異世界ヒロインの炎上まつり

ちびまるフォイ

常に褒めてもちあげろ!

「みなさん、いいザマスか。

 異世界勇者を婿に取ればチートで一生安泰。

 そんな甘い言葉でこの養成学校にきたザマスね」


「ち、ちがうんですか?」


「合ってるザマス。ただ、この先はいばらの道ザマス。

 異世界勇者の正妻になることは、

 すなわち人間の尊厳をどれだけ捨てられるかザマス」


「ごくり……」


「これから私がみっちり教育して、

 立派な異世界ヒロインとして嫁がせるザマス!!」


「はい教官!!」


異世界転生窓口の女神部屋に隣接する、ヒロイン養成学校。

今日もそこに1匹のヒロイン候補生が訪れた。


「まずはこれを身につけるザマス」

「教官、これは?」


「パッドとウィッグザマス」


「それはわかりますけど、どうして?」


「異世界勇者の好みは似たり寄ったり。

 常に非モテ男子の理想系女子の偶像を求めるふしがあるザマス。

 つまり、ロングヘアで巨乳。これ鉄板ザマス」


「なるほど」


「訓練中も、常に本番と同じ身なりで体になじませるザマス。

 自然な乳揺れは普段の修行で身につく技術ザマス!」


「はい教官!!」


候補生はまだ知らなかった。

このヒロイン養成学校の恐るべき鬼カリキュラムを。


「まだ甘い!! ぜんぜんなってないザマス!!」


「すごいですぅ~~!」


「もっと愛情を込めて!!」

「すごいです~~♪」


「もっと媚びるように!!」

「勇者様、すごいですぅ~~~~!」


「あまーーい!!」


教官の容赦ないムチが候補生を襲う。


「だめザマス。ぜーーんぜんダメザマス!!」


「教官、どうして全部のカリキュラムが褒め塾なんですか?

 もっとこう、料理の腕とか磨かなくてもいいんですか?」


「そんなのは不要ザマス。

 異世界勇者どもは自分で料理できることをアピールして

 「家庭的でもあるオレ」を自認したいだけザマス。

 ゴミ捨てだけやって、家事をやった気になる夫と同じザマス」


「教官、なんか家庭であったんですか……?」


「それよりも、勇者の嫁に求められる資質はズバリ"褒め上手"ザマス!」


候補生は必死にメモを走らせる。


「現実世界で評価されなかった鬱屈した精神の輩が

 転生などというご都合主義でやってくる以上、

 求められるのは承認欲求を満たしてくれる存在ザマス!」


「教官! 毒が! 毒がすごいです!」


「1に褒めて、2に褒めて、3でツンデレ、4に褒める!

 とにかく、異世界勇者がやることなすこと褒めちぎるザマス!!」


「はい! がんばります!!」


それから何日もの日が流れた。


教官の指導の手が緩むことはなく、

連日に及ぶ指導に候補生はボロボロになった。


それでも、未来に待つ悠々自適な暮らしを糧に候補生は諦めなかった。


「はぁ……はぁ……やるザマスね。

 ここまで厳しく指導して、諦めなかったのは初めてザマス」


「教官……!」


「いいでしょう。最後の実技試験に望むことを許すザマス」


教官がスイッチを押すと、新しい部屋が現れた。

そこにはホログラムで表示された異世界勇者がいた。


「実技シミュレーション試験ザマス。

 これから、この疑似勇者がやることを褒めまくるザマス。

 勇者の好感度が合格点を超えれば、卒業し異世界派遣ザマス」


「これでついに……! がんばります!」


「いいザマスか、けして否定してはならないザマス。

 彼らはパートナーを求めているのではなく、

 常に自分を賛美してくれるオーディエンスを求めているということ

 けして頭から忘れてはならないザマスよ」


「はい!!」


実技試験がはじまると教官は部屋の外で待機することに。

完全にひとりだけの試験となる。


すると、疑似勇者はおもむろにポケットからライターを取り出した。



ボッ。


ライターの火をつけた。



それだけだった。



ガラス越しに見ている教官はすぐに察知して身振り手振りを行う。

しかし、別室なので声は通らない。


ハッとした候補生は慌てて、無駄に大げさな声をつくる。


「わぁ! 勇者様、どうやって火を起こしたんですかぁ~~!?」


『これはライターというんだよ(ドヤ』


「ライターを持っているなんて、すごいですぅ~~!!」


ギリギリセーフで好感度がアップする。

ルールを理解した候補生は勇者の一挙一動を見逃すことなくフォローする。


「さすが勇者様です! こんな作戦、誰にも思いつきません!」


「今のが魔法ですか? すごいですぅ~~!!」


「別の女の子にもモテるなんて、すごいですぅ~~!」


「いつも私を大事にしてくれる勇者様、大好きです~~!」



ビーー。


試験が終了し、電光掲示板でポイントが掲載される。

候補生が確認するよりも早く教官がやってきて抱きしめた。


「おめでとう!! 合格点ザマス!! 本当に良かったザマス!!」


「本当ですか!? 教官のおかげです!」


「なにを言うザマスか。すべて、あなたの努力の結果ザマス。

 異世界に行っても、どんなことも褒め続けていくこと忘れないように。

 あ、ザマス」


「はい! 教官、ありがとうございました!!」


候補生は晴れて異世界ヒロインとして名前をつけられ派遣された。


そして偶然を装いながら勇者と遭遇すると、

勇者のどんなことにも必ず褒めるように努めたという。




「わぁ、勇者様! いきなり負けてしまうなんて、すごいですぅ~~!!」



すぐにヒロインは返却された。

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