第4話 ナイトライド

佳は憂鬱だった。


今日、法事があって静岡県の実家に戻ったのだが、法事の後の会食で父から卒業後の進路について聞かれたのだ。


父としては、当然、佳が地元に戻ってくるものと決め込んでいて、父が経営する会社に入社するか、何かしたい仕事があるならツテを当たってやるぞという感じだった。そばで2人の兄がうんうんと頷いている。


佳は、まだ早いよと言ったが、父と兄たちは早く決めて、残りの大学生活を楽しく過ごしなさいと言った。


もともと、大学生活を東京で過ごしたいというのは、佳の希望だった。佳を溺愛している父と兄たちは大反対したが、一度地元を離れて暮らしてみたいという佳に折れたのである。


「美生とずっと一緒にいたいなあ。」


ベッドでうだうだしているうちに夜もすっかりふけてしまった。だが、今夜はまだ眠れそうにない。


ふとリビングのモトムが目に入った。佳は衝動的に起き上がった。


佳は一人の時に、モトムに乗ったことがない。いつもは美生がガソリンを入れてエンジンをかけてくれる。佳は美生がエンジンをかけた時のことを思い出しながら、何とかエンジンをかけた。暖気をすませてから、あてもなく走り出す。


古いバイクはライトが暗いので、夜走らない方がいいとバイク屋の店主に言われていた。モトムのツールケースに入れてある自転車用のライトを追加でつける。


あてもなく走っているうちに、結局、美生の家の前まで来てしまった。美生に気付かれたくないので、少し離れたところでエンジンを止める。


美生の部屋の明かりは、まだついていた。佳はしばらくその明かりを見上げていた。


どのくらい時間がたったのか、美生の部屋の明かりがふっと消えた時、その明かりが佳の中に灯ったような気がした。


明日、美生に相談しよう。きっと美生も私とずっと一緒にいたいと言ってくれる。


「なんとかなるさ、なんとかするさ。」


佳は歌うように言って、夜の街にモトムを走らせて行った。

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