積み重ねたエモーション
ほしくん
1
彼女の好きな映画の新作が公開されたので「たまたま」手に入れたチケットを差し出して誘ってみた。
席は真ん中の少し上。しかも公開日、0時上映の回だ。ファン垂涎の一品だろう。
すると彼女はとても嬉しそうな顔をして、一瞬泣きそうな顔をして。そして微笑んだ。
「ごめん、彼がチケット取ってくれてて……」
「……そうなの? ごめん! 大丈夫大丈夫」
「本当にごめんね……」
「いいよいいよ! 今の彼、すっごく良い人じゃん! 楽しんで来なよ!」
本当に、とても良い人だろう。彼女の好きな映画のチケットを用意しておくなんて。
超人気作だから取るのにも苦労しただろう。
おそらく予約開始の3時間前から携帯とパソコンにかじりつきつつ、リロードをしまくり腕がつりそうな勢いで購入ボタンを連打したのだ。
実際体験した私が言うのだから間違いはない。
泣きたいやら、情けないやら、もういっそ笑いたいやら。
よくわからない感情のまま、チケットを即日即決のみ県内限定でオークションアプリに売り飛ばし。
ふわふわとした雰囲気を出すために巻いた髪の毛を1つにまとめ、最低限残っていた乙女心で前に垂らし。
近くの、改装したばかりだというカラオケボックスに殴り込んだ。
運良く部屋が空いていたのでフリータイムを選択する。
部屋に入った瞬間、競り落とされたよ、という通知が来た。2時間後、隣の駅で受け取りたいとのことだった。
了承し、あの駅には行きつけの居酒屋が無いことを思い出す。チェーン店だけど、1人用のコースがあったり、女でも入りやすい雰囲気がとても気に入っていた。
「……ああもう!」
全て上手く行かないなぁと叫んだ。好きだと言っていたアニメの主題歌を入力しマイクを握る。
ロック調の激しい曲で、今の気分にぴったりだった。
楽しいことしかしたくないよ。
そんな歌詞が胸に刺さって、吐きそうになる。
私、鈴木亜子。今年で20歳。
彼女は田中直。今年で20歳。
私達はいわゆる幼馴染というやつだった。
失恋回数は覚えていない。
諦めようとして、当然のように無理で、息を吐くように恋心を拗らせていく。
何度目かわからない失恋の痛みを、一体あとどれぐらいこいつと付き合って行けば良いのだろうと思いながら。
口に出すことしか、出来なかった。
『積み重ねたエモーション』
受け取り場所に来たのは冴えない男性で、なぜかポチ袋に代金を入れて持ってきた。過不足が無いことを確認しさっさとその場を後にする。引き止められた気もするけれど、貰う物も渡す物もないので何かあっても知らんぷりだ。
最寄り駅の近くにあるサブカル色強めの店でお酒とおつまみを選んでいると、直から連絡が来た。
先程はごめんと一言。
気にしてないよと返し、迷っていた2つを棚に戻しつつ一番度の強いものを掴んだ。おつまみは手に持ったチーズと冷蔵庫に入っている物でどうにかしてしまおうとレジへと向かう。
控えめに顔とお酒を交互に見られ、会計を済ます。
まぁそうだろう。私は見た目だけならゆるふわっとした大人しそうな大学生だから。
自分で言うのもどうかと思うけれどそう意識して服や髪型、小物を選んでいるからそう見えないとおかしいのだ。こういう服装、嫌いではないけれど朝の準備は時間かかるし結構なお金は飛んで行くし。
男から声をかけられる頻度が増えるし。
「ただいまーっと」
家についた瞬間、ゆるふわ擬態を解きまずはお風呂に入ることにした。今からはお酒を飲んで寝るだけだから。お湯で余所行きの空気を素早く洗い流し、素の私を浮かび上げる。
高校の頃のジャージは未だにどこにもほつれが無く、動きやすくて自分の部屋の匂いがしてほっとする。
「さて、と。おつまみ作ろうかな」
と言っても簡単なものばかりだ。夕食も兼ねているから少し多めに作ることにしよう。
それっぽく野菜を盛り付けたサラダ。
シーズニングをまぶして焼いた特売の魚。
素を入れて巻いた卵焼き。
この前の飲み会で貰った少し良いチーズ。
それらをテーブルに並べ、手を合わせる。写真は撮らなくても、いいか。誰かに見せるようなものでもないし。
手抜きだけれど、学校の友だちから言わせるとこれでも女子力の塊らしい。
料理も擬態もただ好かれるために勉強したものだから、手放しに褒められると少し後ろめたい。
何もかも出来ない人より、何かしら出来た人間の方が魅力的だろうなと昔の私は考えたのだった。
その目論見は的中し、人には好かれた。老若男女問わず。
そのせいで高校では生徒会長なんて物をしていたぐらいだ。印象を良くしようと適当に色々やっていたら、歴代会長の中でもトップクラスの支持率になったらしく卒業式では大勢に泣かれた。あまり覚えていないけれど。
私の中心には、いつも直が居たから。
彼女と出会ったのは小学生の頃だ。転校してきた時に凄く美人な子が居るものだと驚いた記憶がある。その時は大して話したりすることもなかったけれど、中学に上がり部活が一緒になってからよく話すようになった。
「懐かしいなぁ……」
引っ張り出したアルバムを捲りながらお酒を飲む。買ってきたのはラム酒で、甘い香りと林檎の様な味がして度が高いことを忘れそうなほど美味しい。それでもしっかりとアルコールは体内に溜まっているらしく、頭の隅っこがズキリと少し傷んだ。そこまでお酒に強くないので当たり前かと思いながら、パリパリに焼いた魚の皮を口に運びつつ、アルバムの適当なページを開いた。
開かれてしまったのは偶然か、それともいつの間にかついた開き癖による必然だったのか。わからないけれどあまり見たくないページだった。
そこでは、私と直が夕暮れを背にして笑っていた。
とても、とても綺麗で。まるで狙って撮られた映画のラストシーンか、丁寧に描かれたイラストの様だった。
これがどこかの賞に出され、そこそこの順位を取ったと前に担任の先生から連絡があった。
この時にした会話は一語一句覚えている。たまに夢で見るレベルで。
思えばあの時から私と直の関係は何も進んでいない。
ただの友達、それ以上でもそれ以下でもない。もしかしたら親友と思っていてくれているのかも知れないけれど。
私はそうは思えない。思ってはいけないのだ。
その頃から私は同性が好きだった。女の子が好きというか、どちらかというと男の子が嫌い、という感じ。それがおかしいこととも思っていなかった。だって、ただ「好き」の対象が同じ女の子なだけだから。
けれど、周りがそう思っていないことは理解していた。自分の頭が良いことを親に感謝しつつ、とにかくそれを隠す努力をした。
かっこいいと言われている芸能人のドラマを見たり、クラスの子とのボディータッチは程々に。
思えば、思春期の男の子も同じような気分だったのではないか。
あっちでもこっちでも、好きという感情を怖がっていたのだ。
それでも私は、鈴木亜子の魂は田中直に惹きつけられてしまった。
あの艷やかな黒髪や、大きい猫目。
慎ましやかな胸。
すらりと伸びた脚。
丸々、何もかも。
彼女を構成する物質1つ1つに「好き」という感情を抱いてしまう。
それでも、仲良くなった後でも、きちんと隠し切れていたはずだ。
現に今、こうなのだから。立ち回りに細心の注意を割いていた甲斐があるというものだ。
「まぁ直には彼氏がいますけどねっと」
ベッドに放り投げていたスマホを身体を伸ばして掴み、通知が来ていないかチェックをする。何件か来ていたけれど、全てグループ会話の物だったのでスルーを決め込んだ。
嫌われたくないけれど、傷つけたくはないけど、好かれたい。
こんな醜い感情を、ここに投下したらどうなるのだろうか。多かれ少なかれ、1人1人にそう言った悩みがあって、それを隠している。私のこれもその類で済まされると思っているけれど。世間的にはそうでないのだろう。
サラダを半分ほど食べ魚を片付け、グラスを2回ほど空にしていると、低い振動音と一緒にパッと携帯の液晶画面が明るくなった。
そこには田中直と表示されていて、思わず立ちあがる。
すると、ふらっと足元がおぼつかなくなり、すぐそこのベッドに倒れ込んでしまう。
そういえば頭がぐわんぐわんと揺れている気がする。丁度いいやとそのまま布団に潜り込み、応答ボタンをタップした。
「もしもし〜」
「……亜子? 何か聞こえにくいんだけど」
「あー布団の中だからかなぁ」
「布団? あ、ごめん寝るところだった?」
「んーん、倒れただけー」
ああ、直の声だ。
昔テレビに良く出ていたアイドルの声に少し似ている、と言ったら少し複雑そうな顔をしていたっけ。
とても聞きやすくて、彼女らしい芯の通ったハスキーな声。
「倒れた? ちょっと、何してるの?」
「40度近くのお酒を多々?」
「たた? ……ああ、結構飲んでるってこと?」
「そう! 流石直さん!」
「体壊すよ?」
「壊さないよう」
「酔っぱらいだ……まぁいいか、そっち行ってもいい?」
「へ?」
「色々話したいこともあるし、私もお酒飲みたいし」
ダメかな、と少し甘えた声で言われ断られたらどんなに楽だったか。
二つ返事で了承する。直の家からここまで20分程度で着くはずなので、急いで部屋を片付けることにした。
そうだ、来るならおつまみを新しく作っておくべきだろうか。机の上には私の食い散らかししかない上に、直の嫌いなきゅうりが入ったサラダがある。それだけ避けるだろうし、冷めたものでも気にせず食べてくれるとは思うけれど気持ちのいいものでもないし、念には念を入れたい。
冷蔵庫を開いて何かないか探す。先程のおつまみで中は悲しいほど空っぽで、辛うじてどうにか出来そうなのは卵ぐらいなものだった。
仕方ないとそれを手に取り、ボウルに割り入れる。直は飲み会でいつも卵焼きを頼んでいるしこれで喜んでくれないだろうか。
さっき作ったのは私が好きな砂糖が入ったものなのでこちらは甘くないものにしよう。出汁の作り置きなんてあるはずもないので、和風だしを直接入れる。さらに紅生姜と葱も加えることにした。こうすると一気におつまみらしくなるし、彩りも面白くなる、と思う。一度見ただけなのでそれらしくなるのか不安だった。なんとか見た目を整え、出来上がった卵焼きをお皿に乗せ、簡単にラップを被せておく。思っていたより部屋は綺麗だ。このまま待っていても問題はないだろう。
ぱぱっと最低限のお化粧だけまとい、ベッドに寄りかかるように座り、クッションを抱える。まだ時間はある。少しぼうっとしても大丈夫だろう。抱え直したそれは何年か前に直と行ったショッピングモールで買ったもので、色違いを彼女も持っていたはずだ。何度かお茶やお菓子をこぼしたから所々汚れてはいるけれど捨てられない。
聞いたことはないけれど直がまだ、赤色とは違う黄緑色を持っているとしたら。
数少ないお揃いだと、心が浮き上がるから。
きっかり20分後、玄関からチャイムの音が聞こえた。小走りで向かいドアを開けると直が立っていた。片手を上げて「やっほー」なんて挨拶してくる。それをハイタッチで迎え撃ち部屋に招き入れた。
すれ違った時、ふわりと直愛用のシャンプーの香りが漂い、やっぱり好きだなぁとしみじみ思った。
「あ、何かいい匂いする」
「卵焼き作ったの。食べる?」
「ほんと? じゃあお酒開けようっと」
コンビニの袋から取り出したのは期間限定の缶チューハイで、直が気に入っていると言っていたものだった。柑橘系をミックスしてあるものでミカンやレモンが好きな彼女らしいチョイスだった。
レンジで少し温めラップを外した卵焼きを持っていく。冷めた甘い方を食べていた彼女は、明らかに目を輝かせてそれを受け取った。
「えーなになに? 温かいやつ?」
「そ。紅生姜入りのやつ」
「美味しそう! 亜子ってやっぱり料理上手だよね」
「そんなことないよ、これだって混ぜて焼いただけだよ」
「そうじゃなくてさ。美味しく作れるのはもちろんだけど、料理を作ろうって思うこと自体が凄いよって話」
直は料理が苦手だった。高校の時の調理実習で1人だけ何も出来ず、クラスメイトから皿洗いばかり頼まれたと悲しそうに笑っていたことを知っている。直の家はお母さんがとても厳しく、料理なんて手伝わずに勉強をしなさいと言われていたのだそうだ。
私達が通っていた高校は進学校という訳でもないけれど、曰く「私は頭が悪いから」勉強しないとついていけなかったらしい。
そんなことはなかった。生徒会長だった私よりも数学や英語は直の方が上だった。得意不得意がはっきりしているだけなのに、彼女の母親はそれを許さない性格をしていた。
人生ままならないなぁと思いながら卵焼きを適当な大きさに分け、それぞれの皿に乗せる。断面には黄色とピンク、緑が踊っていて、我ながら美味しそうに出来たと思う。
来客用の箸を使って、直がそれを口に運ぶ。冷ましが足りなかったのか、少し口の中に空気を送っていた。
「……美味しい!」
「ほんと? ありがと」
「すっごく美味しい! 紅生姜合うんだねぇ」
私も食べてみることにする。
確かに、紅生姜の酸味が出汁の味と合わさり、あっさりとして食べやすい味だった。
「これ、初めて作ったんだよね」
この前友達に連れて行かれた居酒屋で出てきて印象に残っていたので試しに作ったのだけれど。
お酒にも合うし、お弁当のおかずにもなりそうな味だし、これからも作っていくことにしよう。
からん、と音を立てて氷とグラスがぶつかった。何杯目かは覚えていないけれど、追加を入れることにする。
ラム酒を適量注ぎ、そこに炭酸水を加える。あまりぐるぐるとかき混ぜずに、下の方からすくうようにマドラーを動かすのがコツなのだそうだ。
缶チューハイを飲みきった直が卵焼きを一口。まだ少し熱かったようで、水分を求めるような顔をした。
「直の分もちょーだい」
「はいはい」
たまに、自分の事を名前で呼ぶ時がある。家だとそうなのかもしれない。
これを知っているのは私だけ、だと思う。直がこうして隙だらけになりながらお酒を飲むのは私の前だけだから。飲み会ではしっかりと意識を持っているし、こんな風にだらしなく襟を開けたりしない。
いやしいなぁとグラスで口元を隠しながら笑った。たったそれだけの事で自分は彼女にとって特別な存在だと思ってしまうし、風通し良さそうな胸元に目がいってしまう。
信頼を仇で返しているようなものだと思い、自分の存在が小さくなるのを感じた。
2人で取り留めのない話をしつつ、私お手製のおつまみをあらかた片付け。
座っていても酔いを実感できるぐらいお酒を飲んでから、そういえば直には何か話したい事があったのだと思いだした。本人にそれを訊いてみると彼女は恥ずかしそうに頭をかきながら、言った。
「実は、何もないの」
「え?」
「ただ、ちょっとお酒飲んで話したかっただけ。ごめんね」
こんな時間に迷惑だったでしょ、と目を伏せながら言う彼女はとても可愛らしくて。
それを少し可愛いと思ってやっているのも、わかってしまって。
「私がそんなことで怒ると思う?」
それでも私は、惚れた弱みで突き放すことが出来ない。これが直ではなく、大学の友達であったならやんわりトゲを刺すだろう。けれど上目遣いに私を見つめてくる直はとても魅力的だし、この顔を独占しているという優越感とアルコールが私を更に柔らかくしていく。
「ううん、思わない」
そう言いながら直が抱きついてくる。
心臓が踊り、血液が暴れ、身体が破けてしまいそうだと思った。
「やっぱり、亜子が一番安心する」
「……彼氏じゃなくて?」
「うーん、なんだろ。あっちは一緒に居て楽しいとは思うけど、安心とは違うっていうか」
よくわかんない、と私の肩に頭を乗せてくる。隣に座ってきた事で必然的に体が密着する。
付き合いが長いからか、飲み会になると私達はこうしたスキンシップが多めだった。直がそういった行為が好きだというのもあるとは思うし酔いが入っているからだろうけれど、私としてはどうしていいかわからなくなるので控えめにして欲しい。私だけにしている訳でもないだろうし。
「でも、彼氏のこと好きなんでしょ?」
「うーん……」
「ちゃんと大切にしてあげなよ。高校の時みたいにならないようにね」
「あれは、あっちが悪いから、知らない」
「だからって自然消滅はないでしょ」
じわじわと。思ってもいないことを、世間一般の常識に当てはめて口に出していく。
意識的に、緩やかに、行われるそれは自殺と同じで私の心の大事な部品を端から削り落とし、ゴミにしていく。
それを積み上げていったら、きっと今住んでいるこのマンションと同じぐらいの高さになるだろう。
それをぼうっと眺めながら、私はこれをどうしたかったのだろうと、考える時がある。
必要だと言って捨てたくなかったのか。
要らないと言って捨ててしまいたかったのか。
どちらにもそうだと、そうではないと言える気がして。
「……ふわふわしてるなぁ」
「ん? 何が?」
「いや、このクッション。……覚えてる?」
「覚えてるよ。緑のやつ部屋にあるもん」
些細なことで一喜一憂して。
逃げるようにまたお酒をあおった。
炭酸が気道に流れ込み、むせる。
直に背中をさすってもらうが人体の反射的に涙が出てしまう。
そういったことにして欲しいと思いつつ、流れるものが枯れるまで下を向いていることにした。
直が彼氏と別れたと言ってきたのはやっと暑さが落ち着いてきた秋の初めの頃だった。
そろそろ長袖に薄手の羽織るものを合わせようかと考えて、タンスをひっくり返していた時にそんなメッセージがグループメッセージに投下され、思わず笑ってしまった。
直が誰かと付き合い、別れたのはこれで4度目だった。
中学生、高校生、大学で2回。
いずれも長続きしないで終わっていくものばかりだ。きちんと恋愛感情を持って付き合い始めているはずなのに、どうしたって半年程度で別れてしまうのだった。
理由は決まって「友達の方が良いかなって」と言うのでそれで納得している。
そろそろだろうと思っていたので大して驚きはしなかったけれど、心が少し弾んでしまう。
洋服をタンスにしまい直していると、いつの間にか直を慰めるための会が開かれることになっていて、日時は今日の19時だと言う。
携帯に表示されている時刻は午後を少し回った程度の時間で、急だけれど大丈夫だろうと参加のメッセージを送る。
結局参加する人数はグループ内の8割にもなり、人数としては2桁に登っている。彼女の人柄の良さと大学生のノリの軽さに感心した。かなりの人数になってしまったので幹事を立て、ある程度騒いでも問題にならなそうな場所を予約し、そこで開催されることとなった。
この人数ならば、直の話はすぐに終わりあとはそれぞれ好き勝手に話し、飲み始めるんだろうと想像がついた。
大学生なんてこじつけでも良いからただ飲む機会を伺っている物だし。
着ていく服を選び終え、一度軽くシャワーを浴びることにする。埃っぽくなってしまったし何より気持ちのリセットが必要だった。
喜んではいけない。私は彼女の親友として慰めたり悲しんだりしなくてはならない。
彼氏を、いや元恋人の写真を見せてもらったことがある。清潔感のある、そこそこ顔の整った人だった。映画もそうだけれど他の趣味も大体話があって一緒に居て楽しい人だと言っていた。
熱いシャワーを浴びながら大きく息をついた。
それは。
私ではダメなのだろうかと。無駄なことを考える。
これはもはや癖だった。何気ない日常を過ごしている、ふとした瞬間にこういった事を考える。
趣味の映画だって泊まりにくるたびに一緒に見ているし。
この前の突発お泊り会だって見間違いでなければ楽しそうにしていたし。
私、かなりの優良物件だと思うのだけれど。
同性でなければ、と口には出さず付け足す。その現実は水流に飲まれ、深い深い地下へと滑り込んでいく。もう手を伸ばしても届かないだろう場所に落ちていくのが自分らしくてなんだか笑ってしまう。
これから飲み会だと言うのに、テンションまで排水口に飲まれてしまったかのように落ち込んでいてどうしたものかと首を傾げる。擬態は得意だから友達にはバレる事はないだろうけれど、直にはおそらく見抜かれてしまうだろう。
そうすると彼女は申し訳ないなと思ってしまうのだ。そんな気分ではないのに自分の都合で呼び出して、人の波に放り込んでしまったことを。
普段ならあちらもそれなりの対応をしてくれる。けれど今回は傷心中だし、期待するのも酷と言うものだろう。ならば私が取る行動は一つ。無理矢理にでもテンションをそこそこ上げていくことだ。
ざざっとタオルで体を拭き、スキンケアを面倒だと思いつつこなし、部屋着に着替えて時計を見る。まだ出掛けるには3時間ほどの猶予があった。
まずパソコンで好きなアーティストのライブ映像を再生する。数年前のものだけれどセットリストが私の好みど真ん中でとてもお気に入りだった。流れてくる曲を一緒に口ずさみつつ、本棚から漫画を数冊抜き取る。高校時代の友人から勧められたスポーツ漫画で、何度読み返してもドキドキワクワクと楽しめる名作だ。
パラパラと捲りながら体をゆっくりと左右に揺らす。液晶画面では色とりどりのペンライトが私と同じ軌道を描いていた。
こうした光景を光の海と表現するのを、小説などでよく見かけるけれど確かにそう見える。現実とかけ離れたそれは、余計な思考やありふれた空気から抜け出すのにぴったりだった。
結局、ライバル校との最後の試合が終わる巻まで読みふけってしまい、改めて携帯に目をやると集合時間の1時間前になってしまっていた。
ゆるふわ擬態にはとても時間がかかる。
コンタクトを付け、お化粧を施し、髪を巻き、香水をまとう。
仕方ないと割り切り、メッセージで遅刻する旨を伝える。どうせ私以外にも遅れてくる人やそもそも欠席者が出るだろうとは思うけれどやはり良い気分ではなかった。
悪あがきだとわかっているけれど急いで身支度をすることにした。
特撮ヒーローのように一瞬で別人になれれば楽なのになぁと、漫画を片付けながら妄想する。
「……変身」
なんて、言ってみたりもして。
一瞬待ってみても私が着ているのはジャージだし、眼鏡をかけたままだし、心の奥底では友達付き合いの面倒さにウンザリしている自分だった。
期待などするものではないと冷静な自分が言う。
それにうんざりしながら相槌を打ち洗面所へと向かった。
それから数時間して。
居酒屋特有の油と煙と汗の匂いが混ざりあった空気からどうにか逃げてきた私の手には、特大の荷物が抱えられていた。
「ほら直、家ついたよ?」
「ただいまぁ」
「おかえり。あと、いらっしゃい」
飲み会の後、珍しく出来上がった直を私の部屋まで運び入れる。
事前予想が外れ、独り身に戻った彼女をみんなで構い倒すことになったのだった。
あんな男なんて忘れて飲め、これを食え、こっちに来て愚痴を吐け。
3時間コースで予約していたらしい居酒屋では結局2人きりで話すことがなかったので、直から泊まりに行っていいかとお願いされた時は、少し声が上ずってしまった。
「ごめんねぇ、また酔っ払いが泊まりに来ちゃって」
「まぁ良いんじゃない? 今日は特別に甘やかしてあげるから」
作っておいた梅シロップを炭酸水で割り氷を入れる。実家から送られてきた梅で作ったもので、直はこれがお気に入りだった。もちろん梅酒も作ってあるけれど居酒屋で2桁近くカクテルを飲まされていた彼女にそれを出すのはあまりにも危険だ。
直にコップを差し出すと喉が乾いていたのかゴクゴクと飲みだした。不健康だと思うほど真っ白な喉が動いているのを見て、そこに噛み付いてみたいと思うあたり私も許容範囲を超えた酔いを抱えているらしかった。
直を守るために何杯か横からさらっていたから当然といえば当然なのだけれど。
「あれ?」
「どうしたの?」
「これお酒じゃないんだ」
「まだ飲む気? やめときなよ。明日も出掛けるんでしょ?」
帰り際に誰かと約束していたのを思い出す。名前と顔がぴたりと当てはまらない事を考えるとおそらく直の学科関係だろうと当たりをつける。流石にバイト先の人が来ているとは考えにくいし。
「んー」
うめきながらグラスを私に差し出してくる。どうしても梅酒が飲みたいらしい。少しだけなら構わないかとそれを受け取ってしまうのは、甘やかしの範囲に収まっているのかどうかと悩んでしまう。
人差し指ほどの梅酒を注ぎ、大きめの氷と多めの炭酸水でそれを薄める。あの状態ならジュースでも気が付かず飲みそうだけれど、直を見ていると私も飲みたくなってしまったのでついでと言うものだと、誰に対してかわからない言い訳をする。
つまむ物でも作ろうかと思って冷蔵庫を開けるけれど、面倒だと思いポテトチップスを持っていくことにした。ここで何か作って持っていっても味なんてよくわからないだろうし流石にやりすぎだろう。
「じゃあ乾杯しよ」
「何に対しての乾杯?」
「んー、私の自由の身記念?」
「なにそれ」
2人で笑いながらグラスを軽くぶつける。ガラスよりも氷が立てた音の方が大きく、濁った響きが部屋に微かに広がった。
最初こそ今日の飲み会の話をしていたけれど、今はお皿に広げたお菓子をつまみながら深夜番組を2人で見ている。テーブルを挟んで対角線に座っていて、距離がそこまであるわけでもないのに何故か揃って無言で、お笑い芸人がやっている些細な実験を眺めていた。 そこには笑いも何もなく、どこか緊張感が漂っていた。
私のグラスが先に空になり、それを自覚した瞬間、喉がとてつもなく乾いた気がした。
今日の直もどこか変だった。
思えば前回のお泊りも違和感があった。彼女は、用も事情もなく人の家に転がり込んでくるようなことはしない。今日だって自分の家に帰るとはちらりとも言わず私の家に来た。
そこを問いただしても良いのだろうか。
それは、長い長い付き合いの中で一度もないことだ。
私が原因なのだけれど、私達はお互いの心を深くまで話し合ったことがない。
うっかりそんなことを話し合ってみてこの気持ちを晒してしまう訳にもいかなかった、自分が可愛い自己防衛の結果とも言える。
でも、今回はそんな事を言っている場合なのか。
怖い。
けれど。
意を決して口を開こうとした、その瞬間だった。
つけっぱなしにしていたテレビから激しい音楽が流れた。誘われるように目をそちらに向けると、そこには映画の宣伝が流れていて。
「……これ、彼氏と見に行く予定だったんだ」
直の声が聞こえた。
私はそちらを向くことが出来なかった。
怖くて、恐ろしくて、勇気のない自分には到底できっこなかった。
「これも、来月やるアクションもホラーも。再来月のミュージカルなんてもう席まで取ってあるんだよ」
「……そう」
「楽しみなんだ。全部」
「映画、好きだもんね。劇とかも」
「うん」
ぎし、と床が音を立ててきしんだ。
見なくても気配で直が真横に座ったのを感じた。
柑橘系の香りと共に彼女の頭が私の肩に乗せられた。
「私さぁ、恋愛って向いてないんだなって思った」
「好きだと思った人とキスしか出来なかったしその先は当然無理」
「別れても大して悲しくないし、むしろ楽になったなって思っちゃった」
「1人の方が向いてるんだよ、私。思ってるより好きじゃなかったんだなって感じたし」
「別れて、改札出て、コンビニでカフェオレ買ってる時にやっと少し寂しいなって隣見たけど」
蛇口をひねったかのように流れ出る言葉は紛れもなく彼女の物だと思った。
剥き出しの心が私に突き刺さってくる。生きている感情はここまで痛みを与えてくるのかと、酷く混乱した。
直は今、とても無防備だ。まるで生まれたての赤ちゃんのようだった。
軽く突かれただけで破裂してしまうだろうと、簡単に想像出来た。
そして同時に理解してしまった。その役目は私なんだと。
理性が働けばそれをすべきではないと踏みとどまれただろう。けれど微かに伝わってくる彼女の速い鼓動とアルコールと居酒屋で浴びたタバコと油の匂い家の匂い皮膚に覆われた血の香りその他諸々。
言い訳の理由は考えただけ零れ出てきた。
「……そっか。辛かったね。今までよく、我慢してたね」
ごめんなさい、と。
心の中で誰に対してかわからない、謝罪を述べた。
「……うん」
「直は優しいから、傷つけないようにって思ってたんだね」
「そう、かな」
「そうだよ。付き合ってきた人達全員にそう思ってたんだと思うよ」
本当は誰に謝ったなんて分かりきっていた。
直と、彼女の家族と今までの恋人今からの恋人その他全て大勢。
直を構成する全ての人に謝って回ろうと思った。
「ありがと」
「うん?」
「こうやって愚痴吐けて助かるよーって」
そんなことを言われてしまい、どれだけ外の私は良い奴なんだと呆れてしまった。
ただ、彼女を傷付けたくなくて。
擦れて色あせてしまわないように、しまっておきたいだけだと言うのに。
小さく声を上げながらぐるりと正面に回ってきて、直が私のことを抱きしめた。
よく漫画や小説なんかでは柔らかなものが当たるなんて表現をするけれど、実際は服の金具やら骨が先にぶつかって少し痛かった。あっちはそうでもないかもしれない。直はよく私の胸と身長を分けて欲しがっていたから。
「でもさぁ、亜子もそういう事言っても良いんだよ?」
「……私?」
「そ。全然言わないでしょ、愚痴とか弱音とか。結構心配してるんだよ私」
恐る恐る背中に回した手を、自分自身と繋ぎ合わせる。じっとりと汗をかいて湿っていた。
私、今、臭ったりしてないかな。
家に帰ってきて消臭剤を撒いたり着替えたりはしたけれど、やはり気になってしまう。直はいつもと変わらない安心する匂いだけれど。
「誰かと付き合ったりしないの?」
手を捕まえていて良かったと思った。
この手が直に触れていたら、代わりに血をにじませてしまうことになったから。
爪を切ろうと決意をする。少し力がこもったぐらいで怪我をしてしまうのは少し手入れを怠りすぎたのかもしれない。
ふと、思考が別の方向に飛んでいっている感覚を覚えた。想い人と抱き合っているのに自分自身の爪のことを考えたり、さっき洗ったコップを眺めたり、壁にかかっている時計の秒針がとても気になってしまったりする。
「今は、誰とも付き合う気がしないんだよ」
それなのに口は普段より滑らかに動いていて、ひょっとしたらこれは良くないことなのではと、今更危機感を抱いた。
「えー? そう言って、誰か好きな人とか居ないの?」
「んー……」
「あ! でもその人に告白とかする前に絶対私に言ってよね!」
「なんで?」
「だって、亜子の事任せられるかどうか、確かめたいじゃん」
「任せるって、子供じゃないんだから」
私だっていい大人だよ、と付け足す。
みんなと同じように、本心とは全く別のことを言ったり、顔にも出さないよう練習したり。
そう、好きな人に嘘を日常的につけるぐらい。
「あーでも、亜子と付き合える人は幸せだなぁ」
直の手が私の頭に乗る。
ぽんぽんと弾むそれはとても優しいのに、私に当たるたびに体がひび割れていくようだった。
なんで、こうも。
いつもいつも私を試すようなことばかり言うのだろう。
「……どうして?」
「料理は上手だし、顔は可愛いしスタイルいいし勉強も出来るし……完璧じゃない?」
「私、そんなんじゃないよ」
自覚できるほど声が低くなってしまった。
それは聞けば怒っているということが一瞬で分かって。
普段の直なら、いや、誰でも察して話題を変えてくれるようなものだった。
けれど、私達は今、アルコールに漬けられていて。
ブレーキは錆びて使い物にならないし、運転手は冷静ではないし。
「私が男だったら、絶対亜子と付き合ってたよ」
歯止めというものは、どこかに置いていかれている。
「……じゃあ私にしておけばいいのに」
「え?」
するりと溢れた言葉はもう戻らない。
慌てふためく事もなく、どこか他人事のように冷静に判断した私の口は、止まることはない。
「直のこと誰よりもよく知ってるし、楽しませてあげられるし」
「……亜子?」
「うん、そうだよ。私なら直を悲しませることもないし、絶対幸せにしてあげられるよ」
「だって、私は直が好きだもん。ずっと前から。ううん、出会った時から」
「直に優しくしたり私が色々頑張ったりするのはこのためだし」
「ずっと嘘ついててごめんね。でもこうするしかなかったの」
「……気持ち悪いって言わないで。どっか行ったりしないで」
「私のこと、嫌いにならないで」
しん、と。
部屋が静寂に満たされている。爆発しそうな鼓動が私の体ごと上下に揺さぶってきて気分が悪くなってきた。ガンガンと頭の中で何かが鳴っていて内側から割れそうだし、目の周りに血液が集まって焦点が合わなくなってくる。
言ってしまった。
言って、しまった。
実感と共に汗が湧き出してくる。ぬるま湯にでも浸かっているかのように動きが鈍くなってしまう。
数えてみれば十数年の年月を一緒に過ごしてきた感情を。
直に。
好きだと。
女の私が、女の直に。
「えっと、さ」
体が驚きで跳ね上がる。
私は声を出していないのだから、必然的にこの声は直になるのだけれど、その判断が上手くつかない。
自分の体から彼女を引き剥がし、右へ左へ暴れる目を無理やり真正面に向かせて、彼女を視界に収める。
手を繋ぐ。少しでも安心したかった。
戸惑っているようだった、と。
とても客観的に判断出来たのは私が現状を信じきれていていないからだろう。これもそういった類だ。
口は災いの元だと、昔の人はよく言ったものだと感心してしまう。
「それは、本気?」
「……はい」
考えるのを止める。
息を大きく吸い、止め、吐き出して。
「好き、です」
私の口から出たと、自分自身で信じられないぐらい弱々しい声だった。
許されたいと。
どうにか無かったことに出来ないかと。
藁にもすがるような声だと思った。
「そっか。好きなんだ、私のこと」
「……はい」
「それは友達として、とかじゃない、よね?」
「……はい」
「じゃあ、私と付き合って、キスして、セックスしたいってこと?」
「……そうです」
そっか、と直が静かに呟いた。
お隣さんがドアを少し乱暴に閉めたり、家の外を走るバイクの音や、そういえば付けたままだったテレビの音が耳に届き始める。
体の部品は正常に機能し始めているけれど、肝心な頭はと言うと。
これからどうなるんだろう。
それだけのことをずっと考えていた。
最悪と最高と、それぞれ1つずつ下の結果を考えた。
どうしても、最高以外は目を覆いたくなるような流れになってしまう。それだけは避けたかった。
「……亜子のことは大事だし、好きだよ。家族よりも」
そう直が切り出したのは私が告白した7分後だった。
それまではずっと私と手を繋いでいて、一度も握り直したり離したりしなかった。
一生懸命何かを考えながら言葉を絞り出しているのがわかって、とても申し訳ない気持ちになる。
「ほら、うちって結構変な家じゃん? それを慰めてくれたり支えてくれたりしたの本当に嬉しかった」
「……うん」
「だから本当に亜子のことは大切に思ってるの。親友だと思ってるし何より大事な人だって思う」
ああ、これは。
この後に紡がれる言葉がわかってしまって、なんだか笑いそうになる。
これはこういう気分なのか、と。
本で読んでもいまいち分からなかったけれど、やっと理解することが出来た。
「でも、そういう風には見てなかった。見ようと思ったこともなかった」
「……だよね」
「好きだって言ってくれるのは嬉しいけど、ほら、さっきも言ったけど。私にはそういう気持ちがよくわからないんだ」
「うん。知ってる」
「だから、亜子とは付き合えない」
「うん。分かってる」
「ごめんね」
「うん。大丈夫」
話し終えた後、どちらともなく手を離した。
寝ようという話になり、ぎこちない会話をしている間も手の温もりはなかなか消えてくれなくて。
これは私の心情そのものだと思った。
いつものように、床に客用というかほぼ彼女専用布団を敷き、私はベッドに入り電気を消した。
寝付けないかと思ったけれど、お酒のことや話疲れていたこともあってか、思っていたよりもすぐに眠気が来た。
うとうと、夢と現実を行ったり来たりしていると直から話しかけられた。
前にもこんなことがあったなぁと、少し思い出そうとする。
「あの、さ。あんなこと言ったけど、私と亜子はずっと友達だからね」
「うん」
「これっきりとかじゃないからね。そこは絶対だからね」
「……うん」
ああ、思い出した。
中学校の時の修学旅行だ。
直が横の布団に居て、深夜まで話をしていたっけ。
あの時はドキドキして眠れなかったけれど。
今はもう眠気に負けそうだった。
目をつぶればすぐにでも寝られそうだったけれど、なんとなく起きていたい気持ちになった。
結局。直が眠ったことを確認するまで私も起きており、彼女が先に寝た安心感を抱えて、自分も寝た。
昼前になって2人揃って起床し、軽くシャワーを浴びて何ともつかない食事を摂った。
トーストにサラダ、スープという簡単な物だけれど彼女は嬉しそうに食べてくれた。そう見えただけとは思いたくなかった。
それでも、私も直もどこか違和感と遠慮の空気を漂わせていて、ぎこちない上辺だけの会話だったのは仕方ないと思う。
やっとのことで食べ終え、午後から用事があるというので、直は自分の家に帰ると言った。
「じゃあね」
玄関で靴を履きながら彼女がそう言った。
それがあまりにも自然で、私もつい「うん、じゃあね」なんて相槌を打ってしまいそうになる。
また間違いを犯すところだった。
危なかったと胸を撫で下ろし当初の予定通りの言葉を口から吐き出した。
「……もう来なくていいよ」
私がそう笑うと、直は複雑そうな顔をしてパーカーのポケットに手を突っ込んだ。
「来るよ」
「来ちゃうんだ」
「来るからね」
「わかったって」
お互い理解しているだろう。この部屋に2人で集まることが無いことを。
直は遠慮して、困って、足が遠くなるだろう。私は怖くて、愛おしくて。呼ぶことはもう二度とないだろう。
「またね」
「うん、じゃあね」
だから、この言葉を彼女に伝えた。
またはもうない。
直とはこれきりだ。
玄関に鍵をかけて、その場に座り込む。
彼女は何も悪くない。
悪いのは、全て私なのだ。
どうか。どうか。
彼女が負い目を感じず、今日を、こんなこともあったなぁと忘れてしまってくれと。
よく我慢したねと自分自身を褒めながら、涙を流しながら願った。
漏れ出す声は言葉にはならず、うめき声として先程まで直が居た場所を埋め尽くしていく。
出来るのならばいっそ、私を彼女の人生から消してしまえればいいのに。
出来るのならばいっそ、直が私のことを心底嫌ってくれればいいのに。
叶うはずもない願いばかりが湧き出してくる。
全て忘れてしまおうとお酒に頼ることにした。1日泣いて目を腫らした末の結論だった。そもそも、お酒のせいで口が緩んで告白したり別れを告げたりしたはずなのに、こんな案しか出てこないなんて我ながら馬鹿だと思った。
家にあった全てを飲み干したあと、スーパーに行き度数の高いものからカゴに入れた。飲んだことも選んだこともない日本酒や焼酎、ワインとウイスキーの重みで手が千切れそうになる。いっそのことそうなってしまえばいいのにとも思った。そうすれば彼女が心配してくれるかもしれないと。
こんなことになってまでそんなことを考える自分に腹が立った。もう直とは関わることもないし、今やっているこの奇行も彼女への想いを忘れるためにやっているのだ。
まあ、年月がそれなりにあるから全てを無かったことにするまでかなりの時間を要するのはわかっている。焦らずじっくりとやっていこう。そう自分をなだめつつコップに注いだ70度の水を飲み干した。熱さよりも痛みのほうが上回っているように感じた。
喉とお腹が焼けている感覚がする。今、私に火を近づけたら燃えてしまうなと変なことを考えた。
波々と注いだ色とりどりのお酒が無くなるたびに、直との思い出が蘇ってきた。
小学校の頃、図工の時間に彫刻刀で指先を切って大騒ぎしたこととか。
告白されてどうするかわからないと相談しに来たあの夕日や。
大学受験のために滅多に行かない図書館に籠もり、手紙を回しあった静寂も。
忘れよう。忘れてしまおう。この記憶を洗い流してしまえと、日本酒を瓶から直接飲み始めた。
ひらすら飲んだ。とにかく飲んだ。ペースや味などを一切気にしない風情とはかけ離れた飲み方だった。
飲んで飲んで飲んで飲んで飲んで吐いて飲んで飲んで吐いて吐いて泣いて。
何本目かわからない空の酒瓶をテーブルの上に並べていく。やけに眩しい陽の光がそれらに反射して部屋中を飾り付けていた。
お菓子の袋やお惣菜のパックも、こうして見ると一種の芸術に見えなくもないと感心する。
のろのろと立ち上がりペットボトルの水に口を付け、喉を鳴らしながら飲み下していく。お酒を飲んでいても喉が乾いてしまうのが面倒だと思った。
部屋の隅で携帯電話が鳴っていた。音楽から着信だということはわかったけれど、出るのも、話を聞くのも何もかもが嫌だった。
そういえば今日はいつだろう。大学にも結構な日数通っていない気がする。
何回か朝と夜を迎えた気がするけれど数えていないのでわからない。それだけでも確認するかとゴミの海をかき分けながら携帯を手にとって。そこでふと、動きを止めた。
待受画面、直とのツーショットじゃなかったっけ。
今一番見たくない物を表示させてまで確認したいものでもないよな、と手の中のそれをベッドへと放り投げた。がつんと言う音が聞こえたのでおそらく壁にぶつかったのだろう。壊れてしまったかもしれないがそれは逆に好都合だ。
クッションに顔から倒れ込み、頬ずりをする。なんだか肌寒くなってきたので近くのタオルケットで自分を巻いた。
ふわりと微かに柑橘系の香りがして、条件反射的に涙が溢れた。
この家には直の痕跡がありすぎる。
全て捨ててしまいたかった。何もない部屋の隅っこに座って、いじけながら日々を過ごしたいと思った。
こうなったら乾杯だ、と空のグラスをテーブルから探し出し白ワインを波々と注いだ。
零れんばかりの液体が私の顔を歪めていく。
これを飲みきったら部屋の片付けをしよう。ゴミを捨ててシャワーを浴びて。
擬態用の服や化粧品を売っぱらって、もっと支度が簡単な物を集めよう。
さようなら、今までの私。
そしてこんにちは、今からの私。
新たな自分の誕生を祝おうと、一気にグラスを傾けた。
ごく。
ごく、ごくごく。
飲み切り、グラスをテーブルの上に置き。
さて掃除しようと立ち上がり。
そして。
「……あれ?」
目を覚ますと、やけに真っ白な天井がそこにはあった。
私の家の天井はこんな色ではなかったような。ここはどこだろう。
のろのろと起き上がろうとすると、自分の体に力が入らないことに気がついた。それと同時に私が居る場所がわかった。病院だ。
消毒液の匂いがするベッドに寝かされていて、遠くから子供が遊んでいる声が聞こえてくる。どうやら入院しているようだった。私の考えていたものとはところどころ違っていて、まず自分の腕に点滴が刺さっていなかった。それと何故か個室に通されているらしく周囲を遮るカーテンもついていなかった。
それほど重症な、何か病気になってしまったのだろうか。
思い当たる節がなく首を傾げる。どうやら外傷も無さそうなので、何か倒れるようなものを患ったと思うのだけれど。
でも、まあ、いいか。
例え死んだとしても直と会えたり話が出来たりするわけではないのだから。
ベッドに再び倒れ込み目を閉じる。開かれた窓から微かに風が入ってきて心地いい。
それに身を任せ、うとうと船を漕ぎ始めていると部屋のドアが開いた。看護師さんが様子を見に来たらしく、起きている私を見て笑顔でまた駆け出していった。おそらくお医者さんを呼んでくるのだろう。
数分後、帰ってきた看護師さんが連れていたのは白髪がとても綺麗な白衣のおじいさんだった。彼は私を軽く診断すると、少し怒った顔と声で話し始めた。
「……急性アルコール中毒?」
「そうです。何があったかは知りませんが、一歩間違えたら死んでいたんですよ」
あの日に救急車で運び込まれ、今の今まで眠っていたという。
曰く、軽い栄養失調でもあったようだった。
お酒とおつまみだけでは十分な栄養が摂れておらず云々。
説明が長すぎてよく覚えていないけれど、どちらも軽度で済んだようだ。
話の流れから、振られたあの日から一週間が経っていることがわかった。5日間ほど飲み明かしていたらしい。
お説教が済み、肝心な入院期間を訪ねた。一週間ほどで退院できるらしい。
意外と短い日数に安堵しつつ、ふと気になったことを看護師さんに訪ねてみた。
「そういえば、誰が救急車を呼んでくれたんですか?」
「えーっとね、確か田中さんって方だったと思いますよ。女の子の」
その言葉が言い切るかどうかの、絶妙なタイミングだった。
病室のドアが開き、そこから彼女が現れたのは。
一番見たかったような、一番見たくなかったような顔の登場に、全身と思考が固まってしまう。
直は、起き上がって話をしている私を見て目を細め、看護師さんと何か話をし始めてしまった。
どうして。
なんで、直がここに居るのだろう。いやそんなことより救急車を呼んでくれたのが直というのはどういうことなのだろう。
記憶があやふやだけれど、私は携帯電話を壁に投げつけてから一度も触ってないはずなのだ。
倒れたことを確認する術なんてないはずなのに。
「亜子」
「はいっ」
いつの間にか話し終えた直が、ベッド横の小さなパイプ椅子に座ってこちらを見ていた。
その顔からは感情が読み取れなかった。怒っているのか呆れているのかそれとも全く別のものかもしれない。
何を言われても良いように心の中で覚悟を決めた。シーツをぎゅっと掴み、受け入れ体制を万全にする。
直が口を開き、息を吸い。
「よかった」
「へ?」
「ほんとに、よかっ……」
そしてボロボロと泣き出した。
いつの間にか繋がれた手には痛いぐらいの力が込められていた。
「え? え? なんで泣くの?」
「し、んだかとおもっ……」
「そ、そんなに? やだなぁ、ちょっと倒れただけだよ?」
「大学にも来てないし、もう会えないんじゃないかって」
私のせいなんじゃないかって、と。消え入りそうな声で直が呟いた。
心臓が喉元までせり上がったかのような錯覚がした。
私はなんてことをしてしまったのだろう。
告白もそうだけれど、こんな迷惑をかけてしまって心配までさせて。
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「ごめんね。迷惑かけちゃった」
「ううん、それは別にいいの」
「……うん?」
「私ね、すっごく怒ってるの。なんでかわかるよね?」
「えっと、迷惑かけたし心配させたから?」
「違う」
「えぇ? じゃあなんだろう……」
「死のうとしたでしょ?」
なんだか最近、血の気が引くことが多くて慣れ始めてしまっている自分が居た。
頭がふらつくような気がするけれどこれは倒れたせいなのか、直の目が初めて見るほどに怒っているからなのかも分からなかった。
「……分かっちゃう?」
「そりゃね。何年の付き合いだと思ってるの」
「もうそろそろ20年かな」
軽口を叩くけれど、直はまだ怒っているらしく手の甲をつねられる。思っていたよりも鋭い痛みで声が出てしまった。
思わず手に視線を向ける。私の爪は相変わらず伸びすぎて凶器になっていたし、直のはガタガタで不揃いだった。彼女に爪を噛む癖などなかったはずなのだけれど。
「というか、部屋があんなに悲惨だったらそう思うよ」
「え、部屋見たの? 入れたの? 鍵は?」
「鍵しまってなかったよ」
「嘘だぁ……」
どうやらスーパーへ買い出しに行った際、不用心にも鍵をかけ忘れたらしい。
それで納得した。直が救急車を呼べたことも、死んだかと勘違いしたことも。
「心配になって家に行ってみたら鍵はかかってないし、部屋は酷い匂いだし足の踏み場もないぐらい散らかってるし」
「ご、ごめんなさい……」
「お酒の瓶と缶でテーブルとキッチンは埋まってるしベッドで身動きしてない亜子が倒れてるし」
「本当に……」
こんなことになるなんて思ってもなかった、と言い訳を付け足した。ただのやけ酒のつもりだったのは確かだし、死んでしまおうと思ったのは最後の方に撤回したはずだった。
「いっつもそう! 私は大丈夫だからって何も相談もしないで!」
「だって、直にそんなこと心配させたくなかったし」
「……そういうのがムカつくって言ってるの!」
言って欲しかったと、直が叫んだ。
そういえば私は直に対してそういったことを話したりはしない。弱音を見せたくないというのもあったけれど、格好いい自分を演出したかったのが一番の理由だ。
少しでもなんでも、彼女が私のことを好きになるきっかけになればと、完璧を演じてきたのだから。
けれど今回の入院で全てが台無しになってしまったなと辛い気持ちになった。
結局私は振られた反動で倒れるまでお酒を飲み、彼女に心配をかけ救急車を呼ばれる程度の人間なのだ。
「亜子」
「……なに?」
「私、亜子がなんでも出来るわけじゃないって知ってるよ」
「……ほんと?」
「うん。毎日遅くまで勉強してたことも、本当は生徒会長なんてやりたくなかったのも知ってる」
「もしかしてバレバレだった?」
「うん」
思わず目を覆う。
まあ全てを隠し通せているとは思っていなかったけれど。
格好つけていたことまで知られているとなると恥ずかしくて、別の意味で死にたくなる。
「でもそういう亜子が好きだったんだよ」
友達としてね、と直が言う。きちんと伝えてくれるのが彼女らしくて悲しいけれど面白かった。
「頑張りやさんで、そういうのも見せない生き方がかっこいいなと思ってた」
「嬉しい。ありがとう」
「でも頼ってほしかった」
私達友達でしょう。
その言葉は残酷だった。
「……私は直と、友達以上になりたかったからね」
「……かった? 過去系?」
「ううん。本当は今もそうなりたい。入院したって、死にかけたって、そんなことで直を諦められないの」
ずっと繋がれていた手に、もう一つの手をそっと乗せる。
あの日を思い出す。直のしっとりとした手は安心を与えてくれる。
あの時は解かれてしまったけれど今回はそうでないと思いたい。
「ねぇ直。私ね、直のためだけに生きていたいなって思うぐらい、あなたのことが好きなの」
「この気持ちはわからないと思う。理解して欲しいと思うけれど難しいよね」
「でも、絶対そこらへんの人達よりも幸せにしてみせるよ。料理だってするし、仕事だってするよ」
「だから、せめてね。恋人になって欲しいとは言わないから」
「直の、一番の特別をちょうだい?」
ゆっくりと。
自分の心をさらけ出していく。
今まで貼り続けていた見栄をペリペリと端っこから剥がしていくようなこの行為は、とても緊張する。
けれど、この前とは全く違っていて私の心は穏やかだった。それは一度振られているからなのか、きちんと心の奥から言葉を出せているからなのかは分からなかった。
直接訪ねたりはしないけれど、直にもきちんと伝わっていると信じられた。
「……うん。ありがと」
直は私の言葉を時間をかけて飲み込んだようだった。目の端にはまだ涙が浮かんでいたけれど、そのもの自体はもう止まっていた。
「別に、同性愛も否定してるわけじゃないしね。この前のはびっくりしただけだから」
「そうだよね、ごめんね」
「うん。だからちゃんと、そういうの、考えてみるよ」
そう言って直は帰っていった。これからアルバイトなのだと言う。
忙しいだろうに、私のためにわざわざ時間を割いてくれたことに嬉しさが登ってきてしまう。
今更、顔が真っ赤に染まるのを自覚した。時間差で来ると何倍も恥ずかしい。
これから直とどうなるのかは分からない。想像していたように、今までの関係を無かったかのように無視されるかもしれないし、いつも通り過ごせるのかもしれない。
怖い。怖いけれど今日話せたことに安心しきっている自分も居た。
きっと大丈夫だ。
そう思いながらベッドに倒れ込んだ。シーツに包まれると急に眠気が襲ってくる。
私はそれに逆らうことも出来ず、この幸せな気持ちを抱いたまま、眠りについた。
彼女の好きな映画のDVDが発売されたので「たまたま」手に入れたそれを差し出して家に誘ってみた。
彼女と話すのは病院のベッド以来だった。緊張で足が砕けそうだ。
もし了承されても、いつも以上に綺麗に掃除もしたし、お気に入りのお菓子やお酒も準備してある。
駄目だと言われてもそれらを消化しつつ泣くだけなので問題ない。
すると、彼女はとても嬉しそうな顔をして、口を開けて笑った。
「ごめん、それもう買ってあるんだ」
「……そうなの?」
「そりゃそうだよ。大好きな映画だもん」
「……そっか! そうだよね、ごめん」
いいよ、と心底おかしそうに笑いながら直が私の手を取った。あの事件からこういった細やかなスキンシップが増えたように思う。その時の彼女は優しい顔をして微笑んでいることが多くて、見惚れてドキドキしてしまう。
「あの時は断っちゃったし、今回は甘えちゃおうと思うんだけど。いいかな?」
「……いいの?」
「そっちから誘ってきたんでしょ? あ、もしかして、部屋がまだ片付いてないとか?」
こちらの顔を覗き込みながら意地悪そうにそう言う彼女を見て、胸がきゅっと締め付けられる。
「……好きだなぁ」
あまりにたくさん貰いすぎて心から溢れて声に出てしまう。
前のようにどこか暗く湿った感情ではなく、今は本当に大切で愛おしくこの言葉を伝えることが出来ている。
それが他の何より嬉しいと、温かな気持ちに包まれている。
「知ってる。ほんと、亜子は私のことが大好きなんだねぇ」
「うん。大好き。直のための消耗品でもいいぐらい」
「なにそれ。何かの歌詞?」
冗談混じりで会話を続ける。お酒買ってあるよ、と直に伝えると「あんな目にあったのに懲りてないの?」と頭を叩かれた。そうは言うけれどお酒は好きだし。今日は冬に入りかけにしては暖かく飲み日和というやつで。直も本心で言ってないことが分かるので、笑ってごまかした。
私の家までもう少しだ。この角を右折して、川沿いの枯れた藤棚を眺めてお気に入りの曲を口ずさめば到着する。
ふと、直の顔を見た。
丁度あちらも私のことを見ていたようで目が合う。なんとなく微笑んでみると、びっくりしたような顔をして視線を逸らされた。
何故だろうと、回り込んで彼女の顔を正面に捉える。
思わず、声が出るほど驚いてしまった。
「なんでそんなに真っ赤なの?」
「……うっさい見ないで、えっち」
「いやでも好きな人の顔だし、何か真っ赤だし」
「今好きとか言わないで」
「……もしかして、これはもう一押しかな?」
ぽろりとこぼれ落ちた言葉には冗談と期待が含まれていた。
だって、怒った口調で話すその横顔は、あの時のような物でも、これまで見てきた物とも全くの別物ですら初めて見る顔だった。
でも、私はこの表情をどこかで見たことがあった。
それはすぐに思い当たった。直のことを考えている私の顔とそっくりだったからだ。
「……かもね」
「……ほんと?」
「んー、わかんない。でも前よりは亜子のこと、そういう意味でも好きだよ私」
ちゃんと考えてるんだよ、という直の言葉が遥か遠くの音に思えた。
鼓動が早くなる。
足に羽根が生えたようで、前へ前へと進もうとする。
「こら亜子! 走んないで!」
「だって、もう、なんか、楽しい!」
大きな声で笑う。
早く家に行こう。
早く映画を見よう、お酒を飲もう。
そして早く、私のことをどう思っているかもう一度訊こう。
また振られたって構うものか。ごまかされたって良い。今の私に怖いものなど無かった。
急に、これからの人生が楽しみで仕方なくなる。視界が倍以上に開けた感覚がして、世界が更に色付いて見える。
道行く人々に意味もなくお礼を言いたくなる。
今までしてこなかったケンカをたくさんしよう。思っていることを、本音をきちんと言い合おう。
これからだ、と思った。
これからが私達の本当の関係が始まるのだ。
また1から、私達で幼馴染を始めよう。
色めき立つ世界の中で、ふと横を見ると艷やかな直の髪が踊っていた。
私はまた、この美しい黒色の花を隣で見ることが出来るのだ。
それはどんなことよりも幸せだと思い、また笑った。
積み重ねたエモーション ほしくん @hoshikun0421
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます