02 夢、未練にて

 個展をするのは長年の夢だった。

 個展というと本当にちゃんとした(というのも変だが)画家の先生やイラストレーターの先生、あるいは彫刻家とかデザイナーとかそういう先生のするものだと思っていたが、この街のアングラ・アートシーンに触れていくうちに「頑張ればそれなりにだれでもできるもの」だとわかってしまった。

 わかっても夢が色あせることはなかった。

 周囲の限りなく「先生」に近いか、あるいは超越しているアマチュア作家さんの作品を間近で浴びるように観つづけたことに生来の後ろ向きがかぶさり、むしろ「自分程度の作品で個展をするのは、難しいな」とずっと感じていた。


 でも。それでも。


 実は計画を立てていた。作品とお金を用意するのに3年計画くらいで。

 ギャラリーのレンタル料自体は高くない。そのギャラリーさんが特別なのかなとは思うが、破格といってよい。いつも金欠に喘いでいる吾輩でも、そのくらいならすぐ捻出できそうだった。


 だが問題はレンタル料だけではない。


 たとえば、吾輩は絵を描く。水彩画とモノクロのペン画だ。これはそのままでは展示できない。額縁が必要だ。A4くらいまでなら、額は100円ショップで買える。それより大きくなると、ちょっと難しい。2~500円くらいの品物も扱っている100円ショップならば、運が良ければA3くらいまでの額縁が買えることもある。

 だけれどそれ以上のサイズや、あるいは小さくてもFいくつとかの絵画用のサイズ、もっと言うと、100円ショップで売っていないようなおしゃれな額縁が欲しい場合、価格は青天井だ。

 いいな、と思って値段を見たら万して愕然とした経験は枚挙にいとまがない。いいか、額縁だ。誰かが描いた絵が入っているわけでもない、新品の額縁だ。なのに4つか5つ買えば、ギャラリーのレンタル料を飛び越えて行ってしまう。

 ならば100円ショップで手に入るサイズの絵だけ描いて満足したらいいのかもしれない。

 だけれど、あのいとしいギャラリーで、最初で最後の展示になるかもわからないのだ。どうせなら、大きい作品の1つくらい描きたいし、そういうのを描いたなら、ちゃんとした額に入れたい。


 ほかに、もっとばかばかしい支出もある。

 衣装代だ。

 別に、ジーパンにスニーカー履いて、よれたパーカーで在廊したっていい。いいんだけれど、個展をするのに、その雰囲気に合わせた格好でいたいと思うのは自意識過剰だろうか。吾輩だけだろうか。その時だけはぱつぱつに見栄張って、作家先生の振り、してみたい。ゴシックパンクだったり、幽霊みたいな着物だったり、いわゆる書生スタイルだったり。とにもかくにも「吾輩、貴殿と違うので」を服装にしてみたい。中二病と言わば言え。吾輩にとって、気持ちいいからいいのだ。


 こういうわけで、出費が多い。

 捻出できるか否かも、考えていかねばならぬ。


 個展まで、あと、95日。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る