17 展示、半ばを過ぎて 前編

 結局31日に至っても指は腫れ、痛み、それどころか箸すら持てない状態になり、再度病院へ行った。この日を逃すとほかになかった。と、いうのも、1月31日で職場の健康保険が切れてしまうのだ。

 爪の中での出血量が多くて組織を圧迫して痛いらしい。爪にごりごりっと穴を掘って、たまった血を抜いてもらった。先生は「空気穴がいるから、穴は2個だよ」と言って実際そうしたので、吾輩の爪には今、文字通り針で突いた程度だが穴が2個、開いている。


 これでは闘病記だ。悲しいほど小規模な。

 吾輩は自称だけども画家なので、個展の話をするべきだ。きっときみもそう思ってこのページを開いている筈だから。


 在廊するのは吾輩1人。

 オーナーさんが開場前に照明なんかの世話はしてくれるけれど、ときには自分でやらなきゃいけない日もあるし、基本、帰るとき消灯戸締りその他諸々、自分でやって帰るのである。


 前置きが長くなった。

 つまり何が起きても自分1人で対応しなければならない、ということだ。

 うろうろと作品を見ている来場者様に解説をしていいものか。どんなふうに解説すればいいものか。声をかけてくだすったとしても、吾輩コミュ障。しゃべりながら喉をひゅうひゅう言わせて、要らんことまでしゃべってしまう。尻切れトンボと意味ない笑いでごまかしごまかし、めったにしない、だけれどこの時だけは分厚い化粧が脂汗で押し流されちゃあいないよなと心配をして、さらにいやぁな汗でシャツの背中、湿る。 


 それでも、多幸感もある。

 嗚呼、このひとは、わざわざ吾輩の展示を見に来てくださったのだ、というアレだ。


 各日の詳細については、後編でお話したいと思う。

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