やけになってそう叫んだ。


 「ごぷ・・・!」僕は、転んでしまった。「ジーク!?」ゴブは、後ろを向いた。「うわあああ・・・!?」ワームは、僕に襲いかかってきた!こんなところで死ぬのか・・・!?「うお!?何だこの音は・・・!?」突然、耳をつんざく音が響いた。「ぎいいいいい!!!」ワームは、嫌がっているように感じた。


 呆然としていると・・・。「え?」僕は、何者かに抱きかかえられた。「あの・・・?」よく見ると、その正体はメスのウルフマンだった。「あのー・・・?て、うあああ!?」ウルフマンは、無言で走り始めた。「・・・うえ?」ゴブも抱き上げられ、その場を去った。





 数分後・・・。「うおおおお!おおお?洞窟?」僕たちは、ウルフマンの住処らしき場所に連れてこられた。「ここは?」「私の住処よ。」ウルフマンは、そう言って僕たちを降ろした。「・・・喋れるのか。」ゴブは、そう言った。ということは・・・?


 「いきなり、抱きかかえたりしてごめんなさいね。ケガはなかった?」心配そうに見つめてそう聞いてきた。「あ、はい。ありがとうございます。」狼男?いや狼女のような見た目に反する、優しい言葉をかけられた。「良かった。」ウルフマンは、笑顔でそう言って僕の頭を撫でた。・・・爪が痛い。


 「どうして、デザートワームが苦しみだしたんですか?」僕は、そう質問した。「あのモンスターは、音に敏感なのだから私の雄叫びに怯んだのよ。」・・・なるほど。「・・・そういえば名前はあるのか?」ゴブは、話を変えた。「あら?ゴブリンさん話せるのね。・・・残念だけどないわね。」・・・やっぱりそうか。


 「そうか。ちなみに、俺はゴブだ。」「僕は、ジークです。」僕たちは、自己紹介を済ませた。「名前がないのは不便ですね・・・。」僕は、しばらく考えた。「・・・ウルっていうのはどうですか?」「それでいいわよ。」・・・即答か。「・・・分かりました。じゃあ、ウルさん改めてよろしくお願いします。」僕は、お辞儀をした。





 「あなた達って何処から来たの?」ウルさんは、そう質問した。「・・・サイリードから来ました。」僕は、そう言った。「サイリードから!?」ウルさんは、当然のように驚いた。「また、どうして?」ウルさんは、そう質問した。


 「師匠に世界を調査して来いって言われて・・・。」僕は、そう言った。「調査?」ウルさんは、首を傾げて言った。「ウルさんのように話すことができるモンスターについてです。」ウルさんは、「へえー・・・。」と納得したように頷いた。


 「そういえばウルさんは、左目に青い竜の紋章がある男に会ったことないですか?」今度は、こちらから質問した。「言われて見れば・・・会ったかもしれないわね。」やっぱりそうか・・・。「その時、何かされませんでしたか?」さらに、深く質問した。


 「うーん・・・。その男に襲いかかろうとしたら、体が急に重くなって・・・。」僕は、相槌あいづちを打って聞いた。「それで、暴れてたら男が頭を触ってきて・・・、そうしたら気を失って・・・。」「目が覚めたら喋れるようになっていたと・・・。」「そういうことになるわね。」なるほど・・・、ゴブの話と全く一緒だ。


 「他には、何かされましたか?」すると、ウルさんの表情が暗くなった。「・・・仲間が殺されていたわ。」・・・やってしまった。「そうですか・・・。」ウルフマンは、普通の狼のようにメスをリーダーに仲間と共に行動する。人のように歩くことからそう言われている。


 「・・・俺もそうだった。」静かに聞いていたゴブが口を開いた。「俺の仲間は、眠っているように死んでいた。」死んでいたとは聞いていたが、そこまで詳しくは聞いていなかった。「そう。私の仲間もそんな風に息絶えていたわ・・・。」ウルさんは、悲しそうに言った。





 「・・・ウルさん。」俺は、真顔で言った。「ど、どうしたの?」ウルさんは、冷や汗をかいた。「・・・水ねえか?」ゴブは、ゾンビのような顔で言った。「え!?あ、ああ。洞窟の奥に・・・?」僕たちは、よろめきながら走った。「あの・・・二人とも・・・?」そして、顔を頭ごと地底湖に突っ込んだ。「ジーク君!?ゴブ君!?」ウルさんは、驚いてそう言った。「ぷはあ!生き返ったー!」僕とゴブは、頭を上げた。


 (そんなに喉が渇いていたのね・・・。)とウルさんは、心の中で思っている気がする。「・・・あなた達は、これからどうするの?」・・・考えてなかった。「・・・考えてなかったのね。」・・・おっしゃる通りです。「・・・ここから、南にエルドリンという国があるわ。そこに行けばサイリードに戻る方法も分かるかもしれない。」・・・そうだな。「ちょっと待ってください。ゴブ。」僕とゴブとウルさんの話し合いが始まった。


 話し合いの結果、ウルさん、もといウルフマンは怪力で、三人までなら背中に乗せられるらしい。なので、エルドリンの近くまで運んでもらうことにした。残念ながら、ウルさんとゴブが街に入ると大変なことになるので、申し訳ないが街の外で待ってもらうことにした。


 その街で、この大陸のモンスターの情報とサイリードに戻る方法を探すことにした。・・・何で俺たちが調べないといけないんだ?「よし!そうと決まれば早く移動しよう。」不安や不満が残るが、水を用意して僕たちはエルドリンに向かうことにした。





 「うお!お、おお!」は、速い!想像以上の速さと衝撃にまともな言葉が出てこなかった。ウルさん、大丈夫って言ったじゃん!そこまで怖くないって言ったじゃん!「しっかり、つかまっていてね!」さらに加速した。「いやあああああ!?」僕とゴブは、悲鳴を上げた。


 数時間後・・・。「・・・もう着きました?」その頃には、風圧や衝撃に慣れていた。「ええ。着いたわよ。」ウルさんは、笑顔でそう言った。・・・なんもいえね。「ゴブ。ゴブ?ゴ・・・ブ・・・?」振り返ると、目に光がなかった。


 「だ、大丈夫か?」僕は、ゴブに声をかけた。しかし、ブツブツと何かを呟くだけだった。(駄目だこいつ・・・、早く何とかしないと・・・。)・・・とりあえず、僕はウルさんから降りた。「ゴブ!僕は、行ってくるよ。おい!おーい!」顔の前で手を振ったが、全く反応はなかった。・・・まあ、いいか。「・・・それじゃあ、行ってきます。」僕は、エルドリンに向かった。





 「おおおお・・・!」街の中は、外が砂漠とは思えないほど発展していた。街だけを見れば、サイリードと全く変わらない。違いがあるとすれば、人々が派手な通常より倍つばの広い中折れ帽を被っていたことだ。「はっ!」・・・こんなことをしている場合じゃなかった。サイリードのお金は、ここでも使えるらしい。なので、ゴブとウルさん用の全身を覆うフードを買い、今晩の宿をとることにした。


 「いらっしゃいませ。何をお買い求めで?」ニヤケ顔の商人が両手のひらを重ねてそう言った。「えっと・・・、大人用と子供用のフードと・・・、あと・・・世界地図を。」というと、男は地図とフードを取り出した。「これで、よろしいんで?」男は、そう言った。


 「うん。それいくら?」そこまで、高くないだろ。「全部で5000ゴールドです。」・・・高いな。「・・・もっと、安くできない?」「5000ゴールドです。」おっと、これはあああー?「もっと、安く・・・。」「5000ゴールドです。」商人は、引き下がる様子がなかった。「3000ゴールドとか・・・。」「5000ゴールドです。」ですよねええ・・・。


 困ったな・・・。払うかどうか悩んでいると・・・。「よう!オッサン。久しぶりだな。」青髪で短髪の青年が割り込んできた。「ま、まいど・・・。」商人は、引きつった笑顔でそう言った。「相変わらず、冒険者をぼったくりしているんだな。」青年は、皮肉を込めて言った。


 「ぼったくりって・・・証拠があるんで?」商人は、鼻で笑ってそう言った。「証拠ね・・・。そう言えば、世界地図は500ゴールドで、フードは子供用も大人用も800ゴールドで売ってた気がするが?」青年は、さっきまでの笑顔と打って変わって、真顔で鋭い目で言った。


 「う・・・。分かりました・・・。それでいいですよ・・・。」商人は、頭を押さえてため息をついた。こうして、一人の青年のおかげで目的の5000ゴールドのものを、合計1300ゴールドで買うことができた。青年は、店を後にした。僕は、お金を払って青年を追いかけた。





 「ちょっと・・・,待って・・・!」僕は、息を切らしてそう言った。「・・・どうした?」青年は、後ろを向いた。「助けてくれて、ありがとう。」僕は、息を整えて笑顔でそう言った。「何だ。そんなことか。気にすんな。困っているようだったから、助けただけだしな。」青年は、照れくさそうに言った。


 「君、名前なんていうの?ちなみに僕は、ジーク・ガリウス。」僕は、そう言った。「・・・デューク。デューク・レイウスだ。」デュークは、頭をさすってそう言った。「デューク。改めて、ありがとう!」僕は、笑顔でそう言った。「いいってことよ!」デュークも笑顔でそう言った。


 「そういえば、お前はどこから来たんだ?冒険者に見えるが・・・。」デュークは、僕の全身をまじまじと見た。「・・・実は、サイリードから来たんだ。仲間と一緒に。」僕は、そう言った。「サイリード!?」デュークは、驚いてそう言った。





 「何をしに来たんだ?」デュークは、まだ驚いている様子でそう言った。「師匠に無理やり送られて、それで・・・。」僕は、ブツブツとそう言った。「そ、そうか。た、大変だな・・・。」デュークは、冷や汗をかいてそう言った。


 「俺の師匠も、酷くてさ・・・。殴られて、気を失ったらこの国に置いていかれたんだよ・・・。」デュークは、ため息をこぼした。・・・あれ?そういえば、師匠はガリフに行くって言ってたような・・・・?「どうした?」デュークは、心配そうに言った。


 「・・・その師匠の名前って?」僕は、話題を変えた。「え?ああ、ミランダ・カーミラだけど・・・。それがどうした?」・・・マジかよ。「・・・実は、僕の師匠もその人なんだよ。」「え?・・・マジかよ。」デュークは、一瞬固まったがため息交じりにそう呟いた。


 「ということは、紋章男のことも知っているのか?」僕は、頷いた。「なるほどね・・・。」僕とデュークは、同時にため息をついた。「・・・ここじゃなんだし、別の場所に行こうか。」僕は、そう言ってデュークを連れて喫茶店によることにした。・・・この人が兄弟子とはね。





 とある喫茶店・・・。「にしても・・・、お前も災難だったな。」デュークは、ため息をついた。「本当だよ・・・!俺が何を・・・したっていうんだよ・・・。」僕は、嗚咽おえつした。「そりゃあ・・・、泣きたくもなるよな・・・!」デュークも泣き始めた。


 「あ、そう言えば。デューク。」僕は、すぐさまの表情に戻った。「切り替え速いな・・・。」デュークは、涙声でそう言った。「紋章男ってどんな男なんだ?」僕は、そう質問した。「・・・すげえ美形の色男だとよ。」デュークは、不機嫌そうに言った。


 「・・・わりと有名人なのか?」余り、聞いたことないけど・・・。「ああ、これだけ世界に影響を与えているからな。」・・・何で不機嫌そうなんだ?「あれ?デューク君?」若い女が話しかけてきた。「おお!花屋の姉ちゃん。今日も綺麗だな。」爽やかな笑顔で返した。


 「もう!そういうことばっかり!」女は、満更でもないように言った。「ただの素直な感想だぜ?」デュークは、相変わらずの笑顔で言った。「本当?あ、リトさん!」女は、別の知り合いのもとへ向かった。「え?ちょ・・・姉ちゃん!?」慌てたように言ったが、声は届かなかった。


 「なんで、よりにもよってリトの野郎と・・・!しかも、あんなに楽しそうに・・・!」・・・なるほど。リトという男をよく見ると、デュークのように美形でかなりイケメンだった。(嫉妬か・・・。)僕は納得した。・・・ていうか、単純だな。





 「・・・デュークってモテるんだな。」僕の声など聞こえていないようにデュークは、何やらぶつぶつと独り言を言っていた。「で?紋章男ってどんな男なんだ?」僕は、改めて同じ質問をした。「・・・その男がモンスターに知能を与えているのは知っているか?」デュークは、そう聞いてきた。


 「知ってるけど・・・それがどうしたの?」僕は、質問の意図が分からなかった。「じゃあ、モンスターが生まれた原因は知ってるか?」何を今さら・・・。「・・・知ってるよ。魔王が現れたと同時に突然、現れたんでしょ?」“魔王”とは、今から5000年前に実在したモンスターの統率者である。恐らく、この世界で誰もが知っている人物だ。


 「それがどうしたの?」ますます、分からなくなった。「ジュル伝記って、読んだことあるか?」「うん。あるよ。それが何?」ジュル伝記とは、魔王を倒した伝説の英雄の5人の1人ジュルートが書き残した、魔王誕生から討伐を描いた冒険譚ぼうけんたんである。


 「その中にこう記されている。魔王の姿は、白い髪に青い瞳、左目の周りには瞳と同じ色の紋章が彫ってあったと。」・・・本気で言ってるのか?「・・・悪い冗談だろ?」僕は、鼻で笑ってそう言った。「そして、魔王はモンスターに知恵を与え、その数を増やし世界を滅とした・・・。」デュークは、続けてそう言った。


 「デュークが言いたいのは、紋章男の正体は魔王かもしれないってこと?」「そういうことだ。」なるほど・・・。にわかには、信じ難い話だ。「あの師匠が言うんだから本当だろうよ。」あの師匠がねえ・・・。ん?師匠?「・・・今の話に師匠が関係してたか?」僕は、そう聞いた。


 「え?俺たちの師匠は、魔王を倒した勇者の末裔まつえいだろ?」「え!?」僕の突然の大きな声に、そこにいた全員がこっちを向いた。「なんだ?知らなかったのか?」デュークは、鼻で笑ってそう言った。「し、知らなかった・・・。」僕は、唖然あぜんとした。





 「・・・話変わるけど、デュークは今なにをしているんだ?」気を取り直してそう聞いた。「ギルドでドラゴンハンターをやってるよ。」・・・予想よりも凄い職業だった。何故なぜなら、ドラゴンは数百人の戦士が束になってかかっても、全滅の恐れがあるほど危険なモンスターだからだ。


 「へえー・・・。何人ぐらいで行くんだ?」僕は、興味深々に聞いた。「多くて・・・、5人ぐらいかな。」デュークは、しれっとそう言った。「す、すげえ・・・。」デュークは、コーヒーを一口飲んだ。「この前は、ワイバーンを100体ぐらい倒したかな。」ほえー・・・。


 「何でドラゴンハンターに?」そう聞いた。「ガキの頃に、火竜サラマンダーに襲われてな。」デュークは、懐かしそうに言った。「え!?よく無事だったな。誰に助けてもらったの?」「倒した。」ん?誰が?デュークは、被り気味に言った。


 「助けてくれた人が?」まさかね・・・。「俺が。」んんん?僕は一瞬、思考が止まった。「・・・それ本当の話?」さっきから、信じられないことばかりだな・・・。「本当だぜ?気づいたら、倒してたんだよ。その後に、今の師匠のもとで修業したんだよ。」・・・経歴もすごいな。





 「お前は、どうして師匠のもとで修業しているんだ?」今度は、デュークが聞いてきた。「うーん・・・。何でだろ?」考えたことないな・・・。「俺が聞きたいんだが・・・。」またコーヒーを飲んだ。「強くなりたくてかな?」僕は、絞り出してそう答えた。


 「それは、どうして?」そう返してきた。「僕は、師匠に助けてもらったんだよ。」僕は、懐かしさを感じながらそう言った。「それで、師匠に憧れてるのか?」デュークは、そう聞いてきた。「そうなんだと思う。」うん。きっとそうだ。


 「・・・嫌になったことは、無いのか?」デュークは、心配そうに聞いてきた。「え?無いけど・・・。すいません!コーヒーを1つ。」デュークの言ってることがよく分からなかった。「普通、嫌になると思うぜ?あんだけ厳しいんだから・・・。「俺なんか何度、脱走したことか。・・・全部、失敗してるけど。」確かにつらいけど・・・、脱走するまでの厳しさかな?





 「お前は、仲間と来ているって聞いたがどんな奴らだ?」一番、聞いて欲しくない質問きたああ!僕が困ったように黙っていると・・・。「・・・驚かないし、誰にも言わないから言ってみろ?今更、誤魔化すこともないだろ?」デュークは、兄弟子らしくそう言った。


 「実は・・・。」僕は、ゴブとウルさんについて説明した。「なるほどねえ・・・。モンスターと・・・。ていうか、ネーミング雑だな。」デュークは、苦笑した。「え?ソウカナア?」僕は、そう言った。「凄い棒読みだな・・・。」デュークは、そう言った。


 「・・・だから、旅がしづらいんだよ。」僕は、ため息をこぼしてそう言った。「だったら、俺のいるギルドに入ったらどうだ?」デュークは、意外なことを言った。「え?入れるの?」驚いてそう言った。「ああ。モンスターテイマーっていう、職業があるからそれで登録したらどうだ?」・・・確かにそうした方が良さそうだな。


 「え?でも、ギルドって審査が厳しいんじゃ?」僕は、そう聞いた。「他のギルドは、厳しいけどウチは仕事をちゃんとしてれば、後は気にしないから大丈夫だよ。」ギルドとは、国が対処できないモンスターを退治する傭兵集団の呼称である。その性質上、入団者の裏切りが多いためどうしても審査が厳しくなる。


 「そのギルドは、どこにあるの?」僕は、そう聞いた。「シークイン大陸だよ。」・・・また、そんな遠いところにあるのね。シークイン大陸は、ガリフの北に位置する極寒の大陸である。「ん?じゃあ、君はどうやってガリフに来たの?」シークインから他の大陸に移動するには、西にあるシークイン唯一の港町から月に一度出る船で移動するしかない。





 「そこは、安心していいぞ。飛んで来たから。」飛んで来た・・・?「・・・どういう意味だ?」僕は、話の意味が分からなかった。「そのままの意味だよ。まあ、この町を出れば分かるよ。」この町を出れば分かる・・・?「ひとまず、そのモンスター達の所に案内してくれよ。」「あ、あああ。」僕は、言われた通りに一緒に移動した。


 「まだかしら・・・。」ウルとゴブは、待ちくたびれていた。「ただいま。」僕は、大きい声でそう言った。「お、来たか。おかえ・・・ぎやああああ!?」ゴブは僕を見た瞬間、悲鳴を上げた。。「どうした・・・。」ウルさんも固まった。・・・そりゃそうだよな。


 ウルさんは、今にもデュークに襲いかかりそうだった。「こ、この人は、デュークって言って僕の兄弟子なんだけど、俺たちに協力してくれるそうだ。」「あら。そうなの?ごめんなさいね。えーっと・・・デューク君。」・・・話が分かる人でよかった。


 「ほ、本当に喋れるんだな・・・。ああ、よろしく。ウル。」デュークは、驚いていた表情だったが、すぐに笑顔に変わり二人は握手をした。「はあ・・・。」僕は、安心のあまり大きなため息をついた。「・・・そっちのゴブリンは大丈夫か?」デュークは、ゴブを見て心配そうに言った。





 「あちゃー・・・。」ゴブは、泡を吹いて気を失っていた。「あらら・・・。」ウルさんは、苦笑してそう言った。「おい!ゴブ!起きろ!」僕は、胸倉をつかんで揺さぶった。「そ、そこまでしなくても・・・。」デュークは、そう言った。


 「すいませんね!姉さん、兄さん。今起こしますんで。おい!起きろ!」僕は、そう言った。「お前そんな喋り方じゃなかっただろ・・・。」デュークは、柔らかいツッコミを入れた。「うーん・・・。」ゴブは、目を覚ました。「おお!起きたか。」僕は、そう言った。「何でだろ・・・頭痛いな・・・。」ゴブは、頭を押さえてそう言った。


 「何ちんたら眠ってんだよ!」また、揺さぶった。「え?チンピラ?」ゴブは、そう言った。「んだと!?兄さんを待たせておいて、なんだその言い草は!」「すいません!すいません!」ゴブは、泣きながらそう言った。それをウルさんとデュークは、苦笑いをして見ていた。





 「・・・で、この人は僕の兄弟子なんだよ。」事情を説明した。「そうだったのか・・・。」ゴブは、正座をして聞いていた。「そう言えば、そのギルドのあるシークイン大陸って何処にあるんだ?」ゴブは、そう聞いた。「何で正座・・・?」ウルさんとデュークは、そうツッコんだ。


 「この大陸より北の方だよ。」僕は、そう答えた。「・・・上陸できるの一箇所だけだけど。」ボソッとそう言った。「え!?」ゴブとウルさんは、同時にそう言った。「で、でも、船は一応出てるんでしょ?」ウルさんは、そう聞いた。「・・・月に一回だけ。」僕は、そう聞いた。


 「どうするんだよ・・・。」ゴブは、ため息をついた。「その為に俺が来たんだよ。」デュークは、自信満々に言った。「でも、どうやって?」僕は、そう聞いた。「まあ、見てろ。」デュークは、指笛を吹いた。シーン・・・と、辺りは静まり風の吹く音だけが響いていた。





 「・・・何も起きないけど。」デュークは、僕の声掛けに動じることなく遠くの空を見つめていた。「お、来た、来た。」デュークの目線の先を見ると、何やら黒い点のようなものが見えた。「あれは・・・ド、ドラゴン!?」何で?何で!?ちょ、え!?


 「いやあああああ!?」黒い点は、一気にはっきりとしたドラゴンの姿となって、地上に砂を巻き上げ降り立った。「やっぱり、速いなログルド。」デュークは、そう言った。「当たり前であろう。我は、世界最速のドラゴンだからな!」ドラゴンは、自慢げにそう言った。


 「ログルド!?」僕は、その名前を聞いて絶句した。「ほお・・・。小僧、我の名前を知っているのか?如何いかにも、我は4大猛竜が一体、ログルドである!」ログルドは、ガハハハッと豪快に笑ってそう言った。4大猛竜とは、5000年前の魔王大戦時に勇者率いる人間軍と共に魔王軍に挑んだ勇者と並ぶドラゴンの大英雄である。魔王大戦前は、6体だったらしい。


 「・・・して、デュークよ。この者たちは、貴公の知り合いか?」ログルドは、そう聞いた。「ああ。ゴブリンのゴブとウルフマンのウル、そして、ジーク・ガリウスだ。」「ログルドさん、よろしくお願いします!」僕たちは、深々と頭を下げてそう言った。「そこまで、かしこまらなくて良い。気軽にログルドと呼べ。」ログルドは、そう言った。


 「ガリウスと言ったか?」ログルドは、そう聞いた。「え?あ、はい。」僕は、そう言った。「貴公は、ジャック・ガリウスの倅か?」ログルドは、確認するように聞いた。「親父を知っているんですか!?」僕は、驚いてそう言った。「うむ。大親友であるからな。」ログルドは、そう言った。


 「彼奴きゃつは、元気にしているか?」ログルドは、そう聞いた。「・・・10年前に戦死しました。」僕は、うつむいてそう言った。「そうか・・・。すまぬ、嫌なことを思い出させてしまったな・・・。」ログルドは、悲しそうに言った。





 「・・・デュークよ。」ログルドは、そう言った。「・・・何だ?」デュークは、そう返した。「この者たちは、どうするのだ?それとも、ただの出迎えか?」ログルドは、確認するように聞いた。「ギルドに連れて帰るよ。」デュークは、そう言った。「またか・・・。」ログルドは、ため息交じりにそう言った。


 「・・・貴公が連れて帰った者たちは、大半が試験で入団を諦めているであろう?」ログルドは、そう言った。「そ、そんなに厳しいんですか?」僕は、そう聞いた。「うむ。デュークのいるギルドはな、“気高き竜声ドラゴンロア”と言ってな。最強のギルドと言われているのだが、その反面、最悪のギルドと言われているのだ。」ログルドは、さも嫌そうに言った。


 「そうなんだ・・・。だ、大丈夫かな・・・。」僕は、心配してそう言った。「大丈夫だろ。」デュークは、他人事のように言った。「お前が言うな!」僕とログルド、ゴブは、同時にそう言った。・・・まあ、他に行く当てもないしな。


 「・・・ま、いいか。」僕は、ため息をついてそう言った。「・・・それより、お前らいつまで抱き合っているんだ?」デュークは、冷たい目でそう言った。「あ。」僕とゴブは、すぐさま離れた。「・・・じゃあ、行こうか。」僕の声を合図に、僕たちはシークイン大陸へ向かった。

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