第5話 セカンドバイク

有希は心配なことがあった。


有希の愛車であるモトグッツィのグッチーノのマフラーからの白煙が増えてきたような気がするのである。


古い2ストロークのバイクだから多少の白煙は付きものだが、グッチーノに乗り始めた時から比べると明らかに増えている。


最初は、ガソリンに混ぜるオイルが多すぎたかなと思って、次に入れる時は少なめにしてみたが、白煙の量は変わらなかった。


それと、もう一つ有希には悩みがあった。有希の父が自分もバイクに乗りたいから何か探してくれと言っているのである。


父の会社で営業用に使っているスーパーカブやスクーターでいいじゃないと言ったが、グッチーノと一緒に走って似合うバイクがいいと言う。


面倒だなあと思ったが、有希の母に、お父さんはあなたと一緒にバイクで走りたいのよ、と言われて、グッチーノの件と合わせてバイク屋の店主に相談する事にした。




「摩耗が進んできてますね。」


グッチーノの主治医であるバイク屋の店主は、グッチーノを見てあっさり言った。とは言え、今すぐどうこうという訳ではなく、折り返し地点を越えた感じだと言う。人間なら中年となってそろそろ老化が本格的に始まってきたようなところか。


このまま乗り続ければ、だんだん性能が落ちていき、いずれどこかの部品が限界を迎えたところで、動くことができなくなる。ただ、そうなるまでには、まだ十分な時間があるということだった。


有希は悩んだ。このグッチーノは祖父の形見だから、動かなくなる状態にはしたくない。だが、有希はグッチーノで走るのが好きだった。休みの日は大体グッチーノで出かけている。



「何か気に入るセカンドバイクを探しますか?」店主はのんびりと言った。


「おすすめのバイクはありますか〜。」


店主は、イタリアからこの手の小さいバイクを仕入れることはあまりないという。小さくても、掛かる手間は大きめのバイクとあまり変わらないが、高くは売れない。だから在庫もあまりないのだが、、、


店主は奥の倉庫に引っ込むと、1台のモペッドを出してきた。タンクのデカールを見たところ、同じモトグッツィらしい。


「これはグッチーノと同じモトグッツィが60年代に作っていたモペッドで、ディンゴと言います。50ccですが設計が新しいので、グッチーノよりはよく走ると思います。年式が新しい分、気兼ねなく乗り回せますよ。」


なるほど、ディンゴはガソリンタンクもエッジが効いたシルエットで、グッチーノよりはモダンな感じだった。


エンジンをかけてもらうと、時代が新しいせいかパワーはありそうだが、フィーリングはグッチーノとは全然違うようだった。


「グッチーノと同じようなフィーリングのバイクがいいんです〜。」


「難しいこと言いますね。」店主は苦笑した。


「それなら、グッチーノと同じ時代のモトグッツィのバイクの方が良いかもですね。アイローネとかガレットとか。」


「今、お店にありますか〜。」


「残念ながら、ないです。今度イタリアに行ったら探してみます。」


有希はとりあえずディンゴを購入することにした。グッチーノは引退させて、普段は自分がディンゴに乗って帰省した時は父に乗ってもらう。しばらくはそうやって、その間に店主にアイローネとかガレットとやらを探してもらおう。それは実にいいアイデアのように思えた。


「アイローネとかガレットに乗るには、中型免許が必要です。見つかるまでに取っておいてください。」


店主がさらりと言った。


やれやれ、、、また教習所に行かなきゃいけないのか。

実技教習が苦手だった有希は深いため息をついたのだった。



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