第6話 デート

 翌朝、僕の目覚めは最悪だった。


「痛ッ!」


 目を開けると最初に飛び込んできたのはまだ見慣れないフローリングの床だった。どうやらベッドから落ちて目が覚めたらしい。

 自分の家でも、昨日このベッドで寝た時も、落ちることなんてなかったのに……何か悪い夢にうなされていたのか――とにかく昨日のことを考えれば朝から最悪な日だった。

 フラフラと起き上がり目覚まし時計を見る。時刻は七時半、夏休みの男子高校生の起床時刻としては驚くほど早い方だろう。圭太みたいに運動系の部活に入っていればこのくらい普通だろうが、僕にとっては十分早朝と呼ぶにふさわしい時間帯だ。

 ひんやりと冷たいフローリングの床から立ち上がり、一階に降りて居間へと向かう。祖母はさすが農家の人というべきかもう既に起きていて食後の日本茶を啜っていた。


「あら、拓。おはよう」

「おはようございます……」

「ちょっと待ってなさい。すぐ朝ご飯持ってくるから」

「はい……」


 僕の返事を聞こうともせず祖母は立ち上がる。入れ替わる様に僕はちゃぶ台の前に座り、テレビから流れる男性アナウンサーのゆったりとした気象情報を見つめた。


『関東甲信越の気象情報です。東京二十三区は今日も快晴で熱中症に――』


 天気予報を見ながら思う。そういえば今僕が住んでいるのはもう東京じゃないと。この県の天気予報じゃないと意味がない。しかし、関東地方の天気予報が終わってもこの地域の天気予報が流れることはなかった。


「なんだよ……」


 別に天気なんて気にすることはないのだが、何となくいらついてしまう。こんな小さなことでいらついてしまうなんて……どうやら自分は情緒不安定なんだと嫌でも自覚してしまう。


「はい、出来たよ」


 案外早く祖母が朝食を持ってきた。朝食はいたって純和風で茄子と胡瓜の漬物、納豆、味付け海苔、ほうれん草の和え物、豆腐が漂う味噌汁だった。昨日も感じたことだがやはりちゃんとした朝食が出てくるというのはありがたい。東京に居た頃は母親が仕事で朝早くから家にいなかったので、自分で適当にトーストを焼いたり、コンビニでおにぎりを買って済ませたりしていたので、朝から暖かい食べ物が出るというのは何となくうれしい。


「いただきます」


 味噌汁を一口飲んで、白飯を箸の先で掬う。胡瓜の漬物をジャキジャキと噛み砕き、納豆を醤油と辛子で混ぜてご飯にかける。それを味付け海苔で包み口の中へ。口の中で白と黒と茶色が混ざり合う。日本の味だった。

 その素朴な味わいを黙々と食べ、さらにおかわりまでして朝食を終えた僕は歯を磨いて寝癖を直すと早々に自分の部屋に引っ込んだ。


「ふぅー」


 ドアを閉めて、溜息をつく。これからどうしようかと頭を悩ませる。

 去年までなら毎日のように三人の幼馴染の内の誰かと遊んでいた。けど、今年からは同じように遊ぶことは出来ないだろう。夏は昨日のあれでもう僕たちとはさよならだと言ったし、圭太と紗耶は部活でそれなりに忙しいだろうし、いや去年までもそれは同じだったけど、何となく二人にも声はかけにくかった。

 午前八時からいきなり手持無沙汰となった僕は、充電しておいたスマホで適当な無料のゲームアプリをダウンロードし、充電が半分以下になるまで遊び続けた。元々真剣にやるつもりなどなかったのにゲーム内のランクが三十まで上がり、そこまでいった途端いきなりくだらなくなりアンインストールしてしまった。なんでこんなアプリに一時間半も夏休みという貴重な時間を費やしているのだろう。

 急に何もかも馬鹿らしく思えてきた僕は、真面目に夏休みの宿題なんてものをやろうかと考えた。しかし転校する以上前の学校からも、転校をしていない二学期から通う学校からもそんなものは出ているはずもなく、僕の決意はたったの五秒で霧散した。

 仕方ないので再びスマホと睨めっこしてネットサーフィンをする。そうしているうちに昼食の時間になって、一階で祖母が茹でた素麺を啜った。食べ終わると再び自分の部屋に戻り、東京から持ってきたマンガを微睡みながら全巻読破し、いつの間にか本当に寝てしまって、夕食の時間となり生姜焼きを食べ、また自分の部屋に戻って一度クリアしたゲームを再びやり始めた。


「何してるんだろ……」


 自問自答するように呟きながらゲームの中のゴブリンを剣で叩き斬る。ゴブリンは赤いエフェクトを撒き散らしながら塵となり「カイン」と適当に名付けた主人公に五十のEXPと三のSP、僅かなお金を残して消えた。カインはいいなと思わず羨む。だって、目の前にいる敵を倒すっていう明確な目的があって、剣を振るえばそれが倒せることを知っている。なのに僕は、高校二年生にはあまりにも大きすぎる現実の壁を見せられて、どう戦えばいいかもわからずもがくばかりだ。


「お前はこうやって敵を倒し続けていればいつかは魔王と戦うことになって、その頃には戦った分強くもなっていて、魔王だって倒せるようになっているだろうな……」


 異世界を探索するカインに問いかけてももちろん返事はしない。また次なる敵とエンカウントし気合のはいった声を上げて、剣を片手に敵に立ち向かっていく。

 僕はいったいどうすればいいんだろう。

 その時、スマホから着信音が鳴り響いた。僕はなんとなく中途半端になるのが嫌でゴーレムを素早く倒してからスマホへ。画面には「桐峰紗耶」の四文字が浮かび上がっていた。


(なんだろう?)


「もしもし?」

『あっ、拓? 突然だけど明日暇?』

「特に用事はないよ」


 今も暇すぎるくらいだし。


『よかったーそれなら映画行かない?』

「映画?」

『そう。本当は柔道部の子と行く予定だったんだけど急に駄目になっちゃって……他の子も圭太も予定あるって断られたから……本当ッよかった拓が暇で!』

「まぁ、いいんだけど……映画って何見に行くの?」

『純情200パーセント☆ってやつ。知ってるでしょ? 今CMもやってるし――』

「ふーん……って! ちょっと待ってそれって恋愛ものだよね?」

『そうだよ。ハッ! まさかあたしがホラー映画見に行くとでも?』

「いやいや、そんなこと言ってないけどさ……なんか男の僕が行くの気まずくない?」

『なんで? この手のものは男だって見に来るでしょ?』

「嘘? 見に来るの?」


 CMで試写会の様子がチラッと写っていたのを思い出す。客性はほとんど十代から三十代の女性だった気が……


『カップルで』


 思わずこけそうになった。


「なんか明日どうなるか映画館の中の光景が目に浮かぶんですけど……」

『大丈夫、大丈夫っ! あたしが、こ、恋人のフリしてあげるから!』

「……余計不安」

『なにが?』

「い、いやなんでも……とにかく映画は行くよ。待ち合わせとかどうする?」

『うーんそうだね。映画が十一時開演だから……九時にあたしの家に迎えに来て』

「わかった」

『それじゃまた明日ね。バイバイー』


 通話が切れる。正直恋愛ものの映画なんてさらさら見る気にもなれなかったけど、今日の暇さと天秤にかければ誰かと一緒に居た方が絶対に楽しいのでとりあえず行くことにした。まぁ、別に多少女性が多い空間に放り込まれたって問題は……ないだろう。

 それに紗耶に夏のことも聞いておきたかった。昨日あんなことがあったのに映画に誘ってくるってことは……もう夏のことなんてどうでもいいなんていうことかもしれなくて不安だった。

 貯金箱をひっくり返して五千円札を財布に入れて、その日は眠りについた。



 翌日の午前九時、適当な服に半袖のパーカーを持って外に出た。今日の天気もまた快晴で、映画館の中は寒くなるだろうと持ってきたパーカーは早くも意味をなしそうにもなかった。とはいっても、スマホと財布以外これといって持っていくものもないので、一応パーカーも持っていく。


「おっ! 来た来た! やっほーおはよっ!」

「おはよう。なんか見慣れない服着てるね」

「そっ、そう?」


 上は一昨日と大して変わらずノースリーブのものを着ているが、下は滅多に着ないであろうプリーツスカートを、それも太ももの半分くらいしか丈のないミニスカートを身につけていた。


「スカートなんて珍しいと思って……」

「そ、そりゃいつも遊んだりするのは山とか川だから……その……動きまわると……み、見えるし……」

「あー……そうだよね……」


 聞いた自分の方がなんだか恥ずかしくなり、目をそらす。


「に、似合わないかな……?」

「えっ? あ、うん。に、似合うと思うよ」


 いつも強気な紗耶があまりにもびくびくとした態度で聞いてくるので、なぜだかこちらもびくびくしながら答えてしまう。


「そう……よかった……」


 いつもの僕をからかう態度はどこへ消えたのか、うれしそうに微笑みながら自分のスカートをつまむ。その仕草に僕は少しだけドキッとした。


「あっ、拓がパンツ見ようとしてる。変態」


 と、思ったらやっぱり紗耶はいつも通りだったようで僕のことを茶化してくる。


「み、見てないよ」

「嘘だぁ~。絶対見ようとしてるって。ほらほら」

「ほらほらって、スカートひらひらさせるのやめてよ!」

「にゃはははっ! 拓の変態! へ~んたい~!」

「もうっ! なんなんだよ!」

「ごめんごめん悪かったよ! それより電車に間に合わないから早く行こ?」

「自分がふざけてたくせに……」


 僕の反論はもちろん紗耶の耳には届かず、さっさと自転車の荷台に乗る。今日はスカートだからか、跨ることはせず横向きに腰掛けている。


「って、また僕が自転車漕ぐの?」

「当然でしょ! ほら早く!」


 紗耶に促されて渋々サドルに跨るが、駅までの道のりと辿り着くまでに使う労力を考えるとさっそく気が重かった。


「じゃ、行くよ?」

「うんっ! れっつごー!」


 自転車を滑るように走らせ駅へ、しばらく進んでカーブに差し掛かると、紗耶が僕のパーカーの裾を握ってきた。


「どうしたの?」

「今日はいつもと座り方が違うから落ちそうで……」


 そっぽを向きながら答える。これは珍しく大人しいと見せかけておいてまた冗談をふっかけるというパターンだろうか?


「だったらもっとしっかり握っておけば?」


 こちらも半分冗談でそう言ってみる。どうせまたいきなり胸がどうとかいうに違いない。そう予測しておけばやられた時の対処だって楽なはず……


「う、うん。わかった……」


 カーブを曲がる直前、紗耶の想像よりも遥かに細い手が後ろからギュッときつく引っ張られるように抱きしめられた。


「ッ……!」


 もちろん抱きしめられたということは、ちゃんとマシュマロのように柔らかいものは当たっている。いくら身構えていたからといっても突然だったため、若干焦り気味になり、危うくカーブを曲がり損ねるところだった。


「危なかった……」


 紗耶に聞こえないように小声で呟く。

 カーブを曲がり終え、再びペダルをこぎ始めようとするが、一向に紗耶の腕は僕の腰よりちょっと上の位置から離れない。


「さ、紗耶? そろそろ放してくれない?」


 しかし、紗耶は返事をすることもなく、代わりに腕に込める力を強くした。


「ちょ! 紗耶?」


 思わず振り向くと、紗耶は顔を赤くしながらも背中に右頬を擦りつけるような格好で僕のことを上目づかいに見ていた。その瞳はネコ科の動物のように丸く大きく、すがるようなものだった。


「駅までの間……だめ?」

「へっ?」

「だ、だめかな……?」

「だ、だって誰かに見られたら……」

「こんな暑い日に外歩く人なんてほとんどいないよ」

「そ、そりゃそうかもしれないけど……」


 田舎で、しかも過疎化も進む大滝村じゃ農業を営む人は畑仕事に、学生は真夏の日差しを避けるように大抵家の中に閉じこもる。現にここまで誰ともすれ違っていない。


「ねぇ、いいでしょ?」


 さらに体を密着させてきたので、僕は勢いに押されて頷いてしまった。


「……わ、わかったよ」


 思わず声が裏返る。体の内側にあるドキドキを出さないようにと思ったら、それが声になって出てしまったような、そんな感じがする。

 今日の紗耶はいったいどうしたんだろう? 冗談だったとはいえさっきのスカートの件から少し様子がおかしかったような……

 けど、そんな些末事は異常に早い自分の鼓動と、背中に押しあてられる胸の奥から聞こえる鼓動で、心臓が二つになったような感覚に押しつぶされてしまう。

 こんな時だけ一昨日の夏との出来事を忘れられそうな気がして、僕は自分が少しずるい人間だと思った。



 大滝村の駅から二回ほど電車を乗り継いで一時間、県内ではそこそこ栄えている地方都市に到着した。


「うわー都会は暑いね~人多いね~」

「うん、そうだね」


 都会といっても所詮地方都市、建物の密集度や人の少なさを考えればとても東京のそれらには敵わないだろう。規模や面積はせいぜい吉祥寺や立川などの半分ほど……もしかしたら八王子の駅前程度かもしれない。


「十時半か……映画は後三十分で始まっちゃうから見てからお昼ご飯だね」


 駅を出てすぐの信号を待ちながら会話を始める。


「ご飯食べた後はどうするの?」

「そうだなー……適当にボウリングとかカラオケとか?」

「やっぱりこっちの高校生もやることは東京とあんまり変わらないんだね」

「むっ、何それ。まるでド・イ・ナ・カ・に住んでる私たちが普通の高校生じゃないみたいに……東京がそんなに偉いのかー!」

「い、いや別にそういうこと言ってるんじゃなくて……大滝村にはそういうのないし……」

「……まっ、村にいる時は遊ぶっていったら川とか山だけどね。中学、高校にもなれば学校帰りにだってこの辺りに出てきてはしゃぎまわったりするよ。あたしは部活だけど」

「ふーん」


 それじゃ一昨日僕らのやってた川遊びは大滝村の高校生はもう誰もしていないってことか? ……ということは、僕たちは小学生レベル?


「おーい、青になったよ」


 紗耶に肩を叩かれて前を向くと、信号待ちの歩行者が対岸とこちらから流れ始めているところだった。先に歩き始めた紗耶に置いてかれそうになり、慌てて追いかける。

 しばらく歩いてようやく映画館についた。映画館といってもこれもまた東京のものとは比べ物にならないほど小さく、スクリーンも二つしかないようで、これから見る「純情200パーセント☆」の他にはハリウッドのアクションものしか上映していないようだった。しかも上映数も少なくどちらとも日に三回しか上映しないらしい。

 三階建ての建物の中に入ると、やはり映画館特有というか、過剰気味の冷房が僕らを向かい入れた。やっぱりパーカーは持ってきて正解だったようだ。


「涼しいー!」


 水を得た魚のように――いや元々テンションは低くないからそれが倍増されたように、紗耶は足取り軽く純情200パーセントが上映されるスクリーン――二階へ向かう。元々誰かと行く予定だったので前売り券は持っているらしく、階段を上がるとイケメン俳優と美少女モデルが今まさにキスしようとしているシーンが印刷された、純情もくそもないだろうと思ってしまう券を渡された。


「じゃ、私飲み物とポップコーン買ってくるね」

「あ、じゃあお金――」

「いいよいいよっ、今日はあたしが付き合わせちゃったし……本当はあんまり見たくなかったでしょ?」

「まぁ、どちらかといえば……」

「やっぱりそうだと思った。とりあえずあたしがおごるから」


 そう言い残すと紗耶は素早く売店の方へ行ってしまった。なんだか男が女子にたかっているようで嫌だったけど……他人の好意はありがたく受け取るべきだろう。

 紗耶を待つ間にパーカーに袖を通す。体はまだ火照っていたけど、これから二時間近くここにいることを考えれば着ていて暑くなることはないはずだ。


「おまたせ! はいっ!」

「ありがとう」


 売店から戻ってきた紗耶が僕にコーラとポップコーンを手渡した。


「それじゃ行こ?」


 紗耶が僕を先導してスクリーンへ繋がる扉へ、館員に券を渡してミシン目に沿って半券をもぎってもらい、中へ。スクリーンから放射状に広がる座席数はざっと五十から七十程。その半分がカップルで埋まっており、その他の席も女性客が二人以上のグループで隣り合って座っていた。


「ね、ねぇ、やっぱり僕たち場違いだよね……?」

「なんで?」

「だって……周りカップルばっかりだし……」

「大丈夫だって。私たちも周りから見たらカップルだよ」

「手もつないでないのに?」

「……」


 紗耶はいきなり黙ったかと思うといきなり僕の右腕に自分の左腕を絡めてきた。


「なっ……!」


 危うく持っていたポップコーンとコーラを落としそうになる。


「これなら少しは恋人っぽいでしょ?」


 僕が周囲の目を気にしていることを気遣ってくれたんだろうけど……いざ手をつなぐ――いや、それ以上のことをするとなると大分恥ずかしい。でもそれは紗耶も同じようで、僕の隣、頭一個分下にある横顔はほんのり朱色に染まっていた。

 女子と腕を組んだことって……いやそれ以上に手をつないだことなんてあったけ? と考えていたのも束の間。紗耶は早々に券に書いてある指定の座席を見つけたようで僕の腕をさっと解いて腰をおろしてしまう。


「なに? どうかした?」

「い、いや別に?」

「なんで疑問形なの? あっ、もしかしてあたしともっと腕を――」

「ち、違うよ! 別にそこまで……」

「ふーん」


 紗耶がにやにやと笑うので、ばつの悪くなった僕は席に座って紗耶からもらったポップコーンを誤魔化すように口の中に放り込んだ。しばらくしてから横目で紗耶の様子を窺うとちょうどストローでコーラを飲んでいるところで、何となく唇の方に目がいってしまい、何もしてないのにまた恥ずかしくなって目をそらしてしまう。一人で何をやっているんだ僕……

 しばらく会話がないままでいると、ブザーが鳴って係員と思われる人が上映上の注意をし始めた。説明を終えて係員が引っ込みもう一度ブザーが鳴ると、証明が静かに落ちて宣伝が始まった。


「へくちゅ!」


 退屈でいまいちストーリーが読めない宣伝が始めってからしばらくして、隣に座る紗耶がくしゃみをした。


「寒いの?」


 周りのお客さんに迷惑にならないように小声で訊いてみる。


「うん……ここ冷房効き過ぎ……へくちゅ!」


 紗耶がまたくしゃみをしたので、僕は自分が着ているパーカーを脱いで紗耶に手渡す。


「はい、これ」

「えっ? でもそれ脱いだら拓が寒いでしょ?」

「僕は大丈夫。寒がってくしゃみばっかりしてたら映画に集中できないでしょ?」


 紗耶はスクリーンから反射される映像の光りだけの世界でしばらく僕のこと見つめて、しばらくしてからもぞもぞとパーカーに袖を通し始めた。


「ありがと……拓もたまには気がきくじゃん……」

「どういたしまして」


 ちょうどその瞬間スクリーンがブラックアウトして本編が始まった。それから約二時間、イケメン俳優と美少女モデルの恋愛模様がスクリーンで淡々と流され続けた。

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