第2話 カプリオーロ
「え?」
美生は固まった。
「店主さんは、私の父を知っているんですか? 私、何も教えてもらってないんです。」
店主は、しまった、という顔をした。まさか何も知らされてないとは思わなかったのだろう。
「教えてください、私の父はどういう人だったんですか?」
店主は美生の母より前に、美生の父のことを話してもいいものか、悩んでいるようだった。だが、美生の目を見て、美生が引き下がりそうもないことを悟った。
「美生さんのお父さんも、うちのお客さんでした。美生さんのおじいさんとは、この店で知り合った年の離れた友人だったんです。」
「美生さんのお父さんはバイクにのめり込んで、高校を卒業してからはアルバイトをしてバイクを買ったりロングツーリングをしていました。おじいさんは、そんなお父さんを家に呼んで食事をさせたりしていたんです。それで美生さんのお母さんと知り合い、結婚されたそうです。」
「美生さんのお父さんは、美生さんが生まれてすぐに病気で亡くなられています。」
店主はパソコンを操作して、何かを探しているようだった。モニターに男性の画像が映し出される。
美生と同じ、ぼさぼさの茶髪で痩せぎすのまだ少年らしさを残した男性。
美生は夕食が終わって、母の機嫌が悪くなさそうなのを見て切り出した。
「また、バイクなの? いい加減にしたら。」
セリフほど口調はとげとげしくはない。
美生は、バイクの画像を印刷した紙を見せた。
「これ、お父さんのバイクだったんだよね?」
母は一瞬、言葉に詰まった。顔に悲しみや怒りや後悔など色々な感情が混じりあった複雑な表情を浮かべる。少しの沈黙の後、絞り出すように言った。
「カプリオーロ、、、」
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