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 一日で、村はまるで変わりました。何人も人が死んで、牛や鶏、畑もダメになってしまったみたいです。

 魔物対策の武器やなんかは門のところにあるから、それで被害が広まったと大人たちが言っていました。何故そんなことをぼくが知っているかというと、ぼくは集会に呼び出されたからです。


 ぼくが朝起きると、いつものベッドに寝ていたので、きっと昨日のことは夢だと思いました。

 でも、『なろう』と思った次には、ぼくは狼になっていました。鏡は見てないけれど、腕が狼になっていたので間違いないです。部屋に入ってきたママが、悲鳴をあげました。

 戻ると、ごめんねって謝ってくれたけど、でもとても怖がっているようでした。


 ご飯を食べていると――アリアは先にご飯を食べてお手伝いに行ったみたいです――ダニエルお兄ちゃんが家に来て、ぼくに集会に来るように言いました。要件は言わなかったけれど、ぼくが狼になったことに違いないと思ったので、着いていきました。ママもいっしょです。

 通り過ぎる人とは、出来るだけ目を合わせないようにしていたので、どんな目をしていたかは見ていません。見てないってば。


 集会では村長さんはもちろん、ミリガン神父や、大工長のグレイおじさん、警備隊長のデニスさん、いろんな大人が来ていました。フォビオさんが被害状況の報告をしているところにぼくが入ってきたので、みんな一斉にぼくを見て、怖かったです。

 それから、していた報告を最後まできっちり終わらせてしまうと、みんなはぼくに質問をしました。


「前から狼になれたのか(魔物と言いかけて、それから口ごもって言い直したので、本当はもっとごちゃごちゃしていました。いやです)」

「いいえ」

「どうしてその姿になれるようになったのか、心当たりはあるか」

「いいえ」


 そうしてしまうと、大人たちは次の質問に困ってしまったようでした。でも、しかたありません。ぼくだって、分からないんだから。

 でも、分かったこともあります。


 あのね、匂いがしたんだ、脂汗の匂い。

 それにね、見えるんだ、眉毛が下がってたり、手を遊ばせていたり。

 あとね、聞こえたんだ、心臓がばくついてるの。ああ、いや、だなぁ……。


 じっと床を見ていたら、集会は終わっていました。集会所から帰る後ろの方で、ぼくだけに聞こえる声で「どうする」「変に刺激するのは」と言っているのが聞こえました。


 家に帰ると、ぼくは自分のベッドに潜りました。手だけ狼にしてみました。

 ちゃんと言うと、ぼくの手は狼の手じゃないです。人間の五本指の手を大きくして、毛皮をかぶせて、さきっちょに鉤爪をつけただけ。狼じゃないです。

 掌に、肉球が出来ていました。

 まだお昼だけど、おやすみなさい。

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