3話:覚悟

『学園都市ソロモン』


 世界最大の能力学園都市として有名な、この都市は大きく分けて5つの学園・学院から出来ている。

 僕がいるのは学園都市のなかで北に位置する『北都学園』。ここは「様々なランクの能力者を集め同時に訓練させる事で、低ランク能力者のランクを引き上げる事が出来るのか」という実験のために創られたとされる学校である。

 なので低いランクから高いランク、様々な種類の能力者が仕切りなく集められる。これのおかげ?か北都学園は5学園の中で比較的に差別意識が薄いと言われている。

 が、俺が察するに、それはただ強い奴は強い奴と、弱い者は弱いもの同士でつるむから結果的に差別がないように見えるだけで、結局というか、やはりと言うかーーーーー


「雑魚能力者程度のくせして調子乗りやがって、ぶっ潰して力の差を自覚させてやるよ」


 こういう風にイキる奴がいる訳で、


「なんで私まで……」


 いざこざに巻き込まれる無関係の人もいるのである。

 殆どなんにも関係ないのに巻き込まれた彼女からしたら相当面倒くさい事になってるんだろうなぁと思いながら、溜息をつく彼女を見ると申し訳なくなってきた。


「ごめん……」

「別に……気にしてないわよ。貴方は私の事をかばって怒ってくれたんだし」

「いや、別に、そういう訳じゃーーー」


 と、巻き込こむまいとしたのに結局巻き込んでしまった、という決まりの悪さからか魔女さんに言い訳しようとしているとーーーーー


「設定できたぞ」


 声のする方向を見ると、大柄な男子生徒がなにかの大型端末を弄ってりながら話しかけてきた。


「2vs2の疑似戦闘プログラムに設定した。お前は……そこの魔女さんっぽい人とのタッグでいいか?」

「あ、ああ。俺はいいけど……それで良いか?」

「ええ、それはいいんだけど……まじょ……魔女さん……」


 隣の魔女さん(名前まだ知らない)はその呼び方に不服を感じているようだが、ぶっちゃけるとクラスメイトの自己紹介すらしていない状況なのだから仕方ない。

 それはそれとして……周りを見渡すと他の生徒は面白がるように傍観の姿勢を貫いている。


「誰も止めないんだな」

「……この学園にいる人はだいたいみんなそんな感じよ。人の事を助けようとする能力者なんてほんとにごく一部。そして、そのなかで実際に人を助ける事ができるのは本当に強い能力者だけ」


 彼女がそう冷たく答える。

 思わず彼女の方を振り返ると、言葉とは裏腹に彼女の瞳は悲しげに伏せられ、まるで何かを嘆いてるかのようにみえた。


「まぁそれもしかたないのかもな。ここはくそったれの弱肉強食が基本原則。周りを助けるキャパシティを持てる奴なんてそうはいない。……でも、だからこそ俺はお前の事、気に入ってるんだぜ」


 何か声をかけようかと戸惑っていると、さっきの大柄な生徒がそう笑いかけてきてくれた。やはり少し気恥ずかしい。


「……そんな風に言われると少し照れるな。君の名前は?」

「相澤権悟っていうんだ。よろしく」

「あ、え、うん。僕は葉有亜一って言うんだ。よろしく………なぁ、ずっと気になっていたんだけど、どっからその端末持ってきたんだ?」


 大型端末に対する好奇心に負けてしまい、自己紹介も程々にずっと気になっていた事をきいてしまう。


「あ?ああ。これか。先生の荷物を探ったらあった」

「なるほど……なるほど!?」

「これがあればここの設定権にアクセスできるんだ。幸いアクセスパスコードは俺の能力で解除できたしな。」


 それは能力の不正使用なのでは……と、喉まででかかったがどうにかこらえる。相澤はそんな俺の様子に気付いていないのか興奮気味にまくしたててくる。


「凄いんだぜこれ。フィールドの障害物から温度、湿度、試合によるダメージの浸透率。果ては天候まで設定できるんだ」

「へぇ……ダメージの浸透率すらも……」

「もちろん、専用のガードスーツを着なきゃ駄目だけどな」


 純粋な驚愕と相澤君の熱弁に驚いていると、後ろからクイクイッと制服をひっぱられた。何事かと振り返ると、そこには魔女さんが青い例のガードスーツを2つ分持ってきてくれていた。


「これ着て。後、話があるんだけど」

「いつの間に……ありがとう。で、話って?」

「この模擬戦、勝ち目はあるの?」


 予定にない模擬戦。相手の能力は分からず、しかし相手は俺の能力を知っている。単純な情報戦でも、そして勝負を簡単に吹っかけてくると言う行動から、おそらく力量でも負けているのだろう。これだけ見るとアイツとの戦力の差は歴然としているように思える。


「正直にいうとーーー」


 そんな状況だからこそ、俺はすうっと息を吸うと彼女の顔をしっかり見て答えた。


「ない」

「ないんかーーーい!!」


 相澤君に思いっきり突っ込まれてしまった。


「ごめんなさい……ついカッとなって言い返しちゃって…」


 だってちょっとイラっときたから言い返しただけでまさかこんな事になるとは……なんて、現実逃避気味にぼやいていると魔女さんが呆れたようにこちらを見ながら溜息をついた。


「はぁ……そんな事だろうと思ったわ。じゃあ私の作戦を聞いて」

「?」


 ーーーーーーーーー


「その作戦、なかなか厳しくねぇか?」


 相澤君が厳しい表情を浮かべながらそう呟く。


「ええ。でもこれくらいしないと、おそらく彼らには勝てない」


 同様に魔女さんも厳しい顔をしているが、その瞳には相澤君とは違い希望が浮かんでいる。


「どうするの?」

「どうするんだ?」


 そして急に二人そろって俺の方を向いた。え、急にこっちにふられても困るんだけどーーー


「だってこの作戦は貴方の犠牲を大前提としているものだから、貴方が嫌と言うのであれば私は強制しないわ。決定権は貴方にあるわよ」

「そうだな。これはお前が『どれだけ粘れるか』にかかってるといっても過言じゃない」


 僕の表情をみて察したのか魔女さんと相澤君が追加説明してくれる。義理堅いんだな、なんて思いながら僕はしっかり頷いた。


「僕に拒否権はないよ。魔女さんを巻き込んだのも元を正せば僕のせいなんだし、それで勝てるのであれば僕はそれをするだけだ」


 僕の返事を聞いた二人は方やにっこりと、方やニヤッとした。


「わかったわ」

「そうか。俺に出来るのは審判と、大事にならないように見守る事だけだが……勝てよ」


 相澤君はそういって観客席の方に帰っていく。相澤君がフィールドを出たとたん、ビィーーーッとけたたましいブザー音が鳴り響きフィールドの外周に半透明の外部保護膜が張られていく。


「いよいよね」

「そうだな」


 ちらっと彼女の顔を見ると、彼女の顔には少しの緊張が浮かんでいる。


『これより疑似戦闘訓練2vs2を開始します。制限時間10分』


 電子的な音声がもうすぐバトルが始まる事を告げる。それとともに高まる歓声を、聞き流しながら僕はふと、いつもと違う事に気付いた。


『どちらか片方のチームを戦闘継続不能にする、または降参する、という条件を満たした時点で疑似バトルは終了とします。制限時間をすぎた場合は同着とします』


 やはり僕も、彼女と同じかそれ以上に緊張しているんだろうなとぼんやり思う。しかしそれは、あの嫌な緊張感ではない。どうしてなのか……そんな疑問を僕は奥に押し込めて、目の前の事に集中する事にした。これが終った後でゆっくり考えれば良い。


『BATTLE LET'S START!』


 僕が覚悟を決めると同時に鳴り響くブザーに、魔女さんと僕は駆け出したーーーーー



 3話目担当:FIHT

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