2話:短気は損気
気持ちと同様に重たい足を引きずり、測定場所に指定されたホールへと向かった。
途中でまたも視線の圧力を感じたが、僕の関心はもうそこにはない。
これから一番回避するべき、忌まわしき時間がこれから始まるのだ。クラスメイトの面々は緊張 したり楽しそうであったりと色々な表情を浮かべているが、僕はきっと絶望した顔でもしているのだろう。
そんな風に悶々としていたら、あっという間に僕の足は目的地であるホールに辿り着いてしまった。
「はぁ……」
ドアの隙間から大勢の生徒と、それをまとめる教師の姿が見える。ここまで来たのなら、もうやるしかないな………
溜息をつき、僕は嫌々生徒の集団の中に混ざった。 それからしばらくすると生徒全員の点呼がとられる。
鉛野は、生徒達が集まり整列したのを確認して口を開いた。
「まずは、能力をざっくりとした分類......アタッカー、ディフェンダーに分ける。測定器が必要な者は、勝手に使ってくれて構わない。これから渡すプリントに自分の能力を書いておいてくれ。ディフェンダーは自己申告で頼む。一応言っておくが、盛るなよ? 後で苦労するのは自分たちなんだからな」
そう言い終わると、すぐにテストは始まった。 皆それぞれが強力な能力を持ち、工夫次第でさらにその力はさらに有能になる。そんな能力を目の当たりにしてしまうと、自分の無能さがどうしようもなく惨めに思えてくる。
「ひゅー!何だお前の能力!すげえな!」
「お前こそ。どうやったらそんな高威力だせるんだーーーー」
派手に能力を使っては歓声をあげる同級生を尻目に、自己申告用のペーパーの要項にひたすら書き込んでく。
ペーパーを書き終わり、ふと周りを見ると測定器を使っているのは最後の1人になっていた。 皆がド派手で高威力、高性能な能力を発揮していたが、その最後の一人ーーーー朝の時に席を間違えてしまった相手の、魔女っぽい?子は違った。悪い意味で。
彼女の能力は氷を創造し操作する、という能力に見えるのだが……問題なのは威力で測定器にすら当たらない程に、弱い。
彼女も相当苦労してきたのだろう。この都市では弱ければ弱いほど強者に虐げられ、利用されるーーーなどと、そんな事を思いながら、つい彼女に己の姿を重ねてしまう。
そうこうしているうちに検査は終っていたらしい。
「よーし、全員測定し終わったな?よし、じゃあこれから何をしてもらおうかなっ、と...」
鉛野がそう言いながら考え込みはじめた時、ノイズと共に女性らしい音声の放送が入った。
『鉛野先生、鉛野先生、早急に応接間までお願いします。繰り返します......』
「......って事らしい。俺は少し席を外す。まあ一応一通り検査は終ったから自由行動で良いぞ。あー......それと、能力が使えるからと言ってはめを外しすぎないようにな。」
そう皆に釘を刺して鉛野がホールを出て行った瞬間、一斉に喋りだすクラスメイト達。残り時間何をした
もんかなぁと考えながらぼんやりしていると、突然背後から話しかけられた。
「なあなあ!君ってあの伝説の能力者の子供なんだろ?君の個性がどれだけのものか見せてくれないか?」
金髪イケメン高身長、僕が嫌いな種族、パリピ。又の名をチャラ男。そんな野郎が話しかけてきた……。 周りからすれば一見普通に話しかけたかのように見えるが僕から見ると口元に浮かんだニヤニヤでいつものだと分かってしまう。
きっとこいつも俺の能力については知っているのだろう。知った上で話しかけてくるのだ。
こういった事は今までも何回かあった。
あれは小学生の頃だっただろうか、友達だと思ってたやつに能力を話した途端に俺のことをバカ にし始め、そいつから親へ、親からメディアへ友達本人からはネットへ。 有名人の子という看板を背負う俺にはプライバシーなんてものはハナからなかったのだ。
そんな事が何回か繰り返された結果、皮肉な事に、この学園で僕の顔、能力など知らない者は殆どと言っていいほど居なくなってしまった。
「英雄の残りカス」「能無し」「人類の絶望」
殆どの人は俺の事を指差してそう言う。
そんな言葉ばかりを言われたせいか、俺にとっての能力とはトラウマのスイッチと何ら変わらない。怖い。ただただ怖い。バカにされるのが、貶されるのが、侮蔑の対象となるのが、怖い。
だが、教えてしまえば、本当の無能とバレれば、興味はすぐにどこかへと言ってしまう。
ここが正念場だ。
「……分かった。僕の能力は簡単に言うと、触れている相手の感情を色として認識することができるって能力だ。今言った通りサポート系の能力だから誰かに手伝って欲しいなー、なんて」
さっさと見せてしまって、馬鹿にされてしまえばもう俺に関わってくるやつなんていなくなるだろう。
そんな事を考えていると、思案顔でチャラ男は呟いた。
「感情、ね...…じゃあ、そこの魔女っぽい君、やってみてくれない?」
何の因果か、チャラ男の野郎が俺の相手に選んだのは、例の魔女っぽい?子だったのである。
「......別に良いけど、なんで私なの?」
ああ言ってるが、俺は何となく分かった。あの子、朝と表情が全く変わってない。全くの無表情、そのせいか内心が読み辛いって事なんだろうけどーーー
「だって君、ずっと無表情じゃん」
………う、うわぁ。こいつ、どストレートに言いやがったよ。お前の辞書に気遣いって言葉は存在しないのか?そう内心、戦々恐々しているとーーー
「なるほど。私は無表情だから感情が分かりづらいってことね。はぁ...…さっさと終わらせましょう。」
そう言うと彼女は急に俺の手を握ってきた。
「………っ」
握る必要は無いのだけど……急に手を握られて動揺してしまいそうになったが、外聞はどうにか取り繕えたーーー気がする。もう高校生だもんね、それくらいできなきゃだよね。
「……ああ、うん。手伝ってくれてありがとうーーーじゃあ、いくよ」
「…………」
こくりと彼女が頷くのを確認した僕は、能力を発動させた。
能力が発動すると僕の見える世界は一変する。
その世界の色は白と黒。そして彼女の身体に表れる感情の色だけだった。
「見えたよ。手伝ってくれてありがとう」
「どんなだった?」
この金髪野郎、退屈だから早くしろと言いたげな顔だな。顔に出てるぞ?☆
そう高校生なんだからポーカーフェイスくらい憶えような?
「いや、プライバシーな部分だし、本人だけに教えるよ。みんなは反応で確かめてみてほしい」
途端に落胆した顔をするクラスメイトたち。
こいつら常識ってもんがないのか?感情だぞ?人の心のかなりコアな部分を人前で言うはずがないだろ。
そんな事を思いながら彼女の耳元で囁く。
「ーーーーーーー」
告げた途端、彼女の表情は険しさを増した。
「……そんな事は、絶対に無いわ」
そう小さく呟かれた否定は、俺の答えへの肯定を示している。
泣きそうになりながらも、険しくしかめられた表情はまるで自分を見ているかのようでーーー
「君は……」
「おいおい、弱い能力の癖して常識人気取りか?いいからさっさと教えろよ!どうせ弱い能力者なんだろぉ?プライバシーなんてお前らには無いんだよ!」
そう急にそう割り込んできたのは、すっかり仲間はずれにされて不機嫌っぽい金髪チャラ男。相当不機嫌になっているのか語調が荒い。だが僕はそんな事より、その内容に、キレた。
「なんだって………?」
僕が能無しなのは分かってる。分もわきまえている。それに、そういう風に言われる事には慣れている。
だけど、だけど、彼女は違う。
「……彼女は関係ないだろ、少し黙ってろ」
「はぁ?なんだお前、ナイト気取ってんのか?笑えるぜ。お前が教えないってんならいいぜ。ここはただの訓練室じゃない。能力を使った疑似戦闘も出来るようになっているんだ。ちょうどいい。お前の能力がどれくらい雑魚なのか、試してやるよ!」
無抵抗が1番簡単だったのに…
やっちまったな。
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