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 ようやくお腹いっぱいになって、ぼくは狼じゃなくなりました。見ると、周りは魔物の血まみれで、ぼくも魔物の血まみれでした。匂いも、血の匂いばっかで。なんだか、途端に怖くなりました、気持ち悪くなりました。

 お日様が顔を出していました。

 耳と鼻で探して、ぼくは川まで走りました。飛び込みました。すごい冷たかったけど、必死にごしごししました。血の匂いが、とれません。いっそ、皮膚を全部剥いてしまおうと思って、でも爪を突き立てたら血が出て、痛いし匂いは新鮮だし、震えが止まりません。怖いです、しゃくりが出始めました。

 がらがら、ぺっ、ってうがいしました。吐き出した水は真っ赤で、肉片が浮かんでて。歯に詰まってたのを取ったら、魔物の毛でした。頭を水の中に沈めて、またごしごしします。水の中なのに、血の匂いがする気がします。ぼくは、なんでこんなに息が持つんだろう。いやです、こんなのぼくじゃないです。ぼくは人間です。


 服を置いてきてしまったのを思い出したので、クマの魔物が居たところまで戻って、とってきました。魔物を見つけた時に放り出してしまったので、葉っぱとかはついていましたが、血はついてなくて、安心しました。

 でも、どうやって帰ろう。柵のところまで来て思ったけれど、あの膜の所為かは分からないけれど、村の中の音、全然聞こえません。柵で挟まれてるだけだから、いつもなら(間違いました、狼になれるようになった後なら、です)向こう側の音、聞こえるのに。

 夜が来るまで待ったとして、これじゃいつなら村に入っていいのか、分かりません。ひょっとしたら、ぼくが居なくなったので、夜の警備なんかがされるようになっているかもしれません。大人たちが、森から帰ってくるぼくを見たらどう思うだろう。膜を超えられるぼくを見たらどう思うだろう。いやです、ぼくはみんなに褒められたくて、嫌いに思われたくはないんです。ミリガン神父みたいな目は、こりごりです。


 たしかに、村の人が美味しそうに見えたことはあったけど、でも襲うことはなかったし、ぼくはみんなの傍に居て大丈夫なはずです。だけど、みんなは分からないから、見られたらダメです。

 なんで、みんな分かってくれないんだろう。ぼくはただ、おうちに帰りたいだけなのに、なんでこんなに考えないといけないんだろう。


 柵の周りを歩いていたら、塔を見つけました。昔見張りに使われていた、アリアとのお話に使っていた、塔です。

 ぼくは思いました。昔見張りに使われていたってことは、もしかしたら村と繋がる通路とかが、あるかもしれない。ぼくは耳と鼻で見ます。隠し通路があるなら、きっとそこを通る空気の音や匂いがするはずです。


 見つかりました。夜までおやすみなさい。

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